修行パート?
空が若干明るくなり始めた頃に目が覚めた。どうやら襲われることもなかったみたいだ。安心したところでスマホを起動。
「おはようございます、マスター。…いきなりですが謝らないといけないといけないことがあります」
悲壮感を漂わせたツクミが立っている。こやつめ、何をしたのか。
「どうした?なんかしたのか?」
「いえ、逆にしなかったといいますか…。実は昨晩スマホの中で機能を精査していたのですが、マスターの使役スキルと組み合わせることで内部に空間を作れることが分かりまして。マスターが野宿する必要はなかったのです」
なんと、俺が体を痛め、ビビりながら外で寝たのは無駄だったらしい。ツクミはテイムのスキルと同じだと思っていたようだが少し違うようだ。
「マスターの使役は動物に限らないようでこのスマホも使役していると言えます。そして魔力を込めることで強化でき、自由に取り出すことができる…つまりスマホの能力を使って3匹を飼う空間を作りそこに入ることができます」
俺やツクミが思っていた以上にこのスマホと俺はチートな存在だったようだ。
「そうだったのか。ならパパッと作っちゃおう。どうせ魔力を使うなら先に使ってしまおうや」
「そうですね、かなり魔力を使いますし…。まずはスマホに魔力を流してください」
言われた通り魔力を流していく。俺も魔力を流すのが上手くなったものだ。するすると流れていく…がきつくなってきた。やはり空間を作るなんて大それたことをするには相応の力がいるんだろう。
思わず座り込んだ頃にストップがかかる。
「マスター、少し休憩しましょう。あと少しですが一気に魔力を使うと疲れますから」
(母様だいじょうぶ?やすんで)
ツクミとウルに言われ魔力を一旦止め、タバコを吸う。
「ありがとうな、ウル。ルプスとボルグも来い」
3匹を魔力を流さずに撫でてやる。…大きくなってないか?
「なあ、お前ら大きくなってないか?一晩でわかるほど成長するのか?」
(母様の魔力おいしかったから)
(母様のおかげ!)
(初めておなかいっぱいなった!)
「マスターの魔力のおかげですね。通常魔物は喰らった獲物に含まれる魔力で成長します。直接流せば成長も早いでしょう。それにしても早いですが…」
そうこうしているうちに魔力が半分ほど回復したので再開する。言われた通り本当にあと少しだったようだ。
「魔力が溜まりましたね。最初なので何もない空間ですが追々足していってください。お疲れ様です、マスター」
新しくできたアプリを開くと扉が現れた。中に入ると何もない白い部屋だった。12畳くらいだろうか。
「ここはエントランスのようなものです。新しく魔力を注げば部屋や空間も増えますよ」
「まあ最初はこんなものか。襲われないだけマシだな。ほら、3匹とも夜番してくれてたんだし寝ててもいいぞ」
さて、人里に急いで行く必要が無くなったな。ちと早いし独学だが修行パートといこうか。
そして半年が経った。いや、早いものだね。レベルはあがらなくても強くはなれるしここの出来ることが多すぎるんだ。
まずやったのはツクミと一つになること。変な意味じゃない。そのままの意味だ。いちいち確認するのが面倒でキャラメイクでスマホを取り込んだだけだ。これで召喚するようにスマホやツクミを呼び出せるようになった。この空間内ではツクミには好きにして貰っているが。
あとはこの空間。何でもアリだ。すでにエントランスにはいくつかの扉がある。その先には魔物こそいないものの世界がある。大きくなった狼どももそこにいる。
まあ一番変わったのは俺か。修行パートだしな。なんだかんだで人間は辞めた。今はウォークデイヴァンパイア、つまりは吸血鬼だ。なんでかってカッコイイからだ。中二病は治らない病気なんだ。あとは魔力は最近はもう使っても使ってもなくなる気がしないね。そりゃ無限の魔力なんてスキルも手に入ってたらしいし。
スマホのアップグレードも済んだし出かけようか。修行は終わってもレベルは低いし寂しいからね。
「さて、出かけるぞ!先着一名だけ連れてってやる!」
別に意地悪じゃない。人がいる町に何匹も魔物の狼なんぞを連れて行きたくないだけだ。
「ご主人、最初は私」
どうやら決まっていたみたいだ。
「最初は譲る。ウルの次は私、マスター」
「俺はいつでもいいぞ、主」
ウルとルプスはよく懐いてる。ボルグはここが気に入ったみたいだ。
「さあとりあえず森を抜けてそれからどうするか考える。この世界の楽しみ方だ」
ウルと共に一つの扉を潜る。ここを作って初めに出来た扉だ。出てみればそこは初めて野営した場所。とはいってもあまり覚えていないが。
「さて、来た方向なんぞもう覚えてないからな。ちょっと見てくるから待っててくれ」
背中から蝙蝠のような翼をだし飛翔する。修行の甲斐あってスマホの補助がなくても自分のキャラメイクならある程度出来るようになったのだ。
森の先に街道、そしてそこから繋がる先に町が見えた。どうやら外壁のしっかりしたそこそこ大きい町みたいだ。他を見てないから知らんが。
「よし、方向はわかったし行くぞ」
翼を仕舞い歩いていく。レベル上げも兼ねてるので森は徒歩だ。もちろん歩きタバコをしながら。
「うーん。タバコ吸いながら歩いてればテリトリーに入ったってことでもっと襲い掛かって来るかと思ったんだけど、なんも来ねーな」
「ご主人、魔力だだ漏れ。それじゃ怯えてこんな森の魔物は近寄ってこない」
ありゃ。そんなもんか。修行はしたけど常識には疎いなぁ。ツクミも教えてくれればよかったのに。とりあえず魔力を抑えて…こんなもんか。
「強い魔物くらいになった。多分雑魚は来ないけど喧嘩売って来るのはいると思う」
「久々の外での戦闘でそれか。まあいっか。いろいろ試したいし」
半日ほど歩いて森の中心部に近づいた頃にそいつは現れた。
「おうおう、流石に外周付近とは違うねぇ。大蜘蛛の団体さんだ。気持ち悪いなぁ」
高さは1メートルから1、5メートルくらいの蜘蛛が十匹余り出てきた。樹上にもいる。奥には一際大きいのがいるし、あれが群れのボスか?
「戦ってみたいしウルは様子見な。そっちに襲ってきた奴だけで」
俺はとにかく魔力の巡廻だ。まだレベルが低いせいで放出量は少ないが体内なら別だ。血にどんどん魔力を混ぜて動かしていく。これが吸血鬼になった理由だ。血を使うのに適しているため体内からの強化がしやすい。
「おら、いくぞっと」
無造作に殴りかかる。この魔力がある世界の武器が手に入らないうちはこれが一番強い。殴った蜘蛛の胴を貫通する。
「あーあ汚ねぇな。早く武器が欲しいもんだ」
その後も蜘蛛の群れに飛び込んで殴る。蹴る。周囲から糸を絡ませてくるがお構いなしだ。べたつく不快感くらいで体液の方が鬱陶しいくらいだ。
「ほら、ボスも来いよ」
近づくと離れていき代わりに樹上の蜘蛛が襲い掛かって来るがそれも叩き落とす。
「強サヲ見誤ッタ。強キモノ、コノ先ニ何用カ」
「おい、お前喋れたのかよ。レベル上げしながら森を抜けようと思ったんだが、なんか文句あるか?」
「森ノ中心ニハ母ガイル。母ダケハ見逃シテホシイ」
「そうだな、話せるなら交渉しようか。案内しろよ」
勝てないと悟ったのか素直に案内してくれた。樹上含めてももう殆どいないし母とやらに交渉を任せるのだろう。
しばらく歩くと大きな三本の木に広く作られた蜘蛛の巣があった。これが母の巣だろう。
「話は聞いた。強き者よ。差し出せるものは差し出そう。この森での安寧を見逃してはもらえぬか?」
母は随分と流暢に話せるようだ。
(マスター。そのマザースパイダーの糸は人間にとって良い素材です。貰っておいては?)
俺の中からツクミが声をかけてくる。一つになってから電話感覚で話せるようになっていた。カメラの機能もそのままで視界を見れるようだし。
「じゃああんたの糸と子を数匹くれ。末端の雄雌二匹ずつでいい。使役する」
「それでいいなら差し出そう。我が子を連れて行くなら我らもこれ以上殺さないだろう?森の外までも案内させよう」
「そうとも限らんし案内もそれほど必要ないがな。受け取ろう」
4匹の蜘蛛を預かり名前を付ける。エイ、アル、ケイ、エヌだ。4匹でアラクネ、と。まだ喋れないようだが繋がりが出来たことを感じるしこれから変異もするだろう。
繭玉も十個ほど頂き巣を後にする。何匹か樹上から見ているが監視のつもりだろう。もっとも見ているだけで意味はないが。
大蜘蛛を大量に殺ったおかげでレベルも上がったみたいだ。一応低レベルだから上がりやすいみたいだし、順調順調。
蜘蛛狩りをするわけにもいかなくなったので軽く走って森をすすむ。レベルが上がって疲れづらくなったみたいだ。もう森を抜けるという頃に日も落ちてきたので扉をだし中に入る。
「ただいま。明日には町に着くな。ツクミ、蜘蛛たちに中を案内してくれ。森の方なら巣を作れるだろ」
「わかりました、マスター。ウルと一緒に体を綺麗にしてから休んでくださいね」
蜘蛛の体液やら糸で汚れた姿を見て苦笑してから蜘蛛たちを連れて行った。
「よし、ウル、お疲れさん。風呂入って寝るぞ。明日はルプスと行くからな」
「寝る前にごはん。ご主人、晩酌はいいの?」
「ああ、二日酔いで町に行きたくないからな。街道はルプスに乗ってくから酔ってたら吐きそうだし」
「マスター、私の上で吐いたらもう乗せないからね」
今日も笑って就寝だ。異世界最高。




