女神様との邂逅
気がついたら真っ白な空間にいた。目の前にいた白い肌に地面に着きそうなほどの赤い長髪、見るだけで相手を魅了しそうな赤い瞳。
全ての赤を際立たせる――色合いの派手さがないだけだが――白いドレス、のような服を着た天使、とでも言えるような綺麗な女性が声をかけてきた。
「無事こちらへ来れてなによりだわ。」
あまりにも澄み通る綺麗な声だった。
「えっとあなたは?」
「私の名前はルージュ。そうね、今は冥界の女神と呼ばれているわ。それでどういった状況かわかるかしら?」
事故で負ったはずの身体の怪我がない事に戸惑いながら現実を認識した。
「子供を助けて、おそらく死んでここへ?」
「ふふふ、正解よ。死んでいる事を理解しているなら話が早いわ。ここは異世界とあなたが元いた世界を結ぶ場所、とでも言いましょうか。」
「異世界、ですか…まさか本当に異世界があるとは思いませんでした。」
これが俺の率直な感想だった。アニメや小説の定番だが現実にあるとは思わなかったけど…。
すると女神と名乗る女性がとんでもないことを言ってきた。
「あなたが原因だし教えてもいいかしら。
あなたが死ぬまでは過去というのは過ぎ去ったものであり、未来というものは未だ来ていない存在しないもの。
そう“現在”という時間だけが存在する単一世界だったわ。
過去に飛べる、未来に飛べる、ましてや異世界なんて呼べるものは存在もしなかった。
だけどあなたがあの子を助けたことが原因で異世界と呼べる世界を作られてしまったのよ。」
驚きすぎて頭の中が真っ白になりそうだった。
(原因が……俺?いやいや、女の子を助けたら異世界ができましたって何の冗談だよ?)
「女神だということは死んだであろう傷がないことからも間違いないんでしょうが、ルージュさん、…えっと、ルージュ様も異世界誕生で生まれたのでしょうか?」
「様付けなんてしなくていいわよ、信仰を求めてるわけでもないもの。
そうね、私が言える範囲で答えてあげるわ。
あなたの質問に答えるだけならYesでありNoね。
私達は元々存在し人間達と共存していたのよ。
尤も自分が女神だと理解するのは人間としての生を終えて、この空間に戻ってきた時のみだけどね。」
驚きの事実だった、女神が日常生活を送っていたとは…。
ルージュさんは続ける
「とはいえ、この空間に連れてくるほど関わることは無かったわ、あくまで女神は存在だけしてた。
けどイレギュラーが発生したの。あなたの死でね。」
「それが異世界誕生、ですか?」
「ええ、そうね。そしてここに連れてきた理由はあなたへの選択肢の提示よ。」
「異世界に行くかどうか、ですか?」
「察しが良くて助かるわ。選択肢としては2つ。
一つは異世界への転生、その場合できる範囲で要望の融通ね。
二つ目はこのままあなたという人生の終わりね、来世を過ごすことになるわ。」
やっぱりその二択なのか…
俺はまず疑問に思うことを口にした。
「何故、俺が助けた事故が原因で異世界が生まれたんですか?」
ルージュは少し悩んで悪戯っぽく笑いながら答える
「ふふふ、やっぱり気になっちゃう?でも異世界行くって言わないと教えてあげないわよ?
だって来世に行くならここの事忘れちゃうし意味ないと思わない?」
やっぱり来世では今の記憶はなくなるのか…
原因となった人間を異世界に行かせる意味があるんだろうか?
勇者になれとか、魔王になれとかそんな感じかな?
まずは確認しておかないと…
「どちらを選んでも、ですができたら俺が生きていた痕跡を消してもらうことはできますか?」
「どうしてか聞いてもいいかしら?」
「…俺の最後は女の子の前で事故を見せるというものでした。女の子が原因だと思わせたくない。
一年前に同じ経験をしたからこそ忘れることができるなら忘れてほしいと願った、だけです。」
これは俺の本心だ。親の死を見て一年も塞ぎ込んでいた。
だからこそ忘れることができた方が、と思うことが何度もあった。
ましてや小さな子供にまで重荷を背負わせなくなかった。
ただルージュさんは眉を顰めながら少し怒ったような顔になった、ような気がした。
「あなたの最後の言葉があの子の生きる希望になったとして、それを忘れさせたいのかしら?
あなたは負い目を負わせたくない気持ちもわかるわ、ただ自分の言った言葉にも責任を持ちなさい。
それでも消して欲しいと言うなら消してあげるわ。」
俺はルージュさんの言葉で自分の事だけ考えていたことに思い至り、自分のエゴを押し付けようとしたことを後悔した。
「そっか…俺の言葉をきいて笑って過ごしていてくれるのか…いえ、すみません。
そのままでお願いします。そして決めました、異世界に行かせてください。」
「理由をきいてもいいかしら?」
「女の子が事故を経験しても、笑って過ごしてくれているのなら俺も親の事故を乗り越えてちゃんと生きたいなと。」
するとルージュさんは笑って
「ふふふ、そうかそうか。それは良かったわ。では、異世界での希望を聞きましょう」
俺は少し悩む…異世界に行くと行っての希望か…。
WEB小説を読む時も思ったことを希望しよう。
「俺は、柳悠斗として生きたい。
死んでしまったけど、この身体、今までの経験。
別の“誰か”に記憶を渡して転生する、ということはしたくない。
本来それは別の“誰か”が送る人生だったはずだから。」
それこそがWEB小説の転生もので苦手な部分だった。
本来であればそこで生まれるはずの“誰か”の人生を奪っているのではないか、と。
ルージュさんはわかっていたのか
「元々そのつもりよ、というよりもあなたにはあなたのまま生きて欲しかったの。
あなたの希望は理解したわ。ただそれではこちらとしても何も渡さず、というのは心苦しいの。」
ルージュは少し悩み、どこかへ連絡をしているようだった。
「…あなたには智慧の女神の加護で授けるわ。
それによって異世界での生活を経験に応じてサポートしてくれるわ。」
女神様の加護なんて最上位だろうし想像以上だった。
「あとついでに私の加護も与えておくわ。
回数制限しておくけどしっかり生きなさい。」
少しずつ体が光に包まれて行くの感じながら…って大事なことを聞いてない!
「あのなんで異世界が作られたんですか!?
異世界に行くなら教えてくれるんじゃなかったんですか!?」
ルージュまた悪戯っぽく笑いながら答える。
「ふふふ、今教えるとは言ってないわよ?
今度は異世界から私に会いに来なさい、もちろん死んで会いに来ても教えないわよ。
いきなり答えを知っても面白くないでしょ?。
せっかくの異世界なんですからたくさんの冒険をしなさい。
ちゃんと異世界から私に会える方法は用意されてあるわ。そしたら教えてあげる。」
…たぶん最初から教える気は無かったんだろう。
騙された気分だが知るチャンスも残っている。
そんなことを考えていると全身光に包まれていき意識が遠のいて…
そして長い間眠っていた感覚を覚え、気が付くと元いた世界とは違う風景が目に映った。
中世の建物内部はこんなところだったのだろうか、と考えていると、こちらを見つめ涙を浮かべる少女…ってなんで泣いてるの!?!?
そして彼女がこちらへ近づき
「あなたに逢える日を心から…本当に心からお待ち申し上げておりました。」




