106話 さようなら、私自身
「このショタコンが!」
「あああ言わないでよおお!」
いやもう犯罪の域じゃない?
一回り年下でも限度あるよ。九十歳と八十歳じゃない、十代と……いや例えるのやめよう。
いや社会人とお子様じゃなかっただけいいのか? 年の差二十歳で結婚なんて話はこの世界の新聞で見た気もする。それと比べれば一回りなんてかわいいものだ。いや、そもそも。
「何故それを今言う」
「とってつけたように言ったけど、よくよく思えばディエゴの事は気掛かりではあったのよ」
このオルネッラの発言を思えば、ディエゴと一緒にいる時にオルネッラとの過去を思い出していたのは、ディエゴに対する想いがあったからこそなのかもしれない。
お花の取り合いのくだりを考えると男女の好きというよりは、弟を見てるような感じもあるけど。そうなるとオルネッラの場合は、恋愛要因というより家族愛に近いものの気もするけど、そこは言及しなくてもいいか。オルネッラが恋愛感情だと思ってるなら、それでいい。小さい頃のディエゴも報われるし。
「最期まで言えなかった、擦れ違い系両片想い」
「なにそれ、すごくいい表現」
「今自分でも良い事言ったと思った」
いや、ここで両片想いに盛り上がられてもか。本当最初に言えばよかったのに。
「オリアーナの成長見たかったまでなら良い話だったのに。何も後付けで言う必要なかったじゃん」
「つい自分に正直に話してしまったというとこかな。チアキは私だから」
「それは嬉しいよ。まあでもねえ……かくも愛の強さたるや」
「それな」
最初はもちろんオリアーナを見る目と同じだった。
もしかしてと思ったのは、今になって魂で再生されてからだと。当時確かに萌えと癒しの視点でしか見てないのは、言わなくても感じられた。同じ魂だから間違いない。
「チアキの気持ちに影響されて、私がそう判断したともとれるんだけど」
「私? 逆でしょ。影響されるなら、元であるオルネッラの気持ちが私に影響するんじゃないの?」
「認識だって逆行するわよ」
「適当な事を」
「ま、私の事は過去の話よ。関係ないわ」
開き直った。さすが私、逆にすがすがしいぞ。
ショタコンのくだりとか、もう忘れてるでしょ。
「それに今のディエゴは、私ではなくチアキが好きだもの」
「そう?」
「そうよ。私、魂再生して失恋するとかひどくない?」
「そう言われても」
いいや、もうオルネッラとディエゴの両片想いについては考えるのよそう。
大事なのは、一番が因果。二番目がオルネッラの多数の心残りという要因。この二つによって、私がこの世界に戻る一因になったということ。その大事な事だけ漏れてなければ大丈夫。
「まあ私の気持ちの話は蛇足だったわね。ディエゴとお幸せに」
「オルネッラまでオリアーナみたいなこと言わないでよ」
せめて私の味方をしてちょうだい。私自身よ。
他人事すぎやしないか。いや、確かに話の合うツボが同じオタク友達なノリだから、自分自身感ないけど。
「またまた。まんざらでもないくせに」
「いや、私の気持ちきいてないよね?」
「私も割かし鈍い方だったけど、チアキも大概よね」
「鈍いとな」
「きちんと自分の事考えなさいよ」
私が言えたことじゃないけど、とオルネッラ。そうだね、私もオルネッラも自身が大好きな人の為に動く事を考えてた。私が決めた事だから、きちんと私の為になってはいるけど、たまに部分がおざなりにはなっていたかもしれない。
「ずっとチアキを繋ぎとめてくれてたんだし、起きたら褒めてあげなさいよ」
「誰を?」
「ディエゴ」
「繋ぎとめる?」
「そ、左手」
ああ、オルネッラと対面してから、ずっと温かい左手ね。魔法の副作用かと最初は思っていたけど、まったく害がなくて助かった。
「そろそろ時間切れね」
「そんな時間なの」
「ええ」
「えー、もっとオタクトークしたかった」
「それは本当に」
お互い悩ましく悶える。たぶんこの世界での癒しの話はオルネッラしか強く分かり合えない。なんていったって私自身なので。シリアスよりもオフ会トークで大盛り上がるが良いに決まっている。
「時間全然足りない」
「わかってる」
「この世界がどれだけ癒しと尊さに満ちてると思ってるの?」
「それもわかってる」
オルネッラ曰く、今魂の再生が成されたからこそ、私の記憶も把握していた。
それなら初めから今の今まで、私が一人もんぞりうっていたのことを分かってくれるって事じゃない。
一話からオーディオコメンテータリー開始しないとじゃない?
時間切れなんておかしい。
「まあ、感謝を伝えられただけでも良かったよ。真相も知れたし」
「そうね。私も楽しかったわ」
最後にお願いしてもいい? と、しおらしくオルネッラが笑う。美人の願い事は基本的に大歓迎。
「オリアーナに幸せになってね、って」
「うん、伝える」
「ありがと」
「こっちこそ、色々ありがとう」
オリアーナに連れてこられた時とは違うけど、左手を引っ張られる。
同時、オルネッラが遠くなっていく。最後は笑顔で別れる事が出来た。
「チアキを通して、あの子たちの笑顔が見られてよかったわ」
暗転。
ゆっくり瞼を上げれば、今や見慣れた天蓋が見えた。
「チアキ?」




