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修学院でのある一日


 数術学の正門を入ったすぐにある小掲示板の前で、ユリフォスは張られた紙片に目を通していた。


 学部棟の敷地内にはこうした掲示板が数か所あり、学生らが思いついた設問を紙片に記し、画鋲でとめられるようになっている。

 

 その設問は多種多様だ。

 円や線、多角形などを書き込んで長さや面積を求めるものもあれば、数字や文字記号だけが羅列する複雑な数式問題もある。

 いずれも数術に自信のある者が作った設問で、この問題が解けるか否かと他の学生らに挑戦状をたたきつけている訳だ。


 因みに、この掲示板に匿名は許されていない。

 出題をする者も回答を記す者も記名が絶対条件で、間違えた答えを書けば恥を晒すし、それは設問を記す者にとっても同様である。

 設問として成り立たないものをうっかり披露してしまうと、「回答不能」と書き込まれて頭を抱える事となる。



 さてユリフォスは、数日後には農学部編入を控えた数術学部の三年生である。

 三年間の数術基礎課程を終え、念願の他学編入を許可された訳だが、籍を移す前に一度くらい掲示板に名前を書き込んでみたいという野望に憑りつかれ、ここ最近は連日のように方々(ほうぼう)の設問所に足を延ばしていた。

 

 余程の秀才ならともかく、一般的に掲示板デビューするのは三年間の数術基礎課程を終えた者ばかりだ。

 それまでははっきり言って歯が立たない。

 書き込まれた答案を見て、「ああ、なるほど」と理解できればまだいい方で、回答を見てもその理論過程がわからずに、同レベルの人間とああだこうだと議論し合ってそれで終わりとなるのがほとんどだった。


 なのでユリフォスが今狙っているのは、同学年生が作った比較的易しい設問だ。

 ミケレやマウルあたりが近々掲示板デビューを果たすと息まいていたから、うまくいけば見つけられるだろうと思い、やってきたのである。


 と、掲示板の端っこ辺りに、昨日まではなかった新しい紙片を見つけてユリフォスは目を輝かせた。


 設問者の名前はフェイエ、カミュー。ユリフォスの同学年生である。

 これならば何とかなるかもしれない。


 部屋に持ち帰ってじっくり取り組むため、ユリフォスはいそいそと問題を書き写し始めた。

 その場ですらすらと回答できれば格好がいいのだが、ユリフォスにはまだそこまでの力はない。

 間違えた答えを書きでもしたら大恥だし、更に別の人間によって正解が書かれでもしたらもう最悪である。


 書き写した数式に誤りはないか慎重に見比べていると、いきなり背後から首に手を回されて、ユリフォスはぐえっと間抜けな声を上げた。

 咳き込みながら後ろを振り返れば、友人のアルルノルドが立っている。


「何、書いてるの?

 私たちにも解けそうなのがある?」


 どうやらアルルノルドも、ユリフォスと同じく掲示板巡りをしていたらしい。

 わくわくと掲示板を覗き込んでくる。


 ユリフォスは紙片の一つを指さした。

 

「フェイエがいち早く掲示板デビューしたんです。

 これを解いてやろうかと思って」


 敬語を使うのは、一応この相手がガランティアの第三王子であるからだ。いくら親しいとは言え、王族相手にタメ口はない。


 因みに名前は呼び捨てだが、これは修学院生ならばごく当たり前の事だった。

 出自や身分に囚われずに共に学ぶというのがこの学び舎の基本的な観念であり、だから他の学生たちも学院内限定でアルルノルドの事を名前呼びしている。


 そのアルルノルドはユリフォスの肩に腕を回し、顏をくっつけるようにして設問の内容に目を通した。


「あー、これなら何とかなる……のか?」


「五分五分、ですかね。

 でも二人分の知恵を合わせたら、何とかなるような気がしませんか?」


 ユリフォスの言葉にアルルノルドはにやりと笑った。


「それはいいな。連名で回答デビューだ」


 ユリフォスとアルルノルドは仲がいい。

 出会いの時から馬が合ったというのが一番だが、ユリフォスがたまたまこの国から遠い公国の出てあるというのが、アルルノルドにとっては気安かったようだ。


 この王子殿下は、王族である自分が周囲に与える影響というものを熟知している。

 自国の貴族と懇意になる時は、それによって政治のバランスがどう動くかを常に頭の端に留めておかねばならないが、その点、遠く離れた公国の貴族であるユリフォスならば面倒な事はあまり考えなくて済むという訳だ。

 

 そんなこんなで他国の王子殿下と親しくさせてもらっているユリフォスだが、出会ってすぐに、自身の素性については正直に申告しておいた。

 平民の血が混じったユリフォスを毛嫌いする貴族は今までにも多くいたし、王子殿下にはあらかじめその事を伝えておいた方がいいと思ったからだ。

 

 が、ここで思わぬ誤算が生じた。

 それを聞いたこの王子サマ、何を勘違いしたかユリフォスの事を同類だと認識してしまったのである。


 アルルノルドの言い分は、「自分たちは二人とも父親の身分は高いが、母親は平民」という事らしいが、そもそも一国の王と公国の一貴族を一緒にする、その発想が間違っている。

 まして、王子としてかしずかれて育ったアルルノルドと違い、自分はたまたま兄がポカをやらかしたせいで爵位にありつけた次男坊だ。


「おんなじだね」とにこにこしながら言われたが、不敬になりそうなのでユリフォスは絶対に頷かなかった。


  

 さて、二人は一緒にフェイエの設問を解く事にして、仲良く連れ立って寮へと帰ってきた。


 修学院の寮は、平民らが入寮する『一般学生寮』と、王族や裕福な貴族らが入寮する『特室寮』の二つがあり、王族であるアルルノルドはその特室寮の特等特室に入寮している。

 一方のユリフォスは一等特室だ。

 ユリフォス的には二等特室で十分だと思ったのだが、父曰く、アンテルノ家の嫡男である以上、面子というものがあるらしい。

 

 まあお陰で、補佐官のジェルドをガランティアに連れて来る事ができたのは助かった。

 一等特室以上の入寮者でないと、寮に仕え人を連れて来る事は許されないからだ。


 次代の当主補佐として育てられてきたジェルドは、ユリフォスより八つ年上の大層有能な男である。


 一般教養はもとより主だった貴族の家系図や歴史にも通じていて、領地経営や屋敷内管理についても知識が深い。

 その上、気配りに長けていて、今ユリフォスが何を望んでいるかをしっかりと汲み取って、過不足なく立ち回ってくれるすぐれ者だ。

 今ではもう、ジェルドのいない生活などユリフォスには考えられない。

 

 という事で、二人仲良く連れ立って部屋に帰ってくれば、すぐにそのジェルドが出迎えてくれ、お茶と茶菓子を用意してくれた。


 ユリフォスがアルルノルドと親しくなるや、すぐにアルルノルドの好みの茶葉や淹れ方などを情報収集し、遊びに来たアルルノルドに「この部屋の紅茶は美味しい」と言わしめたジェルドである。

 勿論、アルルノルド以外の友人たちの好みもあっという間に調べ上げ、そのそつのなさには脱帽するしかなかった。

 

 その紅茶を飲みながら、ユリフォスはアルルノルドと二人顔を突き合わせ、ああだこうだと知恵を絞る事になる。

 何と言ってもフェイエ入魂の設問である。そう簡単には解かせてもらえない。


 こっちの理論を使うべきじゃないか、この数式はここでは不要だなどと二人で脳みそをフル回転させ、設問とにらめっこする事半刻、ようやく二人は回答らしきものに辿り着いた。


 そうなれば、一刻も早く答えを書きに行きたい。

 四学年生らにあの設問を見つけられたら、その場でさらっと回答を書き込まれ、デビューは水の泡となる。


 再び学部棟に逆戻りした二人だが、掲示板のところへはすでに人影があって二人は少々慌てた。

 やられたかと小走りで近付けば、足音に気付いた学生が後ろを振り返ってくる。


 一学年下のカルロ・エクゼスだ。

 ユリフォスと同じマティス公国出身で、寮の部屋も近いため懇意にしていた。


 そのカルロはユリフォスが手にしている紙片を見て、「設問デビューですか」と目を丸くする。


「いや、回答の方」


 焦りつつフェイエの紙片に目を走らせたが、今のところ解答は書き込まれていないようだ。

 ユリフォスは紙片を片手に答えを書き写していき、最後にアルルノルドと連名で記名して、日付も書き入れた。


「ついにやったな」


 二人で感慨に浸っていれば、その横でカルロが羨ましそうに呟いた。


「私も早く掲示板に自分の名前を書き込みたいなあ」


 何と言っても、掲示板デビューは数術を志す学部生全員の夢である。

 これをせずして学院を去るなど考えられない。


「そう言えば、ユリフォスは四月から農学部ですね。

 アルルノルドも編入を希望されていたと聞きましたが」


 カルロがそう聞いてきて、アルルノルドは軽く肩を竦めた。


「却下された。農学部は数術学部と違って警護が万全でないからね」


 数術学部棟と特室寮がある敷地内は特別警護区域で、だからこそ王族であるアルルノルドは学院内を自由に歩けている。

 だが、医、法、農学部棟とそれに隣接する一般学生寮は、そこまで警備が厳重でない。

 才ある者に門戸を広げているため、言い換えればどのような素性の者が紛れ込んでくるかがわからないという事だ。


 ユリフォスも農学部編入が決まった時、アンテルノ家から護衛騎士が三人来る事が決まった。


 ガランティアで騎士を雇えば簡単なのではとユリフォスは思ったが、父の考えは違うらしい。

 護衛騎士たちとの信頼関係を今の内から作っておいた方がいいと言われ、なるほどとユリフォスも頷いた。

 

「私も四月からは、護衛付きで農学部に通うようになるんだ。

 学部内で浮くだろうけど、まあ仕方がないかな」


「貴族が護衛付きで授業を受けるのは、医、法、農学部ではごく当たり前の事だ。

 それに今年はガイスも農学部編入をするって言っていた。一人だけ悪目立ちする事はないと思うぞ」


 ガイスは、ガランティアでも名のある貴族の嫡男である。


 ユリフォスたちの年度は、アルルノルド狙いで多くの学生が入学してきたが、親に言われてやって来た連中は学年末ごとの進級試験に合格できず、すでに三分の一の学生が退学していた。

 その中でしぶとく残っている訳だから、ガイスもまた言わずと知れた数式狂いだった。


「ガイスがいれば確かに心強いですね」


 そう返すユリフォスに、アルルノルドは軽く笑った。


「私の方は、一年かけて数術学位論文の作成だ。

 多分卒業はできないが、取り敢えず頑張るしかないな」


 それぞれの学部で学位を習得できるのは、せいぜい一人かヤマ二人だ。それ以外は皆、留年か退学となる。

 相手が王族だろうが忖度そんたくは一切働かず、多分本人の言う通りになるだろう。


 

 ここまで卒業を難関門にしているのは、ガランティアでは学位を取得した者に国が一代限りの爵位を授与しているからだ。


 出自ですべてが決まる身分制度社会においてこれは画期的な制度であり、そのため修学院を志す優秀な平民は後を絶たなかった。

 その上ガランティアは、より優秀な人材を学院に集めるために、奨学金という今までにない制度も立ち上げている。

 そのため、国中から優秀な人材が集まっていた。

 

「うちの学年からは学位授与者が出ますかね。

 有力なのはミケレやフェイエ、マウルあたりでしょうが」


「ミケレは多分大丈夫じゃないか。先日新しい定理を見つけたと言うし……」


 

「……私が何ですって?」


 不意に後ろから声がかかり、三人は驚いて後ろを振り返った。

 見れば当のミケレがそこに立っていて、学部図書館から借りてきたらしい本を数冊、小脇に抱えている。


「学位の話だ。

 それより、掲示板デビューを狙ってきたのか。私たちがもう先に済ませてやったぞ」


 得意そうにアルルノルドが声を掛ければ、ミケレは慌てて掲示板の紙片に目をやり、「やられた」と天を仰いだ。

 フェイエが設問デビューを飾り、アルルノルドとユリフォスの二人が回答を書き込んでいる。他の奴らが知れば、きっと悔しがるだろう。


 せっかくなのでミケレに回答を確認してもらうと、一通り目を通したミケレが、「多分合っている」と頷いた。

 学年一の秀才のお墨付きをもらい、取り敢えず安堵する二人である。



「そう言えば、明後日はセリリア王女殿下の婚約披露が行われるとお聞きしました。おめでとうございます」

 

 ミケレの言葉に、アルルノルドは「ありがとう」と答えた。

 セリリア王女はアルルノルドの同母の妹君である。アルルノルドは殊の外、この妹姫を可愛がっていた。

 

「明日の夜会にはお二人も出席するんですか?」


 問われたユリフォスたちは、「ああ」と二人頷いた。

 第三王子の友人として夜会に招かれている。


 因みにミケレは貴族の出ではないため、このような社交に顔を出す事はない。

 学位を取り、一代限りの爵位を与えられれば、いずれ参加する機会も与えられる事だろう。


「マティス公国からは、確かレリアス卿が大公の名代として参列される筈だけど」


 アルルノルドの言葉に、カルロが「はい」と頷いた。


「実は今日の晩、マティス出身の学生四名で、レリアス卿と夕食をご一緒する予定でいるんです」


「ああ、なるほど」


 遠い自国から国の重鎮がわざわざガランティアにやって来るのだ。顔繫ぎをしないという手はない。


「そうそう、アンシェーゼからはテディエ卿が来られるそうだよ。

 そちらには挨拶に行くの?」


 どうやら、アルルノルドは招待された国賓の名前はすべて頭に入っているようだ。

 度を越した数式狂いだが、腐っても王族だなとユリフォスは心中で密かに感心した。


「いえ、夜会の席で挨拶に伺おうかと」


「アンシェーゼ?何故、アンシェーゼなんですか?」


 不思議そうに口を挟んだのはミケレだった。

 マティス出身のユリフォスとアンシェーゼがどう関係があるのかわからなかったのだろう。


 その様子にアルルノルドはいたずらっぽく笑った。


「あれ、ミケレは知らなかったっけ?ユリフォスの奥さんはアンシェーゼ出身だよ」


「奥さん?」


 ミケレはそう呟き、一瞬遅れて、「えええええええええ」とけ反った。


「奥さんを国に残してのんびり留学しているんですか?」


「え……、あ、いや、まあそうなんだけど」


 歯切れ悪くユリフォスは答えた。


「ユリフォスは確か、来年度から農学部に編入するんですよね。そんなに長い期間、奥さんほっといて大丈夫なんですか?」


「た……多分、大丈夫」


 リリアセレナの事は父と義母が面倒を見ている筈だ。

 二、三か月に一回届く父からの便りには、家族みな元気で過ごしていると書いてあるから、多分心配要らないだろう。……その筈だ。


「こっち来てもう三年ですよ。

 浮気とか心配ないんですか?」


 重ねて聞かれ、リリアセレナは幾つになったんだっけ? とユリフォスは考え込んだ。

 嫁いできたのが七つだったから、多分今は九つか十の筈だ。

 あの年で浮気……?


「あり得ないし……」

 

「すごい自信ですね」


 二人のやり取りに、アルルノルドとカルロは必死に笑いを噛み殺した。

 平民出身のミケレには、まさかユリフォスが年端も行かぬ子どもと結婚しているだなどと思いもつかぬのだろう。 

 

「そういや、ユリフォスはきちんと奥さんに手紙とか書いてるの?」


 ふと思いついてアルルノルドがそう尋ねれば、ユリフォスはいかにも後ろめたそうに目を逸らした。

 書いてないのがバレバレである。


「え? まさか手紙も送ってないんですか?」


 結婚事情を知るカルロも、さすがに驚いてユリフォスを見た。


「誕生日のプレゼント、くらいやっているよな……?」


 おそるおそるアルルノルドが尋ねると、ユリフォスは今度こそしおしおと項垂うなだれた。


「数術を学べるのがすごく楽しくてあの子の事をすっかり忘れてて、向こうからも手紙来ないし、で、そのまま……」


 アルルノルドは「うそだろ?」と片手で顔を覆った。


「それじゃ、政略結婚の典型例じゃないか」

 

 ユリフォスは返す言葉もない。


「ユリフォスはね、こっちに留学した年の五月に七歳の妻を迎えているんだ。家の事情というやつなんだけど」


 眉間に皺を寄せているミケレに、アルルノルドは簡単に説明してやった。


「別に嫌いとかいう訳じゃないんですよね?」


 カルロに聞かれて、ユリフォスは「嫌ってなんかない」と即答した。


「ただ、どう距離を詰めていいかわからないんだ。

 初めて会った日から何だか怖がられていて、手紙くらい書くべきなのかなと思った事もあるけど、何をどう書いていいかもわからなくて……」


「もしかしてユリフォス、貴族女性と付き合った事ないの?」


 吐息混じりにアルルノルドに問われ、ユリフォスは不貞腐れたように唇を引き結んだ。


「ないです。

 騎士学校を卒業してすぐ辺境の騎士団に行きましたから、女性と知り合う機会なんてそもそもありませんでしたし」


「え。じゃあ、まさか童貞……」


 失礼な事を口走ったアルルノルドを、ユリフォスは嫌そうに見た。


「辺境の騎士団に行ったって言ったでしょう?

 ああいうところの娯楽は娼館くらいしかないんです。休みの度に仲間と行ってましたよ」


 その言葉に反応したのは、純粋培養で育ったカルロだった。


「え、休みの度?」


 どこか羨ましそうな口調でそう言われ、ユリフォスはどう答えていいかわからずに視線を逸らした。

 アルルノルドとミケレは傍で苦笑している。

 

「で、ユリフォスはこれからどうするの?

 帰国まで後三年あるけど、このままこの距離感でいくつもり?」

 

 改めて問い質されて、ユリフォスはため息をついた。


「このままじゃいけないとわかっているんですけど、今更どう距離を縮めたらいいのかわからないんです。

 それでなくても十二も年が離れているし、あの子が何を考えているのか私にはさっぱり……」


 一番いけないのは、数術にかまけて幼な妻の事を忘れていた自分にあるという事はユリフォスにはよくわかっている。

 二学年に上がった時、ようやく妻がいる事を思い出し、「やばい、忘れてた」と頭を抱えたが、今更手紙を書こうにも何を書いていいのかわからなかった。


 そう言えば、結婚して初めての妻の誕生日にもユリフォスは何も贈ってやっていない。

 どうしようと悩むうち日はいたずらに過ぎていき、そのうちまた、いつの間にかリリアセレナの事を忘れていた。

 数術を学ぶのがめちゃめちゃ楽しかったからだ。


「そう言えば、顏ももう思い出せません」


 会ったのは二日だけで、あれから三年近く会っていない。やたら小さくて細かった事は朧げに覚えているが、それだけだ。


 がっくりと肩を落とすユリフォスに、周囲の三人も掛ける言葉を持たなかった。







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