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07 邂逅

玄関を開けた先には九十九が立っていた。


「おはよう、鑢坂君。今日もいい天気じゃないか。君と登校するのが楽しみで昨日はなかなか寝つけなかったよ。もう、準備はできているかい?そうなら、早く行って朝練でもしようじゃないか。」


…そうだった。鉋宜のことですっかり忘れてしまっていた。

しかしえらくご機嫌な九十九にそれを言ってしまうのもなんなので、黙っておこう。


「あぁ、おはよう九十九。悪いけど、まだ準備できてないんだ。入って待っててくれないか。」


「そうかい。どうやら早く来すぎてしまったみたいだね。んん、異性の同級生の家に入るのは初めてでね。少し緊張するが、お言葉に甘えさせてもらうことにするよ。」



そう、俺はあくまでうっかりしていたのだ、

今現在、我が家に退魔のエキスパートが在住していることを、

そして九十九が4分の1吸血鬼であることも。



「おじゃまします。」

「いらっしゃい。」



九十九を連れてリビングに入って最初に口を開いたのは夏々夏だった。

「兄さん、そちらの方はどなたですか?」


「昨日言ってた助けてくれた奴だよ。」


「あぁ、確か九十九さんでしたか。」


「初めてましてだね。私の名前は九十九もずくだ。気軽にもずくちゃんと呼んでくれてかまわないよ。」


「…えっと、もずくさん。それはともかく、どうして、我が家に居るんですか?」


「それは俺から説明すっ…

説明しようとした瞬間、背中がゾクッとした。

殺気がした方には神禰が冷たい目をして、立っていた。


「遊馬さん、夏々夏ちゃん少し離れていて下さいね。危ないですから。」


そう言う神禰からはいつものニヘラっとした雰囲気が完全に消えていた。


そのまま神禰は背中に背負っていたバット入れのチャックを開く。


そうして、普通なら金属バットが入っているはずの、その中から一本の日本刀をとりだす。


「妖は滅しないとですね。」


「ふん、私をあのような雑魚どもと一緒にしないで欲しいな。これでも気高き吸血鬼の血が流れているのでね。」


…お前完全に自分が吸血鬼だって認めてるじゃん。

俺があんなことを言ってしまったからだろうか。

あぁ思い出すだけで恥ずかしい。


「別にあなたが何者だろうが関係ないですよ。遊馬さんに害をなすものは排除するのみです。」


「何を言っているんだい?この私が害だって?彼に抱きしめられながら甘い言葉を吐かれた私が害だと言うのかい?それならば、2人の間を邪魔する君の方が害じゃないか?」


「…兄さんそんなことしてたんですか?変態ですね。」


事実がクラインの壺並みにねじ曲げられている。


「やっぱり一昨日の話は嘘だったんですか。」


「本当だって。みろよ、この純粋な瞳を。」


「チッ、腐ってやがる。」「お前はトルメキアの第4皇女の軍目付か!!」


「それで分かる人は、あまりいないと思いますよ。」


「それじゃ、あれだ。タヌキだ。」


「さらに分かりにくくなってます。」


仲良きことは美しきかな。なんて、二人で現実逃避をしていた。

頼むから外でやってくれ、家が壊れそうだ。

とてもそんな事を言える雰囲気ではないが。


「一撃で仕留めてあげますよ。」

そう言って神禰は少し腰を落とし、抜き身の刀を下段に構える。


「ふん、貧相な胸しかない小娘に負ける気はないね。」

そう余計な挑発をして(事実ではあるが神禰はきっと普通だと思う、九十九がでかいだけだ)九十九は、自然体のまま目を猫のように細めて、敵を認識する。

神禰に対しても絶対的な力というのは使えるのだろう。


そうして一触即発の空気から、二人が動きだそうとした瞬間、


「たっだいまー!!。可愛い子どもたちよ、今帰ってきたにょー。」


と、空気をよんだのかよんでないのかは知らないが、とにかくナイスタイミングで母親がリビングの扉をバーンと開け、入ってくる。そのままその可愛い子どもたちを抱きしめてこようとしたが、二人揃って避けた後に夏々夏が足を掛けて転ばした。


少し同情してしまう。


見ると、一瞬前まで殺気を放っていた二人も、驚いたのか固まっている。


「うぅ、ひどいよぅ。娘が反抗期だよぅ。激務をこなしてやっと帰ってこれたのに、誰も優しくしてくれないよぅ。」


そう言いながら、床に体育座りで『の』の字を書き出した。


「語尾を伸ばさないで下さい。まったく、女子高生じゃないんですよ。………まぁ、とりあえず、おかえりなさい。」


「うん、ただいま。…ところで、その二人は誰なの?片方は神禰ちゃんぽいけど、もう一人は知らないよ?」


そこで、止まっていた九十九が動きだした。


「驚かせてすいません。本当はもっとちゃんとご挨拶したかったのですが。私は九十九もずくといいます。遊馬さんとはあえて言うなら、…共犯者

「お前は髪が黄緑じゃないし、不老不死でもないだろ!!」

…相手の首に印を残すような関係です。」


「!?」


ああ、完全に誤解してしまっている。


「遊馬、………初孫は女の子がいいな。」


もう、つっこむ気力さえもなくなってきた。


夏々夏はいつの間にか自分の部屋に戻っているし、


神禰も誤解したのかシャットダウン状態である。


母さんは、次は男の子かなと家族計画を建てていて、

九十九はそれを笑顔で聞いている。



カオスなこの空気をどうすればいいのだろう。



考えた結果、学校に行こうと思う。


「ほら、九十九学校へ行くぞ。神禰もそろそろ再起動して、準備しろ。母さん、飯はできてるから適当に食っておいてくれ。」


「「「はーい。」」」


そう言って全員動きだす。



「そこの吸血鬼、遊馬さんに少しでも危害を加えるようなことがあったら、即座に叩っ斬りますから。」


「元からそんなつもりはないさ。私は少し血をもらってるだけだからね。」


「本当はそれだけでも許せないんですよ。遊馬さんの広い心に感謝するんですね。」


まだごちゃごちゃと二人は言い争っているようだったが、とりあえず今争う気は無いようだ。




二階で着替え終えて戻ってくると、神禰も九十九と同じ制服に着替えていた。

ただ学年が違うため、リボンの色が違う。


「さて、いきますか遊馬先輩。」


神禰がバット入れを背負いながら言ってきた。


学校で『さん』付けはおかしいと思ったようで、呼称が『先輩』になっている。


いやそんなことよりも、神禰は学校にも刀を持っていくつもりなのだろうか…。

「おい、銃刀法違反娘なぜ貴様が着いてくる。もともと彼は私と行くつもりだったはずだ。」


「うるさいですね巨乳女。私は今日こちらに来たばかりでここら辺の事を全く知らないんですよ。遊馬さんに送ってもらうのは当然のことじゃないですか。」


「二人共置いてくぞ。」




登校中、俺を挟んで両側に陣取る二人。ずっと、ちょっかいをかけ合うので非常に迷惑である。


「いいですか、所詮あなたは血を媒体とした関係でしかありません。私とは年月が違うんですよ、年月が。」


「違うね。重要なのは、その期間にどれだけ進めるかだよ。」


「もうあなたのターンは終わりです。これからはずっと私のターンです!!」





学校に着いた後、神禰は手続きがあるとかで職員室に行ったので、二人で教室に向かう。


「私だけ呼び捨てでないというのは不公平だとおもわないかい?」


「何をいきなり。別にそんなことはないだろ。」


「いや、そうだね。だからあんな小娘に。」


小娘ってお前と1つしか違わないんだが…


「よし、決めた。私は君を次から遊馬と呼び捨てにする。だから遊馬も私のことを呼び捨てにしてくれ。」

「またむちゃくちゃな…。」


「何か不満でもあるのかい?そうだね、今なら私の胸も揉み放題というのでどうだろう。」


「のった!!」


「………。」


「しまった!!なんて卑劣な罠なんだ。こんな罠を思いてくなんて、恐ろしい子っ。」


「いや、自爆のような気がするけど…。」


「…まぁ気にするな。それよりも早く教室に行こうぜ。今から部活をする時間もないだろ、もずく。」


「…え?…ちょ、今、なんて、も、もう一度。」


もずくから逃げるようにして、軽やかに階段をかけあがる。


顔が暑いのはきっと走っているからだ。


もずくの声はだいぶ後ろのになってしまった。


けれど、少しはやる気も出ただろうか。









そうして忙しい朝が終っていく。

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