ドワーフに酒
んー、いい朝。今日は一人でお出かけだ。ボルグは出てこないらしいから出してない。ウルとルプスには蜘蛛たちのトレーニングを頼んだしな。朝食を貰ってから宿を出る。ちなみに肉団子のスープと黒パンだったからスープだけ貰っといた。黒パンは昨日ので満足した。
宿を出て町の真ん中側に向けてぐるぐると歩いていく。今日の目的は市場調査と武具の調達だ。市なんか見ると物価は安いっぽい。昨日の糸の買取を考えると物によるんだろうけど。食べ物は大抵安いな。名前見てもよくわからんのは異世界特有の食べ物だろう。ただわかる食べ物も多いのは過去に来た異世界人によるものだろう。ツクミによると勇者召喚とかあったらしいし。でも食文化ハザードはあまりないようだ。魔王倒すのに忙しかったのかね?
町を一通り回った後に改めて職人通りのような場所に来た。やっぱり武器は店売りより職人に作ってもらいたいしね。何軒か外から見てビビッと来た。ドワーフだ。やっぱり定番だよね。行ってみよう。
「すんませーん。今いいですかー?」
「あん?客か、ちょっと待て。今行く」
「おっちゃん、ドワーフだよね?やっぱり凄腕な?」
「見りゃわかるだろう。お前さん、新人か?動きが全然なってねぇ。店売りのもん探しな」
「いや、ちゃんとしたのじゃないと多分魔力で持たないんだよね。それに刀が欲しいんだ」
「魔力で持たないだと?ふん、じゃあこれに魔力を流してみろ。それで判断してやる」
奥から何かのインゴットを出して机に置かれた。これ何?
(ミスリル合金ね。魔力を使う武器や魔導具に使われるものよ)
「ほう。これ、駄目になってもいいやつ?」
「これが使えなくなるほどならそのカタナとやらも考えてやろう」
ふーん。知らないからね。インゴットに魔力を込めていく。スマホより魔力が入る物なんてないだろ。気軽にどんどん込めていくと熱くなってきて触れなくなった。
「こりゃあ…もうお前さんの魔力以外入らねぇな。ある意味本当にダメにしちまいやがった。降参だ。お前さん、何者だ?」
「ちょっと魔力には自信のある新人冒険者だよ。んで、打ってくれるのかい?」
「ちょっとどころじゃねえよ。ああ、いいだろう。確かにお前さんの武器は他じゃなかなか打てないだろうな。カタナだったか?どんな武器なんだ」
「勇者の世界にあった武器らしいんだけどね。モノはこれだ。材質を魔力に耐えられるものにしてほしい」
以前呼び出した刀を出し、鞘から取り出す。とんでもなく魔力を使ったから名刀なんだろう。
「こいつは…すげぇな。ただ確かにこのままじゃ使い物にはならねぇ。何度か切ったら折れるか曲がるかするな。ただ魔力を込めたら化けるぞ」
「だろう?金の代わりにこいつは渡そう。足りないか?」
「流石に足りんわ。なんだ、お前さん金がないのか?」
「いや、相場がわからなくてな。予算が大銀貨5枚くらいなんだ」
「そいつは…このカタナは欲しいが材料費くらいは欲しいからな。このインゴットを使うにしても小金貨5枚はいる」
「10倍かよ!…いや待てよ、おやっさん。酒は好きか?」
「俺もドワーフだ。当り前だろう?…まさかお前さん、このカタナみたいに珍しい酒を持ってやがるのか?」
「ああ、いろいろあるぜ?多分他とは全然違うもんだ」
(この世界の酒は主にエールとワイン、果実酒ですよ、マスター)
「馬鹿野郎!それを先に言いやがれ!奥で飲むぞ!モノによっちゃ値引きしてやるわ」
「へっ。値引きどころかタダになるかもな?」
奥の居住区らしきところに案内され、テーブルに着く。まずはジャーキーを取り出す。
「なんだ、干し肉か。エールのツマミにはいいか。ありがたく貰おう」
木製のジョッキを持ってきたおやっさんに食わせてやる。
「なんだこれは、こんな干し肉は初めて食うぞ!塩っ辛いだけじゃなくて肉の味、燻製の香りがいいな。これは早く酒が欲しくなるわい」
瓶ビールを取り出しながらニヤついてしまう。
「俺も昨日この町のエールを飲んだがな。みんなあんなので満足してんのか?まぁいい。乾杯の前に自己紹介だ。俺はリョージ。おやっさんは?」
「ガイザンだ。よし、乾杯!」
注ぎ終わるとすぐに乾杯して飲み始めるガイザン。口を付けたが最後、一息に飲んでしまう。俺はその間に瓶ビールを並べていく。
「うまいっっ!!この冷たさ、発砲、喉越し…。俺が今まで飲んでたのはしょんべんか何かだったのか!?」
「世界が変わるだろう?どうだ、一種類目でこれだ。何種類でタダになるかな?」
「くっ、ドワーフの誇りにかけて酒の値段に嘘はつけねぇ。…なあ、この町のドワーフを呼んでいいか?みんなで対価を払おう。なに、あと二人だけだ」
「構わんぞ。ただし他の酒なんてもう飲めなくなるって言っときな。あ、あとタバコ吸っていいか?」
「よし!呼んでくるぞ!お前さんは他の酒も用意してまっとれ!葉巻?勝手に吸ってろ!」
家主が飛び出してったよ。まぁいいけどね。タバコに火を点けて酒を出していく。日本酒と、焼酎は芋でいいか、俺が好きだし。ウイスキーはとりあえずこのスコッチ、ブランデーは詳しくないし適当に。スピリッツはラムがいいな。
適当に出しながらジャーキーでビールを飲み、タバコをもう一本、ニ本と吸ってると慌ただしく家主が帰ってくる。
「忙しないな、ガイザン。そっちの二人か。仕事はいいのか?」
「構わん!リョージと言ったな。儂はガルロ。冒険者ギルドのギルドマスターじゃ」
「儂はグスタフ。グスト商会の商会長じゃ。儂は酒にはちとうるさいぞ?」
思いのほかビッグネームが来てるんじゃないか?これは武器以上にいいものが手に入るかもな。
「さっきとは違う酒だな!さあ、この面子なら支払いに困らん!飲ませろ!」
「まあまあ落ち着けよ、ガイザン。そっちの二人にもビールを飲ませてやろうぜ。それに走ったろ?運動の後のビールは旨いぞ?」
三人分のジョッキにビールを注いでやる。俺はこれだけ飲むと酔いそうだから次の日本酒だ。乾杯と同時くらいのスピードでガイザンが飲み干した。おい、もっと味わえや。それに続くようにガルロとグスタフも口をつけ、そのまま傾け、飲み干した。
「ガイザンの言った通りじゃ。儂は今後悔しておる」
「なんじゃガルロ。帰っていいぞ。儂は感動しておるわ。おかわりをくれ!」
「おいずるいぞグスタフ!儂も感動しとるわ!余韻にくらい浸らせろ!おかわりじゃ!」
ははは、さすがドワーフ。いい飲みっぷりだ。いいぞ注いでやろう。
「俺はリョージお前が飲んでるのをくれ。お前がそんなにちびちび飲んでるんだいい酒だろう?」
注いだばかりの二人の目がギラリと光る。
「わかるか?こっちはビールの3倍の価値はあると思え。まずは冷やしたものだ。このグラスで飲め」
衝撃を受けたような二人が一気にビールを飲む間にガイザンがグラスを掻っ攫い、ちびりと飲む。
「~~~っ!!なんだこれは…。原料が分からん。こんな酒は初めてだ!このほのかな甘さ口に抜ける香り、程よい酒精。今までにない酒だ!」
「ほう。程よい酒精、か。ドワーフはこれで満足していたのか。ここにある他の酒はどれもそれより酒精が強いぞ?」
三人とも愕然としている。ははは。食文化ハザードどころじゃないな。ドワーフに酒、これは禁断の果実だったようだ。
「いくらだ?この酒全てグスト商会で買い取るぞ!」
「馬鹿め!これは元々俺の鍛冶の代金で出してもらったんだ!」
「そうじゃ、これに値をつけるのに飲まぬわけにはいかんじゃろう!一人で飲もうなんぞ許さんわ!」
「あ~、いいぞ、三人で飲んでくれ。最後にドワーフとして値をつけて払ってくれ。ガイザンのように現物じゃなくてもいいしな」
もうそうなれば宴会だ。これが至高だの、こっちがいいだで大騒ぎ。飲み方を教えるために氷や水、お湯を出したりしながら一緒に飲んでるうちに俺も酔ってきた。
「よし、最後にドワーフも酔いつぶれる酒をやろう。酒精が9割を超え、開けて放っておくという幻の酒だ。これを持って帰って飲むといい。後日取り立てに行くからな。今日は解散しよう」
最後にお土産を渡せばウキウキで帰って行った。チョロすぎるなドワーフ。俺も帰ろう。一応当初の目的は果たしたようなものだしな。
まんぷく亭に戻り、異空間で締めとしてお茶漬けを食ってから寝た。




