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序章

 急ぐ用でもないのに、一度決断するとなぜか気がせく性格だった。

 普段は思考を始めると体がまったく動かない。また、気は小さい癖に悪いこととなると、大胆になれる性格は支離滅裂だった。


 小走りでJRの構内にある「みどりの窓口」へと向かっていた。

「グリーンを二席」

 二人分のグリーン券を買えばL特急、グリーンの車の個室が選べた。当時はグリーンの個室といえば、乗ろうとしている電車、特急「つばめ」以外にはなかった。


 喫煙はしないけど、禁煙の車内でも個室だけは灰皿が設けられていたのだった。


 入室すると、客室乗務員がキャンディを持って用向きを尋ねに来る。キャンディだけをもらい再度の訪問を断れば終点まで訪ねてくることもない。


 つばめの客室案内乗務員は「つばめレディー」と呼ばれ、就職先がそう多くは無い鹿児島では超人気の職種だったのだ。


 客室乗務員が退室すると、用意してもらった枕を頭に敷き二~三人は座れるソファに寝転んだ。電車での移動となれば多くの乗客は、車窓から眺める景色を楽しみにしているモノだが、幾度となく鹿児島と福岡を往復している男にそんな楽しみは不要だった。


 この男、福岡のネオン街では「くまさん」と呼ばれ、鹿児島に行けば「ふうさん」と呼ばれている。いずれにしろ姓名とはまったく関係がない通り名だったが、この男その通称で二通りの名刺まで作っていた。


「くまさん」とは、独身時代にあこがれていた女性。

 言い方を変えれば、男が一方的に恋心を抱いていた女性が名づけたあだ名だった。男の後ろ姿がクマにそっくりだったそうだ。


「ふうさん」とは、鹿児島のネオン街の会話のなかで、女性から「ご職業?」と尋ねられた時に、無職を意味して「プーだよ」と言えば、相手の女性が「プー」を理解できずに「ふう」と、聞き取ったところから誕生したあだ名だったのだ。


 とにかく、この男の話は女性抜きでは語れない。


 男の名は「城戸敏一」と言い、無責任、身勝手な男だったが、何故かネオン街では気が良くて優しい男で通っていた。


 つづく


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