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クールキャラなんて演じられない!  作者:
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
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10話 いいお酒、いいご飯、いいお風呂

 思わずお酒に飛びついてしまった。

 アンナさんは不審な目をしても、すぐに居直り、平然とグラスに注いだ。私が食べようとするところを見た後、何故かほっと息をついてから部屋を出て行った。


「あれ、出ていくんだ?」

「私がそう命じました。本来なら階下で食事をしなければなりませんし、自室で食事をするにしても侍女の立ち会いは必要です」

「だよね。私の知る知識もそうだけど、どうして一人で食べてるの?」


 犬用ご飯を見下ろすとテレビでも見たことない程の豪華さだった。

 人と同じ食事内容がワンプレートに入ってるようで、味付けもなさそうだし、犬が食べてはいけないものもちゃんと抜いてある。よくできたコックさんだ。

 そんなことを考えていると、私の質問にオリアーナは気まずそうに応えた。


「最近は……食べてなかったので」


 応えらしい応えじゃないけど、そこはスルーだ。


「んー、ダイエット中なの?」

「だい、え?」

「あ、痩せるために食べないってこと?」

「……いいえ」


 女子学生らしい思春期の痩せる為のダイエットではないことは確実。

 メイドがほっとしたような様子を見せたのも、私が嬉しそうに料理を目の前にして食べようとしてたからだろう。

 というよりも事実、美味しいから仕方ない。これを前にして私の食欲が敗退するわけがない。


「美味しいよ?」

「……はい」

「まあ食べられないなら仕方ないけど、今のオリアーナは身体テゾーロだし、わんこの為にも少しでもどう?」

「テゾーロ……」


 ワインもかなり好みの赤だ。

 正直こんなご飯を目の前にしたら、食が進まざるを得ない。自分で用意しなくて済んでるから、尚更美味しく感じる。


「あ、そもそも犬喰いするの嫌だよね。公爵令嬢なんだもんね……」

「いえ、テゾーロの中にいる限り、犬としての食べ方は人でいうテーブルでの食事と同じようです」

「んん? 感覚的な?」

「はい」


 見た目は犬でも、彼女にとっては私がテーブルでナイフとフォークで食べてるのと同じなのか。それなら私が気にしなければいいこと。


「折角だから私と楽しく話しながらご飯食べよう」

「はい」


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「美味しかったー!!」

「チアキは美味しそうに食べるんですね」

「よく言われる! けど本当美味しいよ、いいコックさんがいるんだね」

「料理長も喜ぶでしょう」

「てかこのお酒どこの? 私が飲んだ中でも上位五位以内に入る美味しさよ」


 オリアーナがお酒飲める年齢でよかった。

 しかもお酒に強い身体みたいだから、まだまだ飲める。うん、飲みたい。


「お嬢様」


 そんな中、部屋の扉をメイドが叩いた。


「湯浴みの御用意が出来ました。本日はどちらになさいますか?」

「ん?」

「私の家では隣室で湯浴みをするか、外に出て別棟で湯浴みするかを選べます」

「外?」


 折角だ、外に出てみるか。中での湯浴みは想像できるけど、外の湯浴みが全く想像できない。


「では外で」


 馬車に乗って行くことになった。なんてことだ、大掛かりじゃないか。


「お、オリアーナ、どこ行くの?」

「敷地に隣接した領地内に湯浴みの棟がありますので」

「あ、一人で入りたいな」

「可能です。今までも私は一人で湯浴みしてましたし、人払いもしています」

「へえ、オリアーナはひとりでできるもんだね」

「?」


 令嬢の湯浴みっていうのは、メイドさんたちがわらわら集まって綺麗にしてくれるものだと思ってたけど、一人でお風呂入ってるなんて自立したお嬢様だ。


「お嬢様」


 着いたようで、その別棟の中に入る。

 広さはそこまで広くないのがありがたい。一般的な脱衣所は小さな銭湯ぐらいの規模だ。

 個人では広いだろうけど、そこはつっこまない。


「て、温泉じゃんか」

「おんせん?」


 結局つっこんでしまった。

 洗い場があるのは私の国で作られたゲームの中だからか、お風呂の設定までなかったしな、あのゲーム。

 雨を凌げる屋根つきで、温泉浴場が目の前に広がっている。しかも入ったらかなりいい。沁みる。


「ふわあああ、気持ちいいわあ」

「なによりです」

「ねえ、もしかしてこれ源泉?」

「はい。ここで湯が沸いて出てきたので、それを活用しました。先先代からのものになります」


 凄いな、温泉を素で作るなんて。これ、毎日入るでいい。毎日来る。


「オリアーナ恵まれてるねえ」

「……そうでしょうか」

「いいお酒いいご飯にいいお風呂、幸せだよ」

「そうですか」


 俯きがちに応えるオリアーナの声は暗い。

 オルネッラというお姉さんのことも踏まえて、まだ何か抱えているのはわかっている。

 それでもお付きメイドのアンナさんは彼女を心配してくれてるようだし、食べなくなっても美味しいご飯を作ってくれるコックさんもいる。


 あの料理内容、どれも一口大で味が薄め、肉類は油少なめ、すり潰して柔らかく加工したものも多かった時点で、少しずつ食べ始められるように作られていた。

 オリアーナが食べなくなってから、結構日数が経っているのだろう。一見多そうに見える食事内容も、病院食の内容で考えれば七分ぐらいに相当していて、よく考えられている。


 学園ではエドアルドみたく、彼女のことを気にかけてくれる人物もいた。

 まだ彼女は立ち直る事が出来るはずだ。当面オリアーナにはこの身体に戻りたいと思ってもらえるとこまで持ち上がるのが目標かな。


「そうだ、オリアーナ」

「はい」

「明日一緒に学園来てくれる?」

「……かまいませんが」

「よかった! エステルとトットも会いたがってたんだ」

「どちら様でしょう?」


 二人のフルネームを伝えたらオリアーナにしては珍しく驚いていた。

 さすがエステルにトット。学園内では有名らしい。


「明日が楽しみだね」

「楽しみ、ですか」

「怒涛だったけど、オリアーナは無事だし、エステルにトットにも会えた。いいことずくめだよ」

「そうですか」


 しかもこんな綺麗な星空つきなんだから。明日学園に行って学生してみますか。

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