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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
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103話 何度もやり直す、あの日の事故まで

「王都で馬車の正面衝突があったり、オリアーナは私が目を離した隙に馬車に引かれてしまったこともあったわね」


 馬車に縁があるのか。

 それならばと家の馬車を片っ端から壊してみせれば、商談相手や両親の友人とやらが馬車を用意してくれたりと、なかなかそこから抜け出せない。

 馬車に縁があるとしたら、この場合この世界の馬車全て壊さないとダメなのではと思える。それはいくら三ヶ月あったとしても難しい。それに馬車で死ぬ事に根拠がない。そうなるとなるたけ馬車事故に留意しつつも、別の方法を模索するしかなかった。


「二人一緒にいても回避できないし、二人を引き離してもだめ、馬車壊しても無駄、同伴者が別人でも死ぬのはお母様とオリアーナだけだった。だから私はお母様に自ら申し出たわ」


 件の日の数日前、母が予定通り馬車で出かけるというルートに入って、私は母に願い出た。


「お母様、別荘へ行く日をずらして頂けませんか」

「オルネッラも一緒に行きたいの?」


 貴方もまだ可愛いわねと微笑む母親に、本当のことを言おうか悩んだ。何度やり直しても二人が死んでしまうと。だから協力してほしいと。

 けどそれは、自分が持ち出し禁止の書籍を使っている事が知られてしまうということだ。持ち出し禁止書籍の魔法は原則使用厳禁。話の広まり方を誤れば両親はおろかガラッシア家自体が傾く可能性もある。それに貴方死ぬんですよと言われていい気分になる者などいない。とてもではないが、正直に話す気にはなれなかった。


「いいえ、違うのです。ただその日だけはどうしても避けて頂きたくて」

「何故?」

「それは…………だめです、言えません。せめて、せめて日を変えて下さればいいのです。どうかお考え直しを」

「オルネッラ、貴方……」


 母親は私の尋常ではない様子に違和感を抱いていたが、ふいと視線を斜め下におろして静かに瞳を閉じた。


「私は無理よ」

「え……」

「私は違えない。後は貴方が決めなさい」

「どういうことですか、お母様」

「話は終わりです。貴方ももう寝なさい」

「そんな、お母様」


 今思えば、このルートの時にすでに感覚で理解していた。母は死ぬ意思をもっていたことを。

 けど、その時私が決めたことは取捨択一することだった。


「この会話の後からはオリアーナだけを助けると決めたわ」

「そっか」


 両方助けるという願いを捨て、可能性が高い方を生かすために動くことになったのは罪悪感が伴った。けど母親の助けは得られない。幼いオリアーナには死を背負わせたくなかった。

 これは私が再びやり直しのスタート地点に戻ったようなものだった。引き離しても死んでしまうことの解決法は見出だしてなかったのに、どこから救いを見出せばいいか。

 挙げ句側にいて事故に遭っても私が生き残り、オリアーナが死ぬなんてこともざらにあった。オリアーナがかばってくれたり、私がかばっても何故か致命傷はオリアーナに向かうといった具合に。

 二人の遺体を見ては戻ることを繰り返す。何度も同じ人の死ぬシーンを見続ける。何度も何度も。


「長すぎる……」

「そりゃ漫画やアニメみたいにはいかないわよ」

「あれはおいしいとこだけピックアップしてるからね。ストーリーの要とフラグ回収的なとこしか出ないし」

「そうよ、実際シリアスな場面で逆行なんてするものじゃないわ」

「せやな」


 何度もやり直してもオリアーナが救えない。仕方なく、再度母親へ願い出た。今度は予知とか予感的な要因で二人が危険な目に遭うという主旨で訴えた。

 すると母親は瞠目して、しばし沈黙。いくらかの逡巡を瞳に見せて、悲しそうに微笑んで決別の言葉をたたき付けてくるとは、この時はさすがに予想していなかった。


「私の血は呪われているから、死ぬことで報いを受けます」

「お母様? それは、どういう意味なのですか」

「貴方も私の血を引いているのね」

「え?」

「予知の力がここで目覚めるなんて皮肉だわ」


 これ以上、母親が何かを私に伝えることはなかった。

 けど、この抜けられない死のルートが母親に起因してるのがわかっただけ僥倖と言える。だから、次の逆行で残るのを父とオリアーナにし、私は母と馬車に乗ると決めた。

 そこに死が待っていようとも。


「本当憂鬱どころじゃなかったわよ」

「そりゃそうだろうね」

「でもね、ほら」

「なにあれ可愛すぎて眩しい」

「それは同意」


 馬車の確認は念の為しておこうと確認しに行くとオリアーナが馬車の車輪に何かをして、焦るように去っていく姿が見えた。

 気になって車輪を調べれば魔法がかけれていて、それが願いの魔法だと知れた。あの様子からすると別の魔法をかけたつもりのようだったけど、それでも当時の私にはそれが唯一の救いだった。


「オリアーナが車輪に願いの魔法をかけてくれてきて、私はそれで馬車に乗ることができたわ」

「お守りね」


 最後の一歩進む勇気をくれた。最期に見たあの子の顔が笑顔じゃないのは残念だったけど。


「ええ、さすがに今回は私が死ぬとわかっていたのよ。確信的なものはどこにもない、また母とオリアーナが死ぬかもしれないのに、その時だけは自分の死を感じていた」


 それが予知の力なのかはわからない。けど、その思いと考えは現実になる。

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