手料理
素振りをしながら待っているとユウちゃんが勢いよく部屋に入ってきた。
「おはよう、ユウちゃん。」
「おっはよー!」
えへへ、といいつつ満面の笑顔を浮かべ、元気いっぱいに挨拶してくるユウちゃん。
何かいいことあったんだろうか?
「どうしたの?」
「え〜?なんでもないよ〜えへへ。」
気になるが教えてくれる気はなさそうなのでスルーでいいのかな?
「そっかそっか、ユウちゃんが元気そうで何よりだよ。」
「お兄ちゃんのおかげでユウは元気だよ〜、ありがとね♪」
「いえいえ、どういたしまして?」
なんで俺のおかげかわからないまま、とりあえず流れで答えた。
「それよりお兄ちゃんは大丈夫なの?倒れたって聞いたよ?」
「あー、聞いたんだね。大丈夫だよ。」
俺は力こぶを作るポーズで大丈夫アピールをする。
「あはは、大丈夫なんだね。良かった良かった。」
「それで今日はどうしようか?」
「いつも通り打ち合いでいこー。」
「ユウちゃんは大丈夫?」
集中し切れてないというかちょっと不安になってくる。
「ん〜?なにが〜?」
「いや、大丈夫なら良いんだけど…。」
「まだまだお兄ちゃんには負けないよ〜。」
現実を突きつけられて不安を振り払う。
「わかった、今日もよろしくね。」
ユウちゃんから木刀を受け取り向き合って構える。
そしてそこからはいつも通りだった。
むしろユウちゃんがすごい張り切ってるくらいだ。
最初の不安はどこへやら。
ユウちゃんの猛攻に必死に耐えるしかなかった。
今日は敵の攻撃を捌く練習だと割り切ろう。
そこからはユウちゃんが落ち着くまで付き合うことになった。
いや、だって嬉しそうなんだ。
ごめん疲れた、なんて言えない。
そこから2時間ほど打ち合いをつづけてユウちゃんは満足したのか俺の木刀を飛ばす。
「お兄ちゃん、早く休憩しよう!」
「あ、うん…ありがとう…。」
俺は疲れてその場で倒れ込んだ。
「お兄ちゃん!?」
急に不安な表情になって近づいてが大丈夫だよアピールする。
「いや疲れただけだよ。とりあえず休憩しようか。」
「えっと、その…ごめんなさい…。ちょっと張り切っちゃって…。」
「大丈夫だから心配しないで。
むしろユウちゃんが張り切ってやってくれたから俺は、まだまだなんだなって自覚できたよ。
ありがとう、ユウちゃん。」
俺はいつもの癖でユウちゃんの頭を撫でる。
だが今日はいつもの嬉しそうな反応とは違った。
顔を真っ赤にして照れているようだ。
「ごめん、恥ずかしかったかな?」
俺はそう言ってユウちゃんの頭から手を離したが
「あっ…。」
小さく呟いて寂しそうな表情になった。
これは頭を撫でて良かったのだろうか?
もう一度撫でると今度は嬉しそうな表情になった。
うん、間違ってはいなかったようだ。
その状態のままご飯について報告しないとな。
レナさんのお弁当、いつも楽しみにしてたから落ち込むだろうな。
「ユウちゃん、ちょっと言わなきゃいけないことがあるんだ。」
「え?」
期待と不安が入り混じったような表情だ
「いや、その…今日レナさんからお弁当をもらい忘れたんだよね…ごめん!」
俺はユウちゃんの頭から手を離して、手を合わせて謝った。
「あ、なんだーそのことかー。」
え?レナさんのお弁当はユウちゃんの生きる希望だったような…。
そう思ったら答えを教えてくれた。
「じゃーん!今日はレナお姉様に無理言ってユウがお弁当を作ってきたよ!」
ユウちゃんが一つのお弁当を取り出した。
「おお、そうだったんだね!ユウちゃんの手料理を楽しみにしてたんだよ!」
「レナお姉様と比べたら全然ダメダメだけど、頑張って作ったから美味しいって言ってもらえると嬉しいな。」
ちょっと自信なさそうにしている。
そもそもレナさんと比べる方が間違いなのだ。
料理とは個性そのものなんだ。
たしかに味付けで好き嫌いは人にはある。
だがそれが美味しい美味しくないを決定するものではない。
蓋を開けると綺麗に並んだ料理の数々。
「おお、美味しそうだ。」
量までこだわってるのか結構ぎっしりと入っている。
「えへへ、お姉様に味付けとか聞いたからお兄ちゃんの口に合うといいな。」
「それじゃいただきます。」
はしを受け取ってミートボールみたいな食べ物を口に入れる。
あれ…?
美味しい、美味しいんだが…酷い言い方をすれば普段食べているレナさんの料理を劣化させたような感じだ。
そこで気づく。
あーレナさんに味付け聞いたってそういうことか。
「…どうかな?」
不安そうな顔をして聞いてくる。
料理に詳しくない俺がダメ出ししてのだろうか?
こういうことはレナさんに言ってもらう方がいいと思うんだが…どうしたものか。
「…レナさんの料理の味に似てて美味しいよ?」
言葉を濁しつつ美味しかったことは伝える。
だけど俺が本心から言っていないことはすぐに気づいたようだ。
「やっぱりダメだった?」
「いや、そんなことはないよ!美味しかったのは美味しかったよ。ただ…。」
「お兄ちゃん!ユウはね、美味しい料理を食べてもらいたいの!だから本当のことを言って欲しいな。」
今までみたことないくらい真剣な表情だ。
この子は料理人生が変わったんだ。
料理に対する想いも人一倍なんだろう。
だから俺も本心を言うことを決意する。
「美味しかったのは本当だよ。
ただこれはレナさんの料理を真似しただけで、ユウちゃん自身の料理じゃない気がするんだ。
同じところで修行しているから味付けが似るのは仕方ないかもしれない。
でもこれはレナさんのお味付けそのものじゃないかな?」
「たしかにお姉様にレシピ聞くとき何回も本当にいいの?って聞かれたけど…
ユウはお兄ちゃんに美味しいご飯食べてもらいたくて…。」
泣きそうな表情になる。
不安な気持ちとレナさんの味付けなら大丈夫という気持ちで揺らいでいたんだろう。
「俺はユウちゃんの味付けで食べたいな。
レナさんはレナさん、ユウちゃんはユウちゃん。
だから今度は、ユウちゃん自身の味付けで作ってきてくれないかな?」
子供を諭す感じで笑って伝える。
「明日また作ってくるから…そしたらまた食べてくれる…?」
「もちろん!明日の楽しみができたよ。」
「えへへ、頑張るからね!」
不安が消えたのか、いい笑顔を向けてくれた。
毎日(週7話)12時30分投稿予定です。




