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02 九十九もずく


ヤバい、本能が告げている。


逃げなくちゃ、そう思うが、捕らわれたように足が動かない。



俺は人生最大のピンチにたたされていた。



今日は遅くまで部活があったので、俺は急ぎながら走って家に帰っていた。


既に時刻は9時を過ぎていて、辺りは真っ暗である。


家にはお腹を空かした母親が待っているはずだ。


遅くなった場合には何か作って食べるよう言ってあるが、電子レンジを充電器か何かと勘違いし、携帯をチンしてしまったこともあるような親だ。


まともに何か食べている可能性は皆無だろう。


唯一の希望は店屋物くらいだ。



なんてことを考えながら、少し近道をして帰ろうと思い人気の無い路地に入り、時計をちらりと見てから前を向いた時だった。




そこにソレはいた。




いつからだ?

時計を見る前にいなかったのは間違いない。こんなやつを見逃すはずがないからだ。

ソイツは真っ黒で1つの目を持った蜘蛛の形をしていて1メートルほどの大きさだった。その程度のなら今までに幾度となく視てきた。


ただソレが他と違っていたのはなんというか、オーラのようなものだった。圧倒的なまでの威圧感をソレは出していた。


いつから?

どこから?

どうやって?


そんな疑問はそいつと迂闊にも目が合った瞬間に吹き飛んでしまった。


祖母の教えでは、目を合わせることが一番やってはいけないことだったが、

いや、いきなり音も無く出てくるような奴とどうやって目を合わせないようにしろと。


とにかく、今俺の頭の中にあるのは戦うなどではなく、逃げるという選択肢だけだった。


こんなのに立ち向かう術など俺は知らない。


しかし、逃げようとしても冷や汗が流れるばかりで、まるで地面に縫い付けられたかのように足は動かない。いつの間にボス戦になっていたのだろう。


目を合わせたまま、ソレは8本の足を器用に動かしながらじわじわと近づいてくる。


目を反らした瞬間にでも喰われそうでさえある。


え?何これ?もしかしてBAD END?


どっかで選択肢間違えた?


んー?死亡フラグを立てた記憶は無いのだが。


彼女が現れたのは、そんな今にも死にそうな状況で現実逃避をしている時だった。


「ん?何かと思って来てみれば…、そこにいるのは鑢坂やすりざか君かい?何だか大変そうだね。もしかして蜘蛛は苦手なのかい?」


見えてないので確信は持てないが、俺はその声と喋り方に聞き覚えがあった。

…というか、ほんの数時間前まで聞いていた。


「その声は九十九か!?なんでこんなとこに…………ってお前もしかして、視えるのか!?」


「そんなことも知らなかったのかい?全く、これだから君って奴は…。いったい君の頭の中には何が入っているんだい?」


そう言って彼女がため息をつく音が聞こえた。


何というか、ひどい言われようである…。


本当は、こんな悠長な会話をしている場合では無いのだが、目の前のソレは彼女の登場に驚いたのか、足を止めている。


俺とソレが止まっている中、彼女は何故かそのままツカツカと俺の前まで歩いて来た。


こんな状況ではあるが、やっぱりと言うべきなのだろうか、その長い黒髪を持つ彼女は、

九十九 もずく《つくも もずく》だった


「いや、九十九、お前視えてるんなら逃げろよ!分かるだろ、そいつはヤバいって!」


「ふっ、私がこの程度の妖に喰われると言いたいのかい?でも嬉しいよ、君が私のことをそんなに心配してくれていたなんて。胸に染み入って、ただでさえ大きい胸がますます大きくなってしまいそうだ。全くこれ以上大きくなったらどうしてくれるんだい?」


そう言って、九十九はその大きい胸をタフュンと揺らしながら、胸を張った。


「そんなわけあるか!どうしたらそんな考え方になるんだよ!なぁ、こんなこと話してる場合じゃないんだよ。ほんとヤバいんだって。胸の話なら今度いくらでもしてやるから、逃げろよ、勝てるような相手じゃないって。」


今喰われてしまえば、話すことなどできなくなるのだが、そんなことを考えている余裕など、全く無かった。


だが九十九は俺の言ったことなど聞こえて無いように、


「そんな大事な友達の君を助けたいのだけど、右手と左足が機械のお兄さんと全身鎧の弟の兄弟や、

必要の無い人には入れないお店に住んでいる、次元的なものの魔女さんが言ってるように、

この世界は等価交換なのだから、君を助ける代わりに私のお願いも叶えてもらうことになるが、それでもいいかい?いいよね鑢坂君。」


と言ってきた。


「お前は一体何を言っているんだ?俺にも分かるように説明してくれよ。うん、いや、本当分からないんだって。」


そう言い返すと、


「OKしたね!!今したね!!」


そう言って興奮していた。


「おい、待て一体俺に何をさせる気だ!それよりも今の『うん』は承諾の意味じゃない!お前はどこの悪徳業者だ!」


だが、九十九はまた無視してソレに飛びかかって行った。

あいつはどれだけ都合のいい耳を持っているのだろう。







圧倒的というか、圧巻だった。


九十九がソレの足に手を添えて少し力を入れるだけで足が小枝のように折れていき、

九十九がソレの腹に足を乗せるだけで腹がメゴォォォとへこんだ。

そうする度にソレの欠片は霧消していき、気づくと5分も経たないうちにソレは完全に消えていた。


何だろう。この圧倒的なまでのスペックの差は?

まるで、戦闘ヘリでかかしを攻撃するかのようだ。



当の彼女はご機嫌な様子で鼻歌を歌っている。


いや、九十九お前は一体何者だ?


そうしていると、不意に九十九はこちらを向き、笑顔で


「さぁ遊馬、対価をもらおうか?」


そう言ってきた。



おおぅ、ソレがやられる様子にあぜんとしすぎてすっかりさっぱりきっちり忘れていた。

笑顔の九十九は正直可愛いが、対価の内容が恐ろしい。


何がくるのか全く想像できない。

いつの間にか名前で呼ばれてるし。


そして彼女は笑顔のまま、こちらに近づいてくる。



怖い、怖すぎるぞ九十九。



彼女が一歩進む度に一歩下がっていたが、周りの家の塀に当たり、ささやかな抵抗もすぐに終わってしまう。

本日2度目のピンチである。


「落ち着け九十九、とりあえず落ち着こう九十九、深呼吸だ九十九。対価ってなんだ?何を求めているんだ?俺達友達じゃなかったか?なんだ?もしかして見せかけだったのか?心の中では『へへっ、美味しそうな奴だ、いつ喰らってやろうか』的なことを考えていたのか?今日弁当をくれたのも『ぐへへっ、いい感じに肥ってきたぜ、そろそろ食べ頃か』っていう伏線だったのか?」


7個もハテナマークを使うくらい俺は動揺していた。

「いや、私は別に『ヘンゼルとグレーテル』のお婆さんなわけではないが。というかまず君が落ち着きなよ。取って喰おうってわけではないんだから。少しチクってするだけだよ。そんなに怯えることは無いさ。」


何故この後に及んで不安を増長させるようなことを言うのだろう?



九十九はそのまま怯える俺の首に腕を回し、目を閉じながら頬を赤く染め、瑞々しい唇を薄く開き、俺の顔の方に近づけてきて、













「いただきます。」

そう言って俺の喉元に噛みついた。




噛みつかれた時は痛かったが、すぐになんだかフワフワした気分になった。


それから彼女が口を離すまで実際は数秒だったが、俺にはだいぶ長く感じられた。


「ごちそうさま。」


そう言って彼女は口を離した。


少ししてから我にかえる。


「………いや、お前何者だよ。」


「何ってちょっと血が好きな普通の女の子さ。」


「いや、俺の知る普通の女の子は血なんか好きじゃない。」


動揺のあまり720度程回って冷静になっていた。

「てかそれって、吸血k

「違う!!!!ちょっと血が好きなだけだよ!!」


「いや、だからそれが吸け

「違うんだって!!おばあちゃんはそんな感じだったが私は違うんだ。」


いわゆるクォーターというものらしい。


「日光を浴びても皮膚は焼けないし、ギョーザも食べられる。こんなことしたって大丈夫なんだよ。」


そう言って彼女は大きな胸の前で人差し指をクロスさせた。


涙目で必死に訴えてくる彼女がかわいそうでもあったし、貧血気味で疲れていたので、もう何でもいいや、と考えることを諦めた。


「あー、分かった分かった。お前はただ、血吸うのが好きなだけなんだな。」


「なんだか適当な感じだけど、分かってくれたならそれでいいよ。」


「とりあえず聞きたい話とかもあるけど遅いし、疲れてるからまた明日学校でな。」

そういうと、何故か彼女は笑顔になって、


「あぁ、また明日。」


そう言って走って帰ってしまった。




余計なことに首をつっこんでしまったな、と思うが、とりあえず今一番大事なことは、家に帰ってこんなフラフラな頭で晩飯をどういようか、ということだった。

正直3話目以降の話をほとんど考えてません。そのせいで、いつの間にか全く違う小説になっているかもしれません。早速あらすじとかも変えてるし。まぁそれでも頑張っていきたいと思います。

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