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禁じられた恋の果てに  作者: タイガーアイ


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15 親族との引き合わせ


「あのね」とリリアセレナはロベルトの顔を見上げた。

 零れ落ちた涙を拳で拭い、今まで一人でじっと心に溜めていた事を一つ一つ言葉に落としていく。


「アンシェーゼの母様はね、リリアの事が嫌いだったの。何で男の子に生まれなかったんだって数えきれないくらい責められた。

 母様にとってリリアは役立たずで、要らない子だったの。

 侍女のいないところでいっぱいぶたれたし、ご飯も食べさせてもらえなくていつもひもじかった。

 リリアの首を絞めて殺そうとした事もあったんだよ。

 ……何で、途中で気が変わっちゃったのかなあ。ずっとずっとリリアの事が嫌いだったくせに」


 泣きながらリリアセレナは笑った。


 リリアを殺したら罪に問われるから、あの人は自分可愛さに殺す事を諦めたのだろう。

 人に見られないところでリリアセレナを傷付ける事は好きなのに、自分が周囲から責められる事は嫌がっていた。


「アンシェーゼの皇帝もね、リリアに興味がないの。 

 ずっと会った事がなくて、嫁ぐと決まって初めてリリアの事を思い出したみたい。

 でも、リリアはやせっぽちで醜い子だったから、がっかりされちゃった。リリアの事を貧相な子だって……!」


 リリアセレナはぶわりと涙を溢れさせた。

「何でこんなに痩せているのかって、聞いてもくれなかった……」


 実の父ならば、リリアを気遣ってくれるかもしれないと思っていたけれど、それはただの幻想だった。

 あの言葉がどんなに小さいリリアセレナを傷付けたか、きっとあの皇帝は思いを巡らせる事もないのだろう。


「そうか」


 ロベルトは静かに相槌を打ち、しゃくり上げながら話すリリアセレナの言葉に黙って耳を傾けてくれた。


 その寡黙な優しさが心地良かった。

 リリアセレナが故国で虐げられていた事を知っても、父皇帝から好かれていない事を知っても、お父様の愛情が揺らぐ事はない。

 だから安心して全てを吐き出す事ができた。


 肩に置かれた大きな手から温もりと共に大らかな愛情が伝わって来る。

 リリアセレナは最後の涙を拳で拭い、口元に小さな笑みを浮かべた。

 心にずっと巣食っていた激しい恨みと怒りからようやく解放された気がした。



 翌日から、リリアセレナは朝のお祈りのために聖堂に赴くようになった。

 反抗する理由はなくなったし、リリアセレナ自身、あの敬虔な祈りの時間に身を置きたいと心から願ったからだ。


 午後にはヴィヴィアの見舞いも許され、リリアセレナは庭師のクタンに頼んでガーベラの花を摘んでもらった。


 ヴィヴィアはベッドの上でようやく身を起こせるようになっていて、花束を持ってお見舞いに来たリリアセレナを見て、心からほっとしたような笑みを見せてくれた。

 リリアセレナはヴィヴィアを疲れさせないように気をつけながら、少しでも退屈が紛れるようにと、枕元で詩集を朗読して差し上げた。


 その後、少しだけお喋りをして早々に退室した。

 長居をしてヴィヴィアを疲れさせたくなかったからだ。


 焦らなくても、時間はこの先たっぷりある。

 ゆっくり時間を積み重ね、この家で思い出を一つずつ作っていけたらいいなと思った。




 リリアセレナの包帯が取れ、生え際近くの傷がごまかせるようになった頃、ロベルトは近しい親族を邸宅に招いた。


 引き合わされた親族は四名で、リリアセレナにとっては義理の伯父伯母となる。

 ロベルトの姉であるフォン・アルマディーノ卿夫人クラウディアとフォン・ロビン卿夫人リテーヌ、そして弟のシオン卿ヴァザーリ。

 もうひとりはヴィヴィアの兄のセルダント卿セイシルだった。


 ロベルトとヴィヴィアは従兄妹の関係にあたるため、この六人は幼い頃から親しく交流していたらしい。

 もう一人リヨンというヴィヴィアの弟もいるが、公都から遠く離れた地に暮らしているため、今はなかなか会えないと説明された。


 何故今になって親族に紹介されるのだろうとリリアセレナは首を捻ったが、嫁いだ日に顔合わせとならなかったのは、アンシェーゼ側から申し入れがあったためらしい。

 まだ七つという幼い身で長旅を経て嫁いでくる皇女の負担を考えて、当日は家族だけで温かく迎えて欲しいと、アンテルノ家に書面で伝えられていたそうだ。


 嫁いだ当日、余りに寂しい出迎えに、やっぱり自分は望まれていなかったんだなどと一人勝手にいじけていた自分を思い出して、リリアセレナは思わず苦笑いしてしまった。


 引き合わされたリリアセレナは、四人の伯父伯母の前で丁寧に膝を折った。


「リリアセレナ・フェーデと申します。よろしくお見知りおき下さいませ」


 つい先日まで、朝の祈りはすっぽかすわ、過食に走るわで散々周囲を振り回していた訳だが、そんな事はおくびにも出さない。

 皇女の見本のような美しいカーテシーを披露すれば、ロベルトの長姉に当たるクラウディアはほうっと満足そうな吐息を零した。


「さすがアンシェーゼ皇家の血を引く方は違うわね」


 そんな風に手放しで褒められたのは初めてで、リリアセレナはちょっぴり照れてしまう。


 このクラウディアは、目鼻立ちのはっきりした非常に華やかな女性だ。

 確か、年はロベルトより三つ上だと聞いている。どっしりとした威厳に溢れ、いかにも旧家の奥方だという印象を受けた。

 

「恐れ入ります」と言葉を返したリリアセレナに、今度はロベルトの次姉のリテーヌが話しかけてきた。


「せっかくこちらに嫁いでくれたのに、肝心のユリフォスは留学中で貴女には寂しい思いをさせてしまうわね」


 長姉のクラウディアがお腹周りに肉をつけ始めたのに対し、こちらは若い頃の体形をきちんと維持している。

 クラウディアほど華はないが、目鼻立ちは整っている。目元の辺りがどこかロベルトに似ている気がした。


「お気遣い下さいましてありがとうございます」


 そう答えながら、リリアセレナは久しぶりに自分が結婚していた事を思い出した。

 お父様やお母様の愛情を確認する事に一生懸命で、はっきり言って夫の事は忘れていた。


 実を言うと、すでに顔も朧である。

 けれどそれを馬鹿正直に言ってしまっては身も蓋もないので、一応言葉を取り繕っておいた。


「こちらにはお父様とお母様がいらっしゃいますから寂しくはありません」


 そう答えてはにかむようにヴィヴィアの顔を見上げれば、よくできましたと言う風にヴィヴィアがにっこりと笑いかけてくれた。

 その優しい笑顔を見るだけで、心がほくほくと温まってくるようだ。


 その後はリリアセレナが退屈しないよう、皆が何くれとなく話しかけてくれ、楽しいひと時を過ごす事ができた。


 帰り際になってリテーヌが、あっと思い出したようにロベルトの方を見た。


「そう言えば、わたくしの義妹がオーウェン家に嫁いでいるのだけれど、その子ども達の事を覚えているかしら」


「確か三人子どもがいたんじゃないか。上二人が男の子で、一番下が女の子だろう?」


「ええ。

 義妹は夫と年が離れているから、子ども達もまだ小さいの。確か一番下の子は七つだったと思うわ。

 良かったら今度その子をこちらに連れて来ましょうか。

 リリアセレナにもそろそろ友達が必要なのではなくて?」


「そうだな」とロベルトはリリアセレナの方を見た。


 社交デビューはまだ先の話だが、いずれユリフォスと共にアンテルノの名を背負っていく身であれば、今の内から少しずつ貴族の人脈を作っておいた方がいい。


「リリアもそれで構わないか?」


 ロベルトからそう確認され、リリアセレナは突然の事にどぎまぎしながらも「お願い致します」と頭を下げた。


 今まで同じ年頃の子と遊んだ事はなかった。

 何を話したらいいのかちょっぴり不安はあるけれども、同じ年の女の子が家に来てくれるのだと思うと、それだけで心がくすぐったくなる。


「では、オーウェン家の方に伝えておくわね」とリテーヌが笑った。

「グラディアもお友達を欲しがっていたから、きっと喜ぶでしょう」


 グラディアという名前なんだと、リリアセレナはその名前を宝物のように心の中で転がした。


 優しいお父様とお母様が与えられて、今度は新しい友達がリリアセレナの世界にやってくる。

 その日がとても待ち遠しかった。


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― 新着の感想 ―
良かった。とうとうここにたどり着けましたか。 高位貴族の夫妻であれば、いかに愛情深くともなかなか親子の情報というのは難しく、しかも血の繋がりに惹かれる呪いのかかったような二人が、難しい子どもとどのよう…
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