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クールキャラなんて演じられない!  作者:
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
100/164

100話 さて、もう一人の私。話をしよう

「始めようか」

「ああ」


 ディエゴが約束の時間通りやって来た。

 決行場所は今や自室として使ってるオリアーナの部屋だ。結婚前の男女が個人の寝室で会うのはこの世界的にいかがなものかと考えたけど、ベッドが必要だったから致し方ない。

 ディエゴは相変わらず花束持って来てくれたはいいけど、その表情はなんとも言えず複雑そう。眉根を寄せて困っている。そういう顔をさせてしまったのは紛れもなく私だから、そこは申し訳ないなと思う。

 でも引き返す事はしない。


「何故俺なんだ」


 ディエゴはトットやエステル、オリアーナの名前を引き合いに出して適任がいたのではと言う。

 もちろん三人にエドアルドを加えて、二時間後に呼び出しをしている。エスタジはスケジュール的に難しいということだから、後々話す事になるけど、後からくる四人には、これから起こる事の説明をするつもりではいる。

 これだと立ち会いに選んだ理由にはならないか。


「オリアーナはまだ回復途中だから選ばない。うん、本当はトットとエステルが一番適任なんだとは思ってる」

「俺もそう思う」


 彼彼女の魔法に関わる純粋な力、制御力、知識、そういったことに加え、チアキとしての付き合いが長いことを考えると、本来ここに立ち会ってもらうべきは二人だろう。私もそう思っている。


「私がこの違和感を感じたのは、ほぼディエゴといた時だった」

「……」

「確信したのもディエゴといる時。ディエゴといるから意味があると思った」

「そうか」


 最悪何かおかしなことが起きても何もしなくていいと伝えた。たぶんそれは、誰に頼んでも難しい話だろう。私が立ち会いを頼む候補は、私に少なからず愛着を抱いている。

 助けずに見過ごせなんて、そうできないと思う。私がその立場なら抵抗するだろうから。

 彼には酷な事を頼んだなと今更気づいた。だって私以外は皆十代だ。大人びていたって精神力に限度がある。


「チアキがやりたい事は分かった。それで何がわかる?」

「そこはねー、憶測だから話せない」

「……」

「ディエゴもなんとなくは考え及んでるんじゃないの?」

「君の言葉で聞きたい」


 それは前も言われたね。

 オリアーナがオルネッラの馬車にかけた魔法が車輪を壊すものじゃなかったかを問うた時か。

 それも踏まえ、回答を得に行くのが今回やらかすことだ。


「ディエゴは反対しなかったね」

「本音を言えば止めてほしいさ。でも君はそれでもやるのだろう?」

「うん、よくわかってるね」


 実のところ、ディエゴを選んだのはここかもしれない。

 トットとエステルは今回に限っては本気で止めにかかってくる。いつも私が好き勝手することに対してあらゆる可能性を加味した上で前準備して対応出来るようにしてくれてるから、今までは何もなかったけど、今回にやることに関しては彼彼女もさすがに頷かない。

 あらかじめ相談していれば、それもまた違った最善の選択が出るとも考えたけど、結果的に私は私がやろうと思えた選択を選んだ。後で盛大に怒られるとしよう。


「自分の魂を割るなんて出来るのか?」

「一応あるにはあるんだよ」


 オルネッラの遺品であり、オリアーナが私をここに連れてきた最大のきっかけである複製本。

 魂に関連する部分で、魂を割るというそれは恐ろしい魔法が記載されていた。

 この世界に麻酔に相当する魔法やら薬やらがなかった時に使っていたとされる魔法。本当に使用されていたからは不明だが、大きな外科手術の際に痛みで先に精神や魂が大きく傷つくのを防ぐ為としている。半分にして一つは仮死状態にして保管、もう一つはそのままで手術に挑む。そもそも丸々魂を仮死状態にすればいいと思ったけど、そうすると手術に時間がかかりすぎると本当に死亡する可能性がでるようだった。片方の魂が傷ついても健全な魂と再融合を果たす事で傷は癒えると、まあこの世界ならではの理論だ。


「流れとしては、魂を分割する魔法を時間差指定でかける→時間指定で再融合の魔法をかける→仮死状態の魔法、だね」

「複雑だな」

「三つの魔法を使うわけだからね」

「今のチアキで扱える魔法なのか?」

「いや」


 中級程度にはレベルアップしただろうけど、今やるのは明らかに上級のさらに上。

 軽くこなせるなんて代物じゃない。だからそれなりのリスクは覚悟している。もちろん仮死状態から死亡に至る可能性もある。

 万が一で手紙は一筆書いている。ディエゴにも説明してある。私が時間設定する最終時間に皆が集まるから、甘い事言うけど戻ってこない時は助けてねぐらい書いてやったわ。


「一度死んだようなものだから、怖いものはないよ」

「……さすがにそれは俺でも虚勢だと分かるぞ」

「格好いいね」

「からかうな」


 その場で抱きしめられた。

 ああうん、やっぱりきついことお願いしたかな。けどここで謝っても、彼はそれを求めていないだろう。何も言わずに背中に腕を回した。壁ギュの時同様、ちょっとした勇気をもらうために。


「じゃ、よろしく」

「相変わらず軽いな」


 ベッドの中央に座り込んで本を片手に魔法をかけた。オリアーナがかけた時よりも、より静かで特段光の粒子は見えない。

 けれど、きちんと私に降りてきて中に入って行くのが分かった。

 するりと意識が遠のく。

 そのまま暗転して、私は暗闇に立つことになる。


「さて、ディエゴには言わなかったけど、割った後、もう一つかけてる魔法は有効かな?」


 私はただ待つだけ。魔法がうまいこといってるなら、そろそろ接触できるはずだ。


「よかった。成功か」


 目の前にゆっくり現れる人。

 見知った美女だ。やっぱり中身の要素で顔つきは全然変わるな。中身オリアーナだと美女は美女でもクールさが滲み出る。


「魂を分割して、すぐ僅かに触れるだけ……成功です。なんてね」

「そうね、でもそこまでしないと会えなかったわ」


 私がやりたかったのは分割した上で、私の魂を覗くこと。

 だから私の意志を強く残した部分から、もう片側に触れる事で今の状態が成し得ている。


「でも予想通りだったのはなんとも言えないな」


 ずっと考えていた可能性が現実化する。


「初めまして、というのも違うかしら」

「まあ、自己紹介からやってみる?」

「ええ」


 にこやかに笑う、ふわふわ金髪の美人は綺麗な社交の礼をしてみせた。


「オルネッラ・テオドーラ・ガラッシアです」

「チアキ・タカラガワです」


 さて、もう一人の私。話をしよう。

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