06 鉋宜神禰
九十九と一緒に下校をしたその夜、母さんは仕事だったので夏々夏と二人で晩飯を食べた後、俺は祖母に電話をかけた。
「もしもし」
「誰かと思ったら遊馬かい。なんだいこんな夜に急に?」
「ちょっと聞きたいことがあってね。俺の体質のこと婆さんは知ってたのか?」
「まったく、いつもお婆さまと呼べと言っておろうが。で、なんじゃ?視える視えないの事を言っておるのかい?」
どうやら高名な占い師兼陰陽師である祖母さえも、気づいていないようだった。実際に飲んだので九十九は気づいたのだろう。
「いや、そのことじゃなくてだ、どうやら俺は妖とか霊を強化してしまう体質らしいんだけど、婆さんなら何か知らないかと思ってな。」
「ふぁ?お前今なんと言った?」
「だから、どうやら俺の近くに居ると妖とかやばくなってしまうんだと。どうしたんだ?もう年か?」
だが祖母は俺の話など全く耳に入っていないようで、
「なんと、ありえないと思っておったがまさか本当にそうだったとは…。確かにそれらしき予兆はあったが、まさかそこまでとは。いかん、こうしてはおられん。すぐにでも手を打たんと、いいか遊馬すぐにそちらに護衛を送るからの。外に出るではないぞ。」
「そのことについてならすでに………ってもう切れてるし。」
祖母は言いたいことだけ言うと、こちらに喋る隙すら与えずに電話を切ってしまった。
おそらく分家の方の誰かから護衛をよこすのだろうが九十九もいるので、悪いが帰ってもらおう。
「兄さん、お婆さまからだったんですか?」
「そうだ、ただあっちからじゃなくてこっちからだけどな。」
「珍しいですね、兄さんがあそこに連絡するなんて。」
「妖関係の話だったからしょうがなくだよ。」
「そうですか…。私には視えないので何とも言えないですが、困ったことがあったら言ってくださいね。」
…なんて可愛い妹なのだろう。
あまりにも可愛いので抱きしめる。
「!?ちょ、に、兄さん!?いきなりな、何を。」
顔を真っ赤にして慌てふためく妹。
ますます可愛いがこれ以上はシスコンではなく変態である。
夏々夏は離した後も真っ赤な顔をさせながら、
「兄さん、スキンシップが激しすぎます。ここは欧米ではなく、日本ですよ。なんというか、…もっと恥じらいを持ってというか、……いきなりだと心の準備も出来てないですし…。」
「ああ、そういや明日くらいに居候が来るらしい。」
「華麗にスルー!?で、誰がどうして来るんですか?」
「来るのは分家の奴みたいだが具体的に誰が来るかは言ってなかった。」
理由は祖母にしたのと同じ説明をする。
夏々夏は心配しているようではあったが、まあ分家から人も来るということで納得した。
「俺はもう寝るけどお前はまだ起きとくのか?」
「私は食器を洗ってから寝ますので、おやすみなさい兄さん。」
「おやすみ夏々夏。」
さて、宿題などは既に済ませてある。これ以上何かすべきだろうか、いやすべきでない。
というわけで早々と寝てしまおう。
朝、いつもの様に早くから起きて俺は朝食を作っていた。
バイクが無いところを見ると、どうやら母さんはまた会社に泊まりのようだ。
夏々夏は少ししてから起きてきて、今はソファに座ってTVを見ている。
チャイムがなったのは、俺がちょうど味噌汁を作り終えた時だった。
火を止めて玄関に向かう。
玄関を開けると、そこには大きなバッグを両手に持ち、金属バットを入れておくような革製の長い筒を背中に背負った、同年代くらいの女の子が立っていた。
「あれ、もしかして神禰か?」
「あ、は、はい。遊馬さんお久しぶりです。」
そう言って彼女はニコッと笑う。
鉋宜 神禰俺より1つ下の女の子で鉋宜家の長女である。
だが顔見知りするなど、長女としての貫禄はあまりない。
鑢坂家の分家の人間は基本的に、各々が得意とする分野で分かれている。ただそれは、代々ある一族がその名を継いでいくわけではなく、彼らが生まれた時に本家の当主によって占われ、その卦に従って分けられる。要するに、名字が一緒でもそこに両親がいるわけではない、というわけである。だからこそ余計に彼らは家族の絆というものを大切にしている。
そして鉋宜家はその中でも妖討伐を生業としている一族である。
ちなみに神禰とは最初に目のことで本家に行って以来ちょくちょく遊んだりしていた。
「まあ考えたら鉋宜が一番適任だよな。それにしてもえらく早かったな。」
「えっと、…昨日の夜に家にいたら、い、いきなり当主様がやって来て、すぐにこちらに向かうように言われて、あ、あの、朝早くからごめんなさい。」
「…それは別にかまわないけど、どれくらいいるように言われたんだ?」
「うぅ、ごめんなさい、何も聞かされてなくて、多分帰って来るように言われるまでだと思うんですけど…。」
あの婆さんならあり得ることだ。予告無しでやってくる台風のように迷惑な人なのだから。
「まぁ、とりあえず中に入れよ。飯もまだだろ?ちょうどできたとこだから、一緒に食べるか?」
「あ、はい、ありがとうございます。遊馬さんの料理も久しぶりなので、嬉しいです。」
荷物が重そうだったのでバックを持つが、背中のバット入れだけはどれだけ言っても渡そうとしなかった。
リビングでは既に、夏々夏が朝食の準備をしてくれていた。
「お、ありがとな、夏々夏。で、こちらが居候さん。」
「どういたしまして。で、そちらはもしかして神禰ちゃんですか?」
「もしかしなくても神禰ちゃんです。」
「…えっと、久しぶりだね。夏々夏ちゃん。」
「久しぶりだね。最後に本家に行った時以来だから3年ぶりくらいかな?」
夏々夏は同年代なので特に仲がよかったようだ。
「まあ積もる話もあるが飯食べながらにするか。そういえば神禰は高校はどうなってるんだ?」
「えっと、遊馬さんと同じ高校に編入することになってると思います。」
手回しの早いことだ。
鑢坂の力でないと出来ないようなことだろう。
楽しく朝食を食べ終わって、そろそろいきますかとしている時に2度目のチャイムがなった。