新しい弓と再会と
「それで、弓はどういう風に変わったんだ?」
誰もが気になっているであろうことを俺はウンディーネに尋ねた。
「欠点を無くしたり細かなとこはいろいろ変わってるけどざっくり言うたら、ほぼ千佳はん用になった。」
「ほぼ?シアのアイリスのような固有武器ってこと?」
「ちょっと違う、いくら大精霊2人分の力を込めたところで女神様に敵うはずもあらへん。
だけどな、大精霊2人分の力を千佳はんのためだけに込めたんや。
そこいらにある希少武器とはわけが違う。」
「それはアタシから説明、というよりかはアンタ自身で体感したほうが早いわね。」
そう言って千佳は「んっ。」と俺に弓を差し出した。
「ん?」
「ん?じゃないわよ。あんたが持ってみなさいってことよ。」
先に「んっ。」っていったのはお前だろって言いたいが、「そのくらいわかりなさいよ」と言われる未来しか見えない。
ここはグッと堪えて差し出された弓を受け取る。
「…っ!?なん…だ、これは…!?」
まるで弓側が使われることを拒否しているような、まともに扱える重さではなかった。
「こういうことよ。」
そう言って千佳は俺から弓を取り上げ、軽く上下させる。
「千佳…いつのまにそんな力つけ…
「うん?」
「冗談です。すみません。」
「はぁ、まったく…。」
「イチャつくのは構わないが、まずは話を戻すで。
その弓は悠斗はんだからこそまだ持てるけども、他のものでは持つことさえ出来ひんやろな。」
「つまり、千佳だからこそまともに扱える弓になったってことか。」
「そういうことや。」
ほぼ千佳専用の武器、か。
レリック品だった頃に比べて見た目もだいぶ変わっている。ノームの影響だろうか、黄色のラインの入った綺麗な弓。
そういえば武器を選んだパトが同じ武器ではなかった、と言っていたが今の弓はどうなのだろうか?
いや、ウンディーネやノームの口ぶりから過去にいた千佳の武器はウンディーネのみの力。
変わった未来の一つとしてノームも手を貸したからこその、今ここにある「喇叭水仙」であるのは間違いない。
「さて、ウチが話したいことはおわった。
せやからあんさんと話そうか、皇国の皇女さん。」
そう言ってウンディーネは後ろが無言で立っていたシアの方に目を向けた。
「ウンディーネ?」
千佳が諌めるように間に入ったが、ウンディーネは少し微笑んで、
「気にせんでも取って喰おういうわけやない。
あの事件もこの子が悪いわけやない。それはウチもわかってる。
ウチはこの子に大事な話をせなアカンのや。この子のためにもな。」
そう言って改めてシアの方に目を向けるウンディーネ。
「あんさんが望めばこれから足を踏み入れる先は、あんさんにとってツラい過去との邂逅や。
だけどな悠斗はんと違ってこれは精霊の試練でもあらへん。
ここまで来れたあんさんなら無理に茨の道を進まなくても生きてける。」
「たとえツラい過去だとしても、逃げるわけにはいかないの。
悠斗様の言葉が、私を支えてくれる。
それだけで私は過去を乗り越えられると信じてる。
それにアイリスを授かった時から、私自身で乗り越えないといけない。
逃げる勇気よりも立ち向かう勇気を
「ほんま、強なったな。
今なら戯言やと思っとった勇者の言葉を信じられる。
あの者が残した可能性の未来を、この国を閉ざしていた理由を今、解き放つ!」
そう言って手をかざし、力を込め始めた。
ウンディーネの叫びとともに水球が現れ、瞬く間に水が弾け飛んだ。
その中から現れたのは大きな人影。
「…おとう、様…。」
その人影を見て誰よりも先に反応したのはシアだった。
シアが父と呼ぶということはウォーガン=リンスレット?
パトの話では確か魔王となっていたはずでは…?
それを思い出した瞬間、俺は身構えてしまった。
だがすぐに制止したのはノームだった。
「安心せい。あやつはもう、枯れておる。」
「枯れて…どういう意味だ?」
「コレが勇者の望んだ可能性なのかのぉ?」
俺の疑問に答えるわけでもなくノームはウォーガン=リンスレットを見続けていた。
「その声は…ミーシア、なの…か?」
こちらを視界にとらえたのか、一番前の少女を見て驚いてる様子だ。
「はいなの、お父様。あなたの娘、ミーシアなの。」
後ろ姿しか見えないが、肩は震え、不安が混じった声だった。
「大きくなった、な。最後にお前を見たときは…ぐうっ…」
何かを思い出そうとしたのか、考え込む仕草を行ったかと思うとすぐに頭を抑え苦しんでいる様子だ。
「お父様!?」
「だ、大丈夫だ、問題ない。すまないな、ミーシア。」
ミーシアが近づくのを手を広げ制止するウォーガン。
「ミーシアがここまで大きくなったということは…そう、か…それほどの時が過ぎたのだな…。」
天を仰ぎ、手で押さえている顔から一筋の涙が見えた。
「なぁノーム。あの人は本当に魔王になのか?
俺には普通の人にしか見えないんだが?」
その光景を見ていた俺はノームに尋ねた。
理性を失った魔王でもなく、茉緒のように押さえ込んでる様子もない。
「あの者はもう、枯れているからのぉ。」
「枯れている?だからそれはどういうことなんだ?」
「栄養とて過剰に摂取すれば毒となる。
あやつには宗士の封印を頼りに、ウンディーネの魔力を与え続けた。
もっとも、封印されていたとはいえウンディーネとて余裕があったわけではない。
何せ相手は魔王、ワシらの理の外に生きる者。
じゃからこの国への加護の力を全てあの者に回した。
そして誰も近づけぬよう霧の結界、というわけじゃ。
まぁウンディーネのやつが人間の争いで疲弊していたのも事実であるがの。」
「それなら…
「それなら他の魔王も救えるのか、であろう?
その答えはNoだ。
あの者と少女の数奇な運命の末、ようやく可能性を見出したに過ぎない。
現に宗士のヤツは他の魔王を倒しておるであろう?」
「それはそうだが…。」
茉緒を救える手段を見つけたと思ったが、実際にはそう甘いモノではなかった。
シアの後ろでやり取りをしている俺たちに気づいたのか、
「ミーシア、後ろの者たちは?」
「私を救ってくれた、とってもとても大切な人たちなの!」
「そうか、ミーシアを。」
その表情は理性を失った魔王ではなく、 子を想う父親の表情だった。
……俺たちを見るまでは。
「なぜだ!なぜ貴様がここいる!!魔王!!!」
続きを書きたい気持ちはあるんです…。