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04 九十九もずく 3

「まず、最初に私は本当に吸血鬼ではないんだ。例え長い間血を吸わなかったとしても、死ぬわけではない。しかし貧血みたくフラフラになったり、倒れたりはしてしまう。まぁその程度なんだ。」

とりあえず、彼女は自分を吸血鬼だと認めようとはしなかった。


「初めて自分に流れているおかしな血について、気づいたのは小学校に入る前だった。


その頃とても仲のいい友達がいてね、今でも仲はいいんだが。…とにかく毎日のようにその子と一緒に遊んでたんだ。


その頃は折り紙にはまっていてね。いろんなものを折って二人で楽しんでいた。


そんなある日のことだよ。その日もいつものように折り紙をしてたんだが、その子が折り紙で指を切ってしまったんだ。君にもそんな経験があるだろう?


その時だ。不意に自分の中で、何か熱いものが渦まきだしたんだ。喉がカラカラに渇いて、頭がぼ〜っとなってね、どうしても視線がその子の指から流れている血から離せなかったんだ。


そして、衝動に突き動かされるままに、その子の指を持って、血を吸ってしまったんだ。


終わった後で、もの凄い自己嫌悪に陥ったよ。


どうしようもなかったので母にそのことを泣きながら話すと、母は驚いた顔をしてね、すぐさまルーマニアから祖母を呼んだ。


すぐと言っても2日程かかってね、祖母が来るまでは、とてもじゃないが何かを食べる気にならなくて大変だったよ。


そうしてやって来た祖母に話しを聞くところによると、かなり昔の祖先がまさにそのものだったらしくてね、それからというものたまに、血を受け継いだ者が生まれることがあるらしいんだ。


こっちとしては迷惑な話だけどね。


まぁ今更どうのこうの言ってもしょうがなかったし、そのままにしておくわけにもいかないので、

ある程度衝動を抑えたりするような方法とかを祖母に教えてもらった。」




…どこかで聞いたことのあるような話だ。



「なぁ、そこまでは分かったんだが、ちょっといいか?その血を吸われた子はどうしたんだ?そんなことをされたら普通驚くだろ?」

驚くだけで済めばいい方だろう、妖を見なれてしまい、ちょっとやそっとのことじゃ驚かないぜ!!、みたいな自信を持っていた俺でさえ、その自信を木っ端微塵に打ち砕かれてしまったのだ。

いっぱんぴーぷるなら卒倒ものである。


「………ん、………いや、………それがだね、その子はとても、なんというか、そう、怯えてしまってね、『ばけもの、ばけもの』とつぶやくわけさ。…それで我に帰ったこっちも自分が怖くなってね、『違う、違うの、私じゃない、忘れて、お願い忘れて』と言っていたら、………その子の目が段々と虚ろになっていってね、『………違う、………もずくちゃんじゃない、………私は忘れる。』なんてことを言って、わけが分からなくて混乱している私を放って帰ってしまったんだ。祖母に聞いた話では吸血鬼の能力の1つらしい…。」


おおぅ、いや、それはどうなのだろう。人間にはそんな能力は無いと思うのだが。

自分でも軽く認めちゃってるし…。


もしかして俺が知らなかっただけで、そんなファンタジーみたいなのは、いっぱいいるのだろうか?

エルフとか、

鬼とか、

猫娘とか、

ポストに手紙を入れたらやってくる、片目が無くて、黄色と黒のちゃんちゃんこを着た、幽霊族の生き残りの男の子とか。


さすがに最後のは居ないとは思うが…。



そんなことを考えていると、俺が彼女のことを化物とでも考えていると勘違いしたのか九十九は泣き出しそうになってしまった。


…もずくちゃん、案外泣き虫である。


世の中のほとんどの男にとって女の涙は、絶対命中、効果抜群、一撃必殺であり俺もその例にもれない。


あたふたしながら、

「い、いや、心配するな、お前のことを化物だなんて思ってないから。」


そう言うが、


「いいんだよ…、別に…、慣れてるから…。みんな言うんだよ、ふと飲んでしまった後必ず、『化物』って…。別になりたくてなったわけじゃないのに…。」


ますます落ち込ませてしまう。


「本当にそんなこと思ってないって。そ、そうだ、どのくらいの割合で飲んでるんだ?」


「大体、週一くらいかな。」


そこそこ、いや結構、いやかなり、多かった。


「あぁでも君のを飲んだから後1ヶ月は大丈夫だと思うよ。」


「は?どういう意味だ?」

「え?気づいてないのかい?…いや、それなら言わない方が…」


「何?何だよ?何なんだよ?気になるじゃん!!教えてくれよ。きになって夜も眠れなくなりそうだよ。」


「…そうかい?それなら言うが、


………君には近づくだけで妖を強くするような血が流れてるんだ。さらに、その血や器官を喰らうと、本来の何倍もの力を得ることができる。1ヶ月は大丈夫だと言ったのもその能力のおかげさ。まぁ、そうでもない限り、普通昨日みたいなのには出会えないからね。」


衝撃の事実発覚である。脳内新聞の一面を飾ることは間違いない。


そんな大事なことは言っておいてくれよ、ばあさん………。


考えてみると、いくつか思い当たることがないことも無い。


成長のないはずの幽霊である明石さんも、俺が挨拶をしていくうちに、サングラスをかけるようになったり、スーツが某有名メーカーのものになったりしていた。


「……あぁ、そういや昨日お前はなんであんなに強かったんだ?俺の血を飲んだのは、その後だったろ。」

「それも特性でね、ああいうの相手だと絶対的な力を得られるんだよ。」


なんとも反則じみた能力である。要するに、妖相手だと最強ってことじゃないか。


それよりも、さっきから自分のことを吸血鬼だと認めているようなものなのだが、いいのだろうか?




「鑢坂君、お願いがあるんだ。」


不意に九十九は真剣な顔をして言ってきた。


「…君の血を1ヶ月に一度でいい、飲ませてもらえないだろうか。もちろん代わりになるようなことなら何でもしよう。多分昨日みたいなのはまた現れるだろう。その時に君を守ってみせる。都合のいい話だというのは十分分かってる。…でも、もう嫌なんだ、誰かに化物と言われるのも、その人の記憶を消した後に何も無かったかのように振る舞うのも…。だから…。」



その時の九十九の表情は、彼女がうつむいていた上に、長い髪で隠されていて見えなかった。



「いいよ。」


気がつくと俺はそう言っていた。


九十九は、まるで狐につままれたかのような表情をしつつ顔を上げた。


「いいのかい?本当にいいのかい?OKって意味かい?別に強制じゃないんだよ?」


「ああそうだよ、OKって意味だよ。なんだよそんな顔して、俺がOKすると思ったから言ったんだろ?言っておくが、お前のためじゃないからな。あくまでお前が俺を守ると言ったからであって、別にお前の…って、あああ、とにかく、契約成立だ。」


なんだか可愛いツンデレキャラになってしまっている。

くそぅ、こんなつもりではなかったのだが。


九十九もそれが分かっているのか笑っている。


正直とても恥ずかしいが、その場の雰囲気に合わせて言ってしまおうと思う。


「今まで周りどころか家族でも視えるのがいなくてな、視えてても誰にも言えなくて結構辛かったんだ。そんなのでありたくないお前はこんなことを言われたら嫌かもしれないが、俺はお前とこんな話ができて凄く嬉しいんだ。」


そう言うと彼女の顔はみるみるうちに真っ赤になってしまった。


そんな反応をされるとこっちも恥ずかしいではないか。


「…そ、そんなことを言われるのは初めてだよ。………そんなふうに、い、言われるなら、きゅ、吸血鬼でも、………ぃぃかなとか、…………と、とにかく私も嬉しいよ!!」


そう言って九十九はいきなり抱きついてきた。

お互い座って話していたので勢いをころせずに、押し倒されたようになってしまう。


ここは日本であって、欧米ではないんだ。だからそういう過激なスキンシップはもう少し抑えてくれ。


と、胸よりも下くらいにある柔らかい物体に気がいかないように現実逃避をする。


九十九は自分のしでかしたことに気づいた様子で、


「いや、こ、これはわざとではなくて、なんというか、その、ふ、深い意味があったというわけではなくて、」


弁解はいいので早くどいてくれと切望する。どいてくれないといろいろやばい。


そしてその瞬間、実にタイミングの悪いことに、弓道場の扉を開いて、弓道部顧問である蓬生よもぎ なぎが入って来た。


「おーい、九十九まだ練習してるのか?ホームルームの時間だからそろそろ上が………なんだ、お前達そういう関係だったのか。いや、だがな、そういうことは時と場所を考えろ。確かにもてあます年頃だし、こういう状況で、もえるのもわからなくはないさ。私だってそんな時代があったからな。でもな、ここは学校なんだ。さすがにまずいって。だから、まぁ、とりあえず授業には出とけよ。」


そう言って去って行った。


彼女はいつの間にか離れている。



さて、あの27歳現在彼氏募集中の先生が、迷惑にも作っていってくれた、この微妙な雰囲気をどうしよう?

あ〜、うん、なんとか仕上がりました。自分で読み返してみて一言、「なんだよ、これ。」 感想・評価をもらえると嬉しいです。

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