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初めての

「早速おでましですよ、マスター」


 歩き始めて早々に出くわしたのは…ゴブリン、だな。小柄で緑色の肌をした、薄汚い存在。テンプレ通りなら弱い魔物で助かったというところだろう。最近の作品じゃ強いゴブリンも多いから一概には言えないが…。


「ツクミ、あれはゴブリンでいいのか?」


「その通りです、マスター。この世界の魔物はマスターの言うところのテンプレに大凡沿っているようですから」


 ふむ、人外魔境みたいな場所からスタートじゃなくて安心だな。それに一匹だけってのもありがたい。


「まずは俺の戦闘訓練相手になってくれっ!」


 まずは間合いを詰めてゴブリンの持つ棒を横に叩き付ける。弾かれて空いた胴に向けて思い切り叩き付けた。


「グギャッ」


 思い切りひるんでたたらを踏むも持ちこたえたようで、今度はこちらに棒で叩きつけようとしてくる。当たるわけにもいかないので木刀で柔らかく受け、別の方向へと流す。体が流れていった隙に後頭部へ木刀を振りぬいた。

 最後に小さく悲鳴を上げて倒れたがわずかに痙攣していることからまだ生きていることがわかる。


「マスター、とどめを刺さなければレベルは上がっていきません。最初は辛いでしょうが…お願いします」


 肉と骨を殴った感触が伝わってきてわずかに震えながらもツクミを見て小さく頷く。刃物もないのでゴブリンを足で仰向けにさせ、両手で目から頭に突き刺した。柔らかいものが潰れる感覚で脳まで届いたのが分かった。魔物と言えど流石にこれで死んだだろう。


「はは…ツクミ、やったぜ?なんだかこの世界の洗礼を受けた気分だ」


「その感覚は間違ってませんよ、マスター。この世界は弱肉強食の色が強いです。それにレベルも上がりましたしね。正しく洗礼と言えるでしょう」


 正直甘く見ていた。でも姿を変えたおかげだろうか。この世界に染まるためには仕方がないとも思えた。


「ゴブリンだからって甘く見てたな。正直木刀なんかじゃどうにもなんねぇ。魔力が回復したらなんか刃物だそう。魔力切れより魔物の方が多分よっぽど危ねぇ」


「そうですね、魔石も抜かなきゃですし…。このままだとアンデットになる確率も上がりますから」


 ツクミの言葉に頷きながら煙草に火を点ける。この血の臭いをごまかしたかった。


「そのタバコもいいのかもしれませんね。リラックスしている方が魔力の回復も早いようですから」


「そいつはよかった。そういやなんでツクミは俺のレベルが上がったってわかったんだ?」


「私はマスターの魔力を糧に生きてるようなものですからマスターのレベルがあがれば私のレベルも上がります。レベルの上昇は感覚でわかりますから」


 なるほど、ゴブリンにとどめを刺した時の軽い高揚感がそれか。体と一緒に中身まで狂ったのかと思ってしまった。

 タバコを2本吸い終わった頃にツクミに声をかけられる。


「魔力も回復したみたいですよ。マスターの魔力回復速度はかなり早いです」


 なんでも魔力の扱いが上手いと周囲の魔素の吸収が早いそうだ。魔族なんかに近い速さだと言われたが自分で魔力を動かすってのもよくわからないので本当か怪しいとも思うが。

 ともあれスマホを取り出してアプリを開いて魔力を吸わせる。この感覚を自分でやるのが魔力の扱いってことかな。

 今回イメージしたのはマチェットだ。木刀より重さに任せて振ることになるだろう。木刀の時と同じくらいの感覚で出せたのはレベルが上がって魔力も上がったんだろう。


「地球の材質ですし魔力を伴わない武器ならその辺で売ってるものより切れ味は良さそうですね。大抵の魔物は心臓の中に魔石があります。ただのゴブリンのものですから質は良くないでしょうがお願いします」


 ゴブリンの胸を裂き、心臓を破って魔石を取り出した。一度置いて手の血を着ているジャージで拭ってからスマホを使い水を出す。先にやればよかったと思いながらも手と魔石を洗う。


「魔石はとっておいた方がいいですよ、マスター。ゴブリンのものとはいえ安いですが売れますから」


「お決まりの冒険者ギルドか。登録はするべきなんだろうな」


 魔石をポケットに入れて歩き出す。できるだけ早く町に行きたいからだ。


 時々ツクミに方向を確認しながら歩いていくと何度かゴブリンと出くわした。たまに2~3匹で現れることもあったがどうにかなった。相手が木製の武器のため思い切り叩けば折れたからだ。

 そんな調子で歩いてレベルが3になったころ狼に襲われた。


「レッサーウルフです。ただの狼と変わりませんよ、マスター」


 ツクミの落ち着いた声でこちらも落ち着き、噛みつきを躱したところで首に思い切りマチェットを振り下ろせばそれで絶命した。

 その直後、近くの草陰から3匹の小さい狼が現れた。死んだ狼を舐めている。…恐らく子供だろう。魔物だとはわかっていてもすぐに殺す気にはなれなかった。


「ツクミ、俺のスキルに使役ってのがあった。あれはどういう効果だ?」


「マスターは犬派でしたか?…失礼、Lv1だと認められた相手を使役できます。簡単な意思疎通ができるようになりますね」


 俺は3匹の目の前で魔石を取り出し、目の前に見せた。


「俺に従え。俺が親の代わりになってやる」


 3匹は意味が分かったのかどうかは知らないが1匹が前に出てきた。


(…ついてく)


 その時その子狼の首が光り、全身灰色の毛だったのが首回りだけ真っ白に染まった。


(力湧いてきた。…母様?)


 驚きの変化だったがツクミのことを考えれば納得できた。


「母というより父になると思うんだが…後ろの2匹も説得してやってくれるか?」


 ハッとしたように振り返り3匹でわふわふと鳴いた後3匹で足元に来て残りの2匹も同様の変化が起こった。


(((母様!)))


 軽くため息を吐きながらも上手くいったことに安堵する。


「よかったですね、マスター。ウルフ系の魔物は短い睡眠を一日に何度もとるような生態なので交代で寝てもらえば夜番になりますよ」


 思わぬ収穫にもなったみたいだ。


「お前らは飯は何を食うんだ?」


((魔力と肉!))

(母様の魔力おいしい!)


「…魔力か。おいしいのは何よりだが魔力の使い道はよく考えにゃならんな」


「子供のレッサーウルフなら微々たるものでしょう。でなければ飢えて絶滅しているはずです」


「それもそうか。俺の魔力は多めで回復も早いらしいし大丈夫か」


「それよりそろそろ野営地を決めるべきですよ、マスター。森でわかりづらいですがもうすぐ日が暮れます」


 ツクミの意見通り少し進んで開けた場所に行き太い木のそばで野営することにした。


「飯か…。俺とツクミの分は魔力で呼び出すとしてこいつらはどうするか」


(魔力いっぱいあれば肉はたまにで平気)


 なんとも不思議な生態だ。確かにアンデットとか食わなさそうなやつもいるし魔物とはそういうものなんだろう。


「私もマスターの魔力があればなんとかなりますがマスターの食べてるものが気になりますから…」


 ツクミに関しては許した。既にいなくちゃならない存在だしな。


「ところで魔力ってどうやって食わせるんだ?」


(母様ならなでながらながしてくれたらいい)


 どうやらスマホを使う時と同じでいいようだ。


「じゃあ1匹ずつやるか。…名前も決めてやらないとな」


 少し考えた後、ウル、ルプス、ボルクと名付けた。


「ほら、ウルから来い」


 撫でながら少しずつ魔力を流すと尻尾をぶんぶん振りながら喜んでいるのがわかる。


(母様の魔力おいし~。あったかくてねむくなる~)


「こら、寝るなよ。全員終わったらこの後の説明もするんだからな」


 3匹に魔力を与え終わったあと自分とツクミの分の飯を呼び出す。イメージは半額弁当だ。思った通り魔力は少なくて済んだ。タバコより少し多い程度だ。

 食後の一服をしながら3匹に説明をする。


「お前らは交代で寝ろ。寝るのは一匹ずつだ。敵が来たら起こせ。いいな?」


(昼間ねむくなるけどだいじょーぶ)


「よし。起きてる間これ食ってていいからな。ちゃんとわけろよ?」


 お徳用のジャーキーを出してやる。塩分が多いが魔物だし大丈夫だろう。


「私はスマホの中に入りますね。起きたら立ち上げてください。おやすみなさい、マスター」


 そう言ってスマホの中に吸い込まれるように消えていった。


 こうして異世界一日目が終わった。

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