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08 椎本ひかり

神禰が来てから数日後の放課後のことである。


既に日がおちて辺りは薄暗くなっているが、俺は委員長の椎本と共に、現在、倉庫のようになってしまっている旧校舎に向かっていた。


理由は簡単で、もずくと帰ろうとしていた時に通りかかった担任に、資料を取って来るよう頼まれたからだ。


決して、椎本とあーんなことやこーんなことをするために人気の無い所に行っているわけではない。


「それにしても、旧校舎なんてものがあったなんて知らなかったな。」


「まぁ、この学校は広いからね。30年くらい前までは使ってた校舎みたいだよ。今ではただの物置小屋だけど。」


「へー、そーなのか。何度か来たことがあるのか?」


「そうだよ。先生たちからたまに頼まれて資料を取りに行くからね。」


「どれくらいの大きさなんだ?」


「大体普通の一軒家を2つくっつけたくらいかな。大体それぞれの教室に1つの教科って感じでおいてあるよ。数学は2階の一番奥の教室だったかな。」


「よくご存じで。さすが委員長の申し子だな。」


「…何か勘違いしてるみたいだけど、私は別に委員長の申し子でも化身でも何でもないからね。そんなにやりたいわけでもないし。それに委員長が何でも知ってるわけじゃないよ。」


「そんなまさか!!椎本のお母さんは生まれる前に、白い勉強のできる象がお腹をさすって、勉強を司どる天使が告知したと言っていたのに。」


「あったことないでしょ!?そんなことされて生まれてきた覚えはないよ。なんなのよそれ、仏教とキリスト教が融合しちゃってるし。」


「まさか!!違うというのか!!委員長が委員長でなくなったら委員長じゃなくなってそしたら委員長を委員長と呼べなくて委員長に委員長としての委員長も委員長で、でも委員長は委員長に委員長を委員長で…ふうぉっ!?」


もう何がなんだかわからない。椎本にも軽くひかれながら

「大丈夫?」と心配されてしまった。

ずっと喋りながら歩いているのだが、いかんせん敷地が広いのでなかなか時間がかかる。

帰りは参考書等をたくさん抱えて同じだけ歩かなければならないと思うと、軽く憂鬱だ。せめて台車くらいあることを願おう。


「…最近鑢坂君、九十九さんとかなり仲良いよね。名前で呼びあったりしてるし。いったいどうしたのかな、かな?」


「気のせいだろ。間違いなく、お前が想像しているような関係じゃない。」


嘘は言ってない

本当のことも言ってないけど


椎本は俺の目をジーッと覗き込むようにして見ていたが、ニヤニヤしたまま顔を離して、


「そういうことにしておいてあげる。」


とだけ言ってスタスタと歩いて行く。


信じていない。

信じるとも思ってなかったが…。


そんなこんなで旧校舎に着いたが、辺りが薄暗いため非常に薄気味悪い。

いくらそういう類のものを見慣れているといっても、やはり怖いものは怖い。

まるで学校の怪談だ。無事に出られることを祈ろう。

そうやって心の中で身構えている俺に対して、椎本は全く動じていなかった。

怖くないのだろうか?てっきり怖がっているものだと思っていたが。


「委員長ってお化け屋敷とか平気なのか?」


「うん、別に怖いとは思わないよ。小さい頃から平気だったし。」


そう言って担任から渡された鍵で扉を開け、ズンズン入っていく。


案の上、ほこりと一緒に妖もいたが、形すら持てないようなのばかりで、とにかく無視して椎本に付いていく。


幸い電気は通っていたが教室には、本が文字通り山のようにあるばかりで、台車のようなものはなかった。


「旧校舎裏に倉庫があったて、そこに確かあった気がするから、鑢坂君取って来てくれない?私はその間に持っていくものをまとめておくから。」


「わかった、校舎裏だな。」


そう言って俺は校舎裏に向かう。


だが途中で、鍵を渡してもらってなかったことに気づいき、奥の教室に戻る。




こういう時、小説やテレビなどだと決まって教室に友達がおらず、何故か校舎からも出られなくなっていて、1人で校舎の中をさ迷うものである。


けれども、この世界は小説やテレビのような虚構の世界ではないので、そんなことはなかった。


ただ、それよりもありえないことが起きてはいたが…。




明りの着いた教室には椎本と、大量の本と、巣食っていた小さな妖がいるだったが、扉を開けた俺は、愕然、呆然、茫然、唖然、全てを合わせたような状態になってしまった。


…椎本は妖を食べていた。まるで綿菓子をちぎって食べるかのごとく自然に。


………はぇ?

………ほぇ?



「ん?鑢坂君どうしたの?」


こちらに気づいた椎本は何事も無かったかの様に振る舞う。


当然と言えば当然だろう。妖が視えない人には椎本が口を動かしているようにしか見えないのだから。


けれども、椎本にとって唯一にして最大の計算違いは、俺が視えてる人だったということだ。


「…いや、委員長何喰ってんだよ。」


「ん?なんにもしてな…………あれ?なんで食べてるって?あれあれ?…え?」


混乱している。混乱の極みだ。

そうしてある程度混乱した後、


「……うー、そういうことですか。鑢坂君、視えちゃってるんだ。やっちゃったねー。」


やっと理解した。


「ここにはいっぱいいるからたまに来てたんだけど、まさか、ばれちゃうとは…、不覚。」


「いや、不覚って。ていうか何故食べてるんだ?腹壊すぞ。」


「ツッコムとこそこじゃないって普通。まあ、お腹は壊さないけどね。………私、妖からでしか栄養を取ることができないんだ。普通にご飯を食べても栄養にならないし、味もしない、びっくりでしょ?妖を食べなかったら生きることができないの。普通の人は視えないから、目の前で食べてても変なことをしてるふうにしか見えないけど、まさかこの学校に視える人がいたなんて、ねぇ。」

友達と一緒に弁当を食べたり、外で食べたり、ご馳走してもらったりと、誰かと何かを食べる機会はたくさんあり、何も感じなくてもおいしいと言わないといけない。

それはきっと辛いだろう。だからといって分かったふりをして、慰めるなんてことは馬鹿にするだけだ。俺には分からないのだから。


だから、俺が言っていいのは、これだけなのだろう。


「生は気をつけろよ、毒持ってるかもしれないしな。」


それにしても俺も含めて、この学校には変な体質の奴が多すぎる気がする。






それから俺は台車を取ってきて(鍵は必要なかった)、大量の参考書等を積め込み、旧校舎を後にする。


もずくと神禰は先に帰らせていたので夜道を2人で帰る。椎本は電車で通っているので駅までの途中、いろんな話をした。妖はどんな味がする、とかそんなにたくさん食べなくてもいい、とかそれから俺の体質についても。

椎本曰く、一概には言えないが、大体が強くなればそれだけ美味しくなるらしい。


「だから今日のはいつもより美味しかったんだ。なるほど。」


「俺には分からないよ。」


「食べてみる?」


「遠慮しとく。」


「あははっ、だろうね。」


ちょうどそこで駅に着いた。


さよならを言って、さぁ帰ろうと歩きだしたところで呼び止められた。


「なんだ?」


「ん、えっとね、やっぱり人って美味しいものが食べたいもねでしょ。」


「まぁそうだけど、それで?」


「また手伝ってくれると嬉しいな、なんて、ダメかな?」


「いいよ、いつでも言ってくれ。委員長にはお世話になってるからさ。」


「えへへ、ありがと。じゃあね。」


「ん、また明日な。」


そうして別れて家に向かう。

その途中で不意に寒気が走った。おそるおそる振り向くと、そこには妖ではなく、もずくがいた、…般若の顔で。

…どうやら、先ほどからの殺気はもずくからでているようだ。…はんぱなく怖い。


「…ど、どうしたんだ?顔が、お、恐ろしいことに、な、っているみたい、だけど。」


ようやく絞りだした声も震えて裏返っている。


「…どうして君は私を置いて帰っているんだい?それも、ひかりちゃんと仲良く2人で。」


ひかりちゃん?あぁ委員長のことか。


「さ、先に帰ってて、くれって、言ったような。」


「私は危ないから待っていると言ったよ。どうやら君の頭の中にはひかりちゃんと2人きり、ということしかなかったようだね。」


視線で人が殺せるのなら、間違いなく、俺は今殺されているだろう。


「そんなつもりは、無かったんだけど。…悪かった、どうすれば許してくれる?」


「血」


「…いや、この前もやったような。」


「今の君に拒否権は一切ないよ。」


「…あー、…了解。」






そうして、フラフラになって帰る俺だった。


あいついつもより30%増し(当社比)で飲みやがった。

遅くなりました。すいません。

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