ウンディーネと千佳とときどきノーム
あけましておめでとうございます。
毎週火曜目標に頑張っていきたいと思います…。
ウンディーネは思い出す、昨日の千佳との邂逅を。
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「悠斗はんを閉じ込めて、そない聞かれたないことなんどすか?」
ノームの行動に疑問を抱いたウンディーネは、千佳をチラッと視線を移しながら問いた。
「秘めた思いや願い。それを聞かれたく相手もいるのは普通であろう?」
「それだけこの子を気遣うて、まだ裏切ってへんちゅうんか!?」
「別に裏切ってはおらぬ。今でもあの方が報われることも願っておる。
じゃがウンディーネよ、これだけはハッキリ言っておく。
千佳は仲間だと思っておる。
必要なことがあればこれからも手を貸すがそれは千佳だけを優遇するためじゃない。
言ったであろう?ワシはただ成り行きを見守ることにしたんじゃ。
ワシらが生まれた意味でもあるからお主があの方を優先するのはわかる。
じゃがの、それを優先する余り千佳を蔑ろにするというならワシはお前すら許さぬぞ。」
少しだけ怒気が混じった言葉を発したウンディーネだが、ノームは意に介さず、むしろ温和なノームの方が怒気を発したようにさえ感じた。
「ウンディーネ、お前も千佳と話してみるといい。
そのためにわざわざ悠斗を閉じ込めたんじゃからの。
それに、千佳もウンディーネと話したいのであろう?」
ただただ二人の会話を聞いてるだけだった千佳だったが、話を振られたことで真っ直ぐウンディーネを見つめた。
その視線を感じ取ってウンディーネもまた千佳を見つめる。
「まぁええわ。これで心置きのう話せるんはうちも一緒やさかい。
回りくどい質問はしいひん。あんたは悠斗はんのこと好きなんやろ?」
「えぇ、好きよ?当たり前じゃない。」
ウンディーネのド直球の質問に動揺することなく答える千佳。
「ほぉ?ワシが聞いた時はおどおどしていて可愛かったのに随分と冷静に答えるようになったのぉ?」
ノームは揶揄うように笑って千佳の方を見る。
そんなノームを呆れるように笑いながら、
「アタシだっていろいろ経験したもの。例えばどこかの精霊さんが霧の中で威嚇してきたり、ね。」
千佳は敢えてウンディーネに対して、回りくどい言い方をする。
「おやおや、生まれたての子鹿のように足を震わせて悠斗はんの後ろに隠れたお嬢ちゃんがえらい威勢のええことで。」
「目隠しされた状態で命を狙われる相手ならともかく、目の前に出てきて敵意もなく話すだけなら別に怖がる必要はないわよ。ノームもいるしね。」
「ふふふ」とお互い笑いながら牽制し合う。
このやり取りを見てノームは口出ししてはいけないと本能的に悟る。
そんなことをしようものなら自分に飛び火することは明白な空気だった。
だから静かに状況の推移を見守った。
「それで?質問はそれだけなの?」
まずは千佳が隙を見せないようにウンディーネに催促する。
「ふむ、ここまではっきり答えられるんは意外やったけど、ほんまに聞きたいことは別にあるわ。」
「何かしら?」
「ウチらは記憶として、あんたの前の世界でのこと知ってる
それはなウチ達の生みの親である女神様の記憶。
その記憶からあんたがどないな人となりかはわかってる
そやさかいこそ聞きたい。
あんたはなんで常に最善の手ぇ打とうとするん?
必要な情報を求めて、自ら霧の中にすら入り、危険を冒す。
前の世界でもそう。お主は回りから求められることをこなしていた。
そうまでして、完璧を求めようとするんか。」
その問いを聞いた瞬間、千佳はウンディーネから視線を外し、呆れたように手を逆八の字に上げノームの方を見た。
「はぁ…、精霊っていうのみんなそんなふうに見えるわけ?」
「仕方あるまい、ワシらは同じお方の記憶がある。同じお方から生まれたが故、あの方が疑問に思ったことをワシらが疑問に思うことも当然じゃろうて。」
「それならそれで、アタシがノームと話した時に情報共有してくれたらよかったのに。」
「ふむ、尤もな意見ではあるが、今のあやつに外野からとやかく言ったところで信じるわけあるまい。」
「確かに聞く耳持ったかさえ怪しいわね。」
「ふむ、まぁワシと…
「それで?質問に答えてくれへんやろか?」
ウンディーネをそっちのけで話していたため、怒りを込めて会話を遮った。
「やれやれ、せっかちじゃのぉ。
千佳よ、ワシに言ったように答えればいい。それでこやつはその疑問に関しては納得するじゃろうて。」
「はぁ…。わかったわよ。他の精霊にも同じこと聞かれるのも、面倒だしちゃんと伝えておいてよね。
アタシが完璧を求める理由?いいわ、答えてあげる。
アタシはね、一度たりとも完璧を求めたことなんてはないわ。」
「--なっ!?」
ウンディーネは予想外の答えなのか驚きを隠せないでいる。
「アタシの思いは一つだけ…、アタシはただ後悔をしたくないの。」
「…後悔?」
「後悔から何も生まないことを知っているから…。
だからアタシは、アタシに関わってくれた人を後悔させたくない。
アタシが一番怖いのは後悔すること。
あのときあーすればよかったのかな、とかこんなこと
自分の選択ミスで、たった一度のミスで大切な人を失う悲しみを経験した。
もう二度とあんな思いはしたくない。
だから後悔しないように生きたいのは当たり前でしょ?」
千佳は真っ直ぐと見つめ、ウンディーネは考え込んでしまった。
「ワシらにとっては生まれるきっかけになった出来事が、此奴にとっては全てを失った出来事なのじゃよ。
ワシらの知っている記憶では、表面的にはあの出来事を克服して完璧に見えた。
じゃが本当の此奴は、ワシらの知らぬ記憶の中でずっと苦しんでいた。
それでもなお、立ち上がる者の邪魔なぞワシにはできるはずもなかろうて。」
「あぁ、そのことで思い出したわ。ノームからあなたのこときいて言いたいことがあるのよ。」
「言いたいこと?」
「なんでミーシアの国が分断されかかったとき、あんたはなんで静観してたのよ?」
「そ、それは…。」
意外の質問だったのか、ウンディーネは戸惑っているようだ。
「魔王であろうと、ウチらが介入するのは…。」
「アタシが言いたいのはもっと前のことよ。魔王が生まれる前、ミーシアが殺されそうになるよりもっと前。
ウンディーネ派と皇族派が揉め出したときにあんたが姿を現していればもっと状況がかわったんじゃないの?」
「…ウチらがどちらか一方の人間に介入するんは…
「はぁ?バッカじゃないの?」
「なっ!?」
「何年も苦しんでるくらいなら関わり合いなさいよ。
それを放棄した結果失敗して、ずっと後悔してる。」
「それは結果論では…。」
「結果論?大いに結構じゃない。現にあんたは閉じこもって何年も苦しんでいる。
いい?あんた達の立場とか知らないけど、アタシならそうしたから言うの。
……何もしないまま失敗したら絶対後悔することをしっているから…。
だから何もしないまま後悔するくらいなら、何かして失敗して反省しなさい。
それがアタシの言いたかったことよ。」
いろいろあった鬱憤を果たせたのか、千佳は満足そうだった。
「ワシらが生まれてどれくらい経ったかのぉ。
少なくとも千佳が生きた年月とは比べられないほど長い時を生きた。
じゃが短い時間しか生きてない千佳の方がよっぽど賢い生き方を知っておる。
ウンディーネよ、大切なものを見間違えるなよ。」
そう言ってノームは悠斗を閉じ込める結界を解いた。