09 魚肉ソーセージ
ゴールデンウィークとはもともと映画界での業界用語だったらしく、興行利益が一番とれる時期だったので名前がついたらしい。ちなみに文化の日を中心とした連休はシルバーウィークと言ったらしい。
とりあえず、そんなこんなで現在ゴールデンウィークである。
学校だけでなく、弓道場の改修工事で部活も休みである。
休みであっても関係なく、いつもの癖で朝早く起きると珍しいことに、夏々夏と神禰が既に起きていた。
「ん?おはよう、珍しいな、お前たちが休日に早きなんて。」
「…あぁ、兄さんおはようございます?」
「何で疑問系なんだよ…」
「いえ、折角の休みでしたので神禰ちゃんと2人でゲームをしていたらいつの間にか…。」
「そ、そうか、それは大変だったな。」
よく見ると神禰は目を開けたまま、意識が飛んでいってしまっているようだ。
「…ぅう、眠いです。」
そう言って夏々夏は自分の部屋に行ってしまった。
ダメ人間たちの行く末は心配だが、とりあえず朝御飯を作ろう。
意識が戻ってきた神禰と朝御飯を食べ、神禰も部屋で寝た後、冷蔵庫の中身が無かったことを思い出し、買い物に出かけた。
スーパーに行く前に、欲しかった小説がでていることを思いだしたので本屋によると、そこには私服姿の椎本がいた。
休日なので私服は当然かもしれないが…。
「よう、委員長。」
「ん?鑢坂君だ。やっほー。」
「やっほー。委員長は何を買いに来たんだ?わざわざ電車使ってここの本屋まで来たんだろ?」
「えっとね、ここの本屋は大きいから近くの本屋には売ってない参考書があるんだよ。そういう鑢坂君はエッチな本でも買いに来たのかな?」
「違うって。連載ものの小説が出てたから買いに来ただけだよ。」
「なるほど、連載ものの官能小説が出たので買いに来たと。」
「お前は俺のことを何か誤解してる!」
「いいんだよ、分かってるから。」
「何一つ分かってないって!」
「まあとにかく、少しは勉強もしておいた方がいいと思うよ。休み明けはすぐテストだからね。」
「…そういや、そうだったな。」
「成績上位者の鑢坂君には余計なお世話だったかな?」
「そんなことないさ、教えてくれてありがとな。」
「いいよ、別にお礼なん…あ、そうだ。この後暇?」
「ん?別に急ぎの用事は無いけど…。」
「そうですかそうですか、暇ですか。それならお礼ということで、…デートをしませんか?」
「は?今なんて。」
「だから、デートしようって。」
椎本の言った言葉が頭に入って来ない。いや、入っては来るのだが処理ができていない。
混乱したままの脳内で『デート』を変換する。
…
…
…
デート
date
日付
日付しよう。
全く意味が分からない。
「だーかーらー、一緒に買い物に行こうって。これで通じた?」
「いや、通じてはいたけど理解ができなくて。」
「何?私とデートするのが嫌なの?」
「嫌とかそういうことではなくてだな…」
「よし、じゃあ行こう。レッツゴー。」
そう言って人の話を一から十の一も聞かずに、俺の手を引っぱっていく。
あぁ…まだ本買ってないのに。
椎本に案内されるがまま付いていく。
「光栄に思ってよね。私からデートに誘うことなんて滅多にないから。それこそ戦隊もので悪役が出てくる位の割合だからね。」
「週一じゃねーか!…ん?毎日なのか?あの中での時間軸ってどうなってんだ?………いや、どうでもいいか。それよりも椎本、デート初めてじゃないんだな、ちょっと意外だった。彼氏もいたのか?」
「当たり前じゃん。高2だよ、青春だよ、友達100人できるかな位でいるよ。」
「いるよって、99股じゃん。まぁ建前はわかった本音は?」
「1人もいたことありません。初デートっす。」
「なに無駄な見栄はってんだよ。」
「いいじゃん、これでも結構緊張してるんだから。」
「…ん、あぁ、まあ、そうだな。」
なんとなく強くでることができない。
周りを見渡すと、いつのまにか街の外れの方にまで来てしまっていた。
「なあ、どこまでいくんだ?こっちの方には何もないだろ。」
「あるんだよね、それが。まあ、もうすぐだから。」
そう言ってさらに10分程歩くと、それは見えてきた。
「ふっふっふっ、どうだ。前から目をつけてたけど、1人で来るのもあれだったんだよね。まさに渡りに船、いや旅客機だよ。」
「………なぁ、もう帰っていいか?」
そこにはテレビの心霊特集に出てくるような、いい感じに寂れた病院があった。
ここで一つ言っておくが、俺は妖を見馴れているからといって、お化けとか幽霊の類が怖くないわけではない。ホラー映画を見ればもちろん少しはびびる。
だからいくら昼間だからといって、こんなところに入るような物好きでは決してない。
そんな俺へ、死神が大鎌を振るうように最終勧告が告げられる。
「さぁ行こうか。あれ、行かないのかな?別にいいんだよ、みんなに鑢坂君から廃墟に連れこまれて襲われた、って言うだけだから。」
…何て恐ろしい奴なんだ。
その廃墟と化した病院でたらふく妖を食べて満足した椎本は、あんなところに長く留まっていると、妖たちが力を得てしまい大変なことになるという(九十九から聞いた事だ)俺の主張を受け入れて、早々にその場を後にしてくれた。
その後は繁華街に戻って、それこそデートのようなことをして2人楽しんだ。
それから、昼過ぎ位に椎本は用事があるとかで帰ってしまったので、当初の予定通り本を買ってスーパーへ向かう。
割とすぐ近くにあるスーパーは昼間ということもあって、人はそこまで多くはなかった。
そうして意気揚々と家に帰る途中のことである。
住宅街に入って何本目かの角を曲がると、そこに人が倒れていた。
…は?
いや、ちょっと待て。
人は普通道路に倒れているだろうか、いやそんなことはない。
反語を使ってみた。
反語ばんざいだ。
現実から目を背けて別の道を通りたいのだが、生憎そうするとものすごく遠回りになってしまう。しょうがないので大きく距離を開けながら、気づいてないですよ、という風にして通る。よく見ると倒れていたのはおそらく30過ぎくらいのおっさんで、体形はだいぶスラッとしていて、スーツ着用で、まともにしていれば格好いいだろうな、という感じではあったが、道端に倒れていることがまともなことではない。
何故か、髪が青色だった。真っ青である。
やっぱりまともな人ではないと判断する。
足音をたてずに息を止めたままだが、しかし出すことのできる限界のスピードで通り抜けようとした。
そうして後少しで通り抜けられる、という瞬間、
「おい、そこの兄ちゃん、食べ物を恵んでくれないか。」
特に何も起きなかったので、そのまま過ぎ去る。
「お、おい兄ちゃん、待ってくれって。少し、少しでいいんだよ。食べ物をくれないかい。ここしばらく何も食べてなくてな。」
…何も聞こえない。
「あ、おい兄ちゃん。ちょ、まじで行かんといて。ちゃ、ちゃんとお礼はするって。」
あー、今日はいい天気だな。明日も晴れないかな。久しぶりに大掃除でもしよう。
「………。
この団地の皆さーん。ここに困っている人を見ても、無視してたち去る冷たい兄ちゃんが…」
「てめぇ何言ってやがんだ!」
相手が大人だろうが構っていられなかった。
いや、まともな大人は道端に倒れてはいないが。
「いやぁ、やっと気付いてくれたね。あのままたち去ってしまうのかと思ったよ。」
「…そのつもりだったんだよ。てかあんた…」
「とりあえず、何か食べ物をくれ。」
「人の話を聞け!」
しょうがないので、買って来たばかりの魚肉ソーセージをわたす。
「ありがとう、心の友よ。」
「あんたと友達になった記憶はない。」
「いいじゃないか、人類皆兄弟だ。」
「友達じゃないじゃん。」
「………はっはっはー。」
だめだ、この人だめ人間だ。
「それにしても魚肉ソーセージか。もっといいものが食べたいな。」
「文句があるなら返せ。」
あげたソーセージをあっという間に食べてしまったそいつは俺に一枚の名刺を渡して言った。
「助かったよ兄ちゃん。君にこれを渡しておくから困ったことがあったらすぐに電話してくれたまえ。魚肉ソーセージ分は働くよ。」
そうしてすぐに立ち去っていった。
なかなか根にもつタイプのようだ。
二度と会いたくないタイプでもある。
テンションが下がったまま家に帰りながら、渡された名刺を見てみる。
そこには、職業と名前しか書かれていなかった。
ヴァン・ヘルシング
賢木 右凰
さらに、テンションが下がってしまった。
てか、電話番号が書かれていないのに、どこに電話しろと…。
だいぶ遅れてすいません。次は頑張ります。