異世界転移
「ん…んん?」
目が覚めたら屋外、というか森にいた。恰好はジャージのままだ。混乱するままとりあえずスマホを、と思ったがいつも枕元に置いていたものがない。ジャージのポケットに物がある感覚があったため取り出すとスマホがあった。ただし自分のではない。一縷の望みをかけて立ち上げてみた。
「魔力からマスター登録…完了。ハロー、マスター。寝起きのようね」
スマホが光ったと思ったら美人秘書みたいな人が出てきた。何が何やらさっぱりだ。
「あなたは…?いったい何事ですか?」
「私はこの機械の付喪神。マスターの現状はわかりやすく言うと異世界転移ね。ねえマスター。まずは名前をくれない?そうしないと上手く能力を使えないの。名前をくれればもっと色々説明できるわ」
さっぱり訳が分からないが名前をつけろと…。ただ現状はこのお姉さんに頼るしかないみたいなので考えよう。
「付喪神だからツクミ、でどうですか?」
名前を付けた瞬間、体から何かがスマホに流れていった。まるで献血で血を抜かれた時のようだ。
「安直だけど気に入ったわ。ありがとう、マスター。魔力から完全に記憶もコピー出来たわ。わからなさそうなことを説明していってあげる」
どうやらここは異世界で地球とは違うが似たような性質の星らしい。違うのは魔素と呼ばれるものがあり、魔物や魔法が存在し、文明は地球とは違う発展をしているということ。
「憧れてたけど本当に異世界転移するとはな…お決まりのチートとかあるのかね?」
「私の存在がチートみたいなものよ。どうやって発生したのかわからないけどこの機械とんでもない性能なんだから。空気中の魔素で動くしマスターが強くなって魔力を込め続ければアップグレードもしちゃうわよ」
「ほう、今は何ができるんだ?」
なんだかんだと順応性の高い俺はすでにわくわくしていた。
「そうね、まずはカメラで自分を撮ってみるといいわ。ステータスみたいなのが見れる機能があるの」
言われるままにカメラを起動し、内カメで自撮りしてみた。
リョージ・ミヤ Lv1
スキル
キャラメイクLv1
使役Lv1
なんとも簡素なものだ。とりあえずLv1ということはかなり弱いのだろう。使役はツクミに名づけた結果だろう。ただこのキャラメイクというのがよくわからない。
「弱いということはわかったけどそれ以外はよくわからないな。このキャラメイクってのはなんだ?」
「まだ性能が低くて詳しく見れないのね。魔力が多いことはわかるのだけど…。キャラメイクね、少し調べてみるわ」
目を閉じて考えているように見える。しかしスマホのように検索とかができるのだろうか。だとしたら確かにチートだろう。
「わかったわ。どうやらユニークスキルみたいでレベルに応じて存在を作り変えることができるみたいね。慣れないうちは機会を通して行った方がよさそうね。全身の姿を撮るからちょっと借りるわね。ついでに補助機能を入れておくわ」
言われるままにスマホを渡し写真を撮ってもらう。そのあとツクミが少し弄った後に返してくれる。すると新しいアプリが入っていた。キャラメイクとそのままの名前だった。
「今のレベルだと自分の姿を変えられるようね。今の自分の見た目嫌いだったのでしょう?おめでとう、マスター」
確かに自分の姿は嫌いだ。低い身長も、太った体も、言うことを聞かない癖毛も、腫れぼったい目も、荒れに荒れた肌も大嫌いだ。ここ数年の荒んだ生活のせいで自業自得なのだが。せっかくの異世界だ、生まれ変われるなら変わろう。
ゲームのキャラクターをつくるようにどんどん変えていった。身長も高身長と言われるくらいにして軽い細マッチョに、髪は憧れのウルフカット。目は少し鋭くして肌も綺麗にした。今まで自分がキャラを弄れるゲームのキャラのようだ。
「どうだツクミ。似合うか?」
「元からは想像出来ないほどよ。まあ存在を作り変えてるのだから当然ね。カッコイイわよ、マスター」
姿を変えたことで自分に自信が出てきたみたいだ。今度は落ちぶれないようにしないとな。
「ところでツクミ。このスマホは今はどんな機能が使えるんだ?」
「そうね。魔力を使ってあなたの知っている物を呼び出せるわ。私が姿を持っているのもその機能のおまけみたいなものね。召喚のアプリを開いて欲しいものを思い浮かべながら魔力を流せばいいわ」
早速アプリを開いて使ってみた。意外と吸われるな…。なるほど、この献血みたいに流れていくのが魔力か。
「できたみたいね。でも最初に出したのがそれなんて、本当に好きなのね。最初は武器を選ぶかと思ってたわ」
俺が呼び出したのは愛用のタバコとライターだ。正直起き抜けの一服がずっと欲しかったのだ。
「仕方ないだろ。記憶を取り込んだならわかるだろうがヘビースモーカーだったんだから。しかしどこでも吸えるってだけでも異世界に来てよかったな」
日本の最近の嫌煙の雰囲気が嫌で堪らなかった俺には一番のご褒美かもしれない。とりあえず一服しよう…。
「こっちに向けて煙を吐かないでね、マスター。それよりやっぱり武器はあった方がいいわよ。ここは浅い場所とはいえ魔物の出る森なんだから」
なんとツクミは現在地もわかるらしい。しかし武器か…。とりあえずタバコを銜えたまま再びアプリを起動する。…さっきより魔力が取られるな。少し立ちくらみのようなものを感じた。
「たかが木刀を出しただけでも結構魔力を使うんだな。」
「それは世界を渡って呼び出してるからよ。価値が高いものほど多く魔力を使うわ」
「そうだったのか…。どうせ振れないと思って日本刀は辞めたが正解だったな」
木刀を選んだのは昔剣道をやっていたからだ。これでも有段者だったし木刀でも頭に思い切り振りぬけば人くらいは殺せる武器だしな。
「マスターはまだLv1だものね。ちなみに私もLv1よ。さっきマスターに魔力を流してもらって生まれたばかりだから。知識はデータとして入ってるし調べることもできるけど」
つまりは俺が戦うしかないってことか。人のいるところにでるまでなんとかなるといいが…。序盤はややハードってことか?戦闘に関しては、だが。
「ちなみにツクミ。ここから人のいるところまでどれくらいあるんだ?」
「森の反対側に抜けて少し行ったところに街道があるわ。その道を左に半日くらい歩けば町があるみたいね」
「ここは森の浅いところって言ったよな?そのまますぐに出た方にはなにもないのか?」
「森を出ても荒野よ。マスターにわかりやすく言うとグランドキャニオンみたいな」
どうしても森は突っ切らなきゃならないのか。水や食料は魔力が回復すればなんとかなるが…一日で抜けられないとなると夜が不安だな。
「ツクミはやっぱり寝ないで動けるなんてないよな?」
「当り前よ。私はスマホの中で寝るけど…マスターはどうするかしらね」
「まあとにかく移動しながら考えるか。行こう」
なんとかなるさ。能天気さなら折り紙つきなんでな。




