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二章

 この男の目じりが下がったのは、店内に足を踏み入れると数人いるスナック嬢のほとんどが二十歳そこそこと思われる。


 迎えてきてくれたちょっと年増の女性がオーナーで「スナック ヒロ」のママだった。


 しかし、このママの計らいが誤っていた。

 四十前後ならば、若い女性よりも少しばかり年輪を重ねた女性が好みだろうと思われたのか、腰を下ろしているソファーにやってきたのは、細身の四十年配の女性だった。


 先日のスナックとは異なり、このお店のボックス席は隣との席の間にはガラス製とはいえ、仕切りが設けられていた。目線さえ遮られれば個室感はある。


 この男、先日のようにスツールに腰を下ろそうとしたときにボックス席への案内を受け、席のつくりを見るとためらわずに従ったのだ。


 痩身の女性が、丁寧に接客しているのにも関わらず、スケベ心満載の男は若い女性の姿ばかりを追っている。


 ここで登場するのがあだ名通称名だった。


「失礼ですが、・・・ご職業を尋ねても・・・」

 だったのだ。


 この男に、隠さなければならないような理由などはまったくもって持ち合わせてはいない。


「プーだよ。何もしてないから、プーさんだよ」

「まあ、フーテンの寅さんなのですか?」

 一夜の遊びのつもりだったので、否定するつもりもない。確かに「フーテンの寅」と言われてもあながち間違いではない。


 何せ、タコの糸が切れたようにふらふらしているのだ。


 しかし、本当の「フーテンの寅さん」はテキヤ稼業で全国を旅しているので、この男、城戸敏一とは全く異なる人物像だ。


「ありがとうございました」

 ボックス席でにぎやかな一行が席を立てば、一人のスナック嬢も客と伴にドアの外に消え、数分後には戻ってきた。


 どうやら客を見送るためにエレベーターで一度、一階に降り再び店に帰ってきたみたいだ。


 ボックス席に余裕ができると、暇になった彼女らが城戸の席に来てくれたのでこの男は大盛り上がりだ。


(よし、明日も来よう)そう思うくらいだから、この城戸という男の自殺願望はあってないようなものなのだが、本人にしてみれば切実なのだ。


 バーテンでもないような男性が、スーツを着て一言二言の会話を見て訊ねれば、ママの旦那もチーフで入っていた。

 鹿児島の夜の街には水商売特有の暗さがなく人間関係もオープンだった。


 若い女性たちに囲まれ酒を飲んでいれば、目じりも下がり時間が経過するのも早い。


 気分よくしたところで気になるのが会計。一夜の飲食代くらいは持っているのだが、無職である以上はこれからの出費も覚悟せねばならない。


 後ろ髪を引かれる思いでスナックを後にし、向かった先がサウナ・ルームだ。

 骨太の体形ではホテルの浴槽が窮屈に感じ選んだのがサウナだ。


 あまり風呂を好まない男の入浴時間はカラスの水浴びで、浴室にとどまっていたのは数分だった。


 宿泊はする気がないのに、雑魚寝の仮眠ルームに向かえば、数人の客が酔いつぶれて熟睡している光景を見て、この男の頭にひらめいたのが窃盗だった。


 この時点までサウナ・ルームでの窃盗経験はない。


 小心者の男は実行にためらいを覚えしかたなく退店すると、ホテルに戻りベッドにもぐり込む。

 ・・・が仮眠ルームが思い出されなかなか寝付けずに体の向きを頻繁に変え眠ろうと努力する。


 それでも男は、まんじりともせず朝を迎えると鹿児島西駅に隣接している駐車場から出庫し、再び繁華街へと車を移動させた。


 市街に詳しくない男の暇つぶしと言えば、喫茶店でコーヒーを飲みながらも尻がすぐに痛くなる男の向かう先はパチンコ屋、バク才がないくせにパチンコは好きだ。


 あたりが暗くなりネオンの明かりがちらほら点灯を始めると繁華街に繰り出す。最終的な目当ては昨夜に訪れた「スナックひろ」だ。


 その前に色んな店を覗くも鹿児島の飲食店は遅い。夜の八時過ぎにならないと接待をともなう飲食店がオープンすることはマレらしい。


 歩くことを苦痛としない男は天文館一帯を散策する。


 出身地 福岡とは異なる雰囲気が漂うも店名に福岡のテナント名をもじったようなネームが多くみられる。

 飲食街の店名には、その時々で流行があるので鹿児島だけに限ったことでもない。


 ネオンの明かりがまぶしくなるころ男は、ダイヤモンド・ビルの一階にあるエレベーターホールに立つ。


スーッ

「いらっしゃい・・・」

 連チャンとなれば受けもよく昨日よりも迎えてくれる声が華やいでいる。


「ふうさん、ようこそ」

 よほどの上客に見えるのか、席についていたテーブルから移動してくる。

「いらっしゃい・・・」

 一緒に来るのが昨日に接待してくれた四十年配の女性。


(おい、おい。お前じゃなく・・・・)

 言えない男だった。

 それでも二日目となれば接待してくれている女性の素性も大まかなことはわかる。


「ちづる」

と、呼ばれている子がママの娘らしい。

 歳の頃なら二十歳そこそこ。


 他に娘の友人。また、その友人の友人。派遣の女性が二人に年配の女性。

 かなりの女性たちが接待してくれる。


 今日も鼻の下を長く伸ばしグラスを傾けていれば時が過ぎるのも早いが、男にはまだ仕事が残っている。


 つづく

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