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三章

 大きなビジネスホテルから歩いて数分のところにある七階建てのビルは、外装がガラス張りで当時は洒落た趣のビルだった。


 正面の入り口からエントランス・ホールの左側に設置してあるエレベーター。

 昇降ボタンを押し向かったところは五階にあるサウナ。下見は先日すませてある。


 まず、受付で入浴手続きをすませば渡されるのがロッカールームのロッカーキー。

 このロッカーは奥行きがないので縦の長さは充分にある。ズボンはたたまずに背広と一緒に吊るせるだけの長さはある。


 脱いだ服をロッカーのハンガーに吊るし、パンツ一丁の上に店用のガウンを羽織って向かうのは、雑魚寝の仮眠ルーム。


 いるわ、いるわ。

 酔いつぶれた親父が、腕に巻くロッカーのキーを安物のカーペットが敷かれている床に放り投げている。


 キョロキョロと大げさにならぬよう周囲を見渡し、ここは六感を働かせる。


 いびきをガーガー掻き、ちっとやそっとでは起きそうにない酩酊親父の横に陣を取り、しばらく様子を眺める。


 ヨシ、ヨシ

 ロッカールームに戻り服を着るとまた親父の横に陣取る。


 深夜ともなれば来店客もたかが知れている。少々席を外しても新客が来ることは無い。


 床に転がっているロッカーのキーを拾い、ロッカールームに入りキーに刻印されている番号を見てロッカーを探す。


カチャ

 ロッカーとキーが合っていれば当然のように解錠はできる。

 余分なものは要らない。いるのは現金が入った財布。


有った、有った。

 背広の右内ポケットに黒い二つ折りの財布が有った。他にはないかと、ズボンのポケットと背広の各ポケットを探り、すべての現金をありがたく頂戴する。


 財布の中を確認し札の顔が見えればそれでよし。店外に出て詳しくは確認すればよい。


 この商売は時間との闘いだ。

 キーはロッカーに刺したままで退散する。下手に持ち帰るよりも、刺した状態であれば親父の酔った状態での過失で話は収まる。


 悪事を働くときだけは頭もよく回転する。


 鹿児島の繁華街。

 天文館通りの一角にある文化通りから徒歩で五分ぐらいのところにあるのがATM。

 このATMは二十四時間稼働しており、銀行系・信販クレジット関係すべてのカードが使えて便利だった。

 

 ロッカー荒らしに限らず、泥棒という稼業はATMのありかを頭によく叩き込んでおくのも稼業のひとつだ。


 明るいバス停のベンチに腰を下ろし、ゆっくりと財布の中身を確かめる。

 万札と銀行系のキャッシュカードと信販系のカードが数枚。


あはっは。

 笑ったのはキャバクラのネエチャンから貰ったらしいメモ紙とネエチャンのプリクラ。

 素面で読めばネエチャン根性丸出しの文面。


(まつ、こんなもんだろう)

 と、妙に納得。


 ATMの前に行き、三つの暗証番号を模索。三回目までにヒットさせればO・Kだ。


ピンポーン

 口を開けた機械は現金を気前よく吐き出してくれた。

 酔った親父の財布は投げ捨て、俺の財布はパンパン。


 仕事が終われば明け方の四時も近い。


 四時になれば西駅前の朝市が新鮮な野菜、魚を持ち寄り店が開けられる。

 多くの露天商のなかには、自家製の杵つき餅も販売され、そのモチに黒砂糖の醤油をつけ焼いたヤキモチなども販売され大そうに賑わっていた。


 早い時間から朝飯を頂くのは、おばちゃんが一人でやっている個人食堂。


 看板はうどん屋であがっているが、近所の露天商から買った魚でも焼いたり、煮たりと調理してくれなかなかに便利な食堂だった。

 店内は十人ほどが座れる椅子席と、五人掛けくらいのカウンターがあり狭くはない店だった。


 このおばちゃんの若いころは観光バスのバスガイド嬢だったらしい。

 店に通ってくる常連客を集めては、退職後もバスガイドの世話をやき自身がバスツアーも企画するなど多彩なおばちゃんなのだ。


 財布が膨れ上がれば余裕も生まれ自殺願望はどこへやら。


(ホテルは高くつくし・・・) 

 駐車所の脇に掲げてあったウィクリー・マンションの看板。


 指定の事務所は駐車場の奥にあった仮設用に見えるほどの質素な事務所がポツンと。


「あのう・・・いくらでしょうか?」

「一泊・・・三千円ほどで・・・」

 ビジネスホテルの半額くらいで、鉄筋コンクリート造りの四階建てのアパートの一室が賃貸できる。


「お願いします」

 今夜からしばらくの宿は繁華街から歩いて十分。

 毎夜、遊びに行ける見た目は幸せな男。


つづく

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