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千佳と  その2

 

 今まで見たどの笑った顔とも違う、初めてみる千佳の笑顔に鼓動が少し早くなった。そんな想いを誤魔化すように、

「冷えてきたし帰ろうか。」

「…ふふっ、そうね。」


 その時だった。

 魔力感知に巨大な存在反応があり、慌ててその方向を振り向いた。

「…ゆ、悠斗……。」

 千佳も存在に気づいているようで、袖を握って怯えるように俺の後ろに隠れた。


「だれだ!」


 すぐに武器を取り出し、構えて状況を伺っていると、

「そちらの娘さんは気づいてるようどすなぁ。」


 特徴的なイントネーションが聞こえた方向を見ると、小さな水溜りがあった。

 そこから水で形成された人型の存在がでてきたことで俺も誰であるか理解できた。

「ウンディーネか?」

「いかにも、うちがウンディーネどす。」


 ノームが小人だったこともあり、もう少し小さいのかと思っていたが、身長は俺もより少し高い。

 突然の来訪に驚きはしたものの敵意は感じられず、俺はすぐに警戒を解いた。


「おや?武器を仕舞うんどすなぁ。」

「あなたが俺たちを襲う気があるならもっとあからさまに出来たのに、わざわざ存在を感じさせて警戒させようとしている。

 大事な話をしに来た、と受け取っていいんでしょ?」


 俺の言葉に少しだけ驚いたようだったが、

「そこまで見抜いているなら話はよおて助かるけども、残念ながらウチが用があるのは悠斗はんではあらしまへん。その娘さんどす。」


 そう言って千佳の方を指さすウンディーネ。

「また千佳を襲う気なのか!?」

 千佳が倒れた姿を思い出し、語気が強くなってしまった。

 だがウンディーネは一切表情を変えずに俺の方を向き、

「さっき悠斗はんが言うた通り、話をしに来ただけどす。」


 襲う気がないのはわかる、だけど千佳は怯えがある。まともな会話が出来るか不安だったが、

「ふぉっふぉっふぉ、神殿の奥に引きこもったヤツがこんなところまででてくるとはのぉ。

 古い仲じゃ。ワシが話に混じっても構わんであろう?」

 騒ぎを嗅ぎ取ったのか、ノームが俺たちの隣に現れた。


「おやおや、どなたかと思えばウチらの本願を裏切ろうとしてるノームどすか。」

 言葉に棘を込めたウンディーネの笑ってない笑顔に動じることもなく、

「裏切りとはまたけったいな話よのぉ。

 ワシはただこの子らが自分で出した答えを尊重してるのであって、千佳自身を応援しておるわけではない。それにの、お前との会話など察しがつく。千佳のためにもワシが必要なのじゃよ。」


 ノームの言葉を聞いた途端、ウンディーネの表情が一変した。

「なんでや!?その娘は必ずウチらの障害になる!なんであんたがその娘の味方するんや!?」


「言ったであろう、味方してるわけでも応援しているわけでもない。

 ワシはただ千佳の内面をしったからのぉ。

 知識だけ知らなかった昔とは違う、千佳がどういう人間か見てきた。

 お主も知れば千佳のやつを憎めない。いやそれ以上にお主は気にいるはずじゃ。でなければあの時あの…


「アレからウチの力を感じるはずなんてあるはずがあらへん!あったとしても仕方があらへん協力やさかいこそ、あないな名前にしてるだけや!」

「じゃから話てみろっていておるのじゃ。そもそもお主もそのためにここまで来たのであろう?」

 ノームの言葉で冷静さをとりもどしたのか、前のめりだったが姿勢が綺麗な立ち姿に戻っていった。


「とはいえ、千佳のためにもしなきゃならんことがあるの。千佳、大丈夫じゃから少し悠斗から離れくれんかの?」

 ノームの方を見た千佳は、再度ノームの「大丈夫じゃ。」という言葉を信じ距離を取った。


 それを見計らい、ノームは俺を覆うように土を形成した。

「ノーム!?」

 俺は堪らず叫んだが何も反応がないし、壁を叩いてみるがビクともしない。

「すまんのぉ、千佳のためにも話がおわるまで我慢してくれ。」


 その言葉を最後に音も遠くなった。

 何か理由はあるんだろうし、無理に出る必要はない、か。

 俺は諦めてノームが解除してくれるのを待った。


 ーーーーー…………。

 何も見えない時間がしばらく続いたが、ようやくノームが術を解除してくれた。

「千佳っ!?」

 俺は慌てて千佳の名前を呼んだが、どうやら無事みたいだ。

「何があった?」


「それはその…ちょっと話しただけよ。」

 千佳の表情は閉じ込められる前と違って、恐怖心はそれほど伺えない。

 逆にウンディーネはというと、口元に手をあて考え事をしているようだった。



「女子同士の会話を詮索するでない。」

 ノームは俺に言い放つと、「用事は済んだ、ワシは眠い。」という言葉を残し、城の方へと戻っていった。


 残された俺たちのまわりにはなんとも言えない空気が漂っていたが、

「千佳はんの言葉を考えたいさかい、ウチはそろそろ戻ります。

 …たしかにノームの言わはる通り、話してみるべきやったわ。」

 最後の一言は正直聞き取れなかったほどの声量であったが、ウンディーネはそのまま水となって消えていった。


 千佳の方を見ると、

「大丈夫、まだ怖さはあるけどそれでもアタシの気持ちは伝えたよ。」

 千佳の気持ち?

 あれだけ敵視していたウンディーネが矛を収めているのをみると二人の会話は気になるが、詮索するな、と言われているし諦めるか。


「さて、少し遅くなったがそろそろ戻るか。」

「そうね、みんな心配するといけないしね。」


「ノームも帰ったから平気だろうが、たしかにお前が出ていったきり帰ってこないと心配してるよな。」

 俺はもともと別部屋でこっそり出てきたが、千佳は全員と同部屋だし早めに帰らせないとみんなを心配させる。


 そのつもりだったのだが、

「はぁ?何言ってるのよ?あんたが出て行くからみんな気になって追いかけようとしてたのよ。

 アタシはあんたが何しようとしてたかなんて想像つくから、ミーシアを置いておく口実でアタシが連れ戻してくるっていってきたのよ。」


「それってつまり…?」

「あんたがコソコソしようと子供達にはバレバレってことよ。」

 出ていったのはバレていたみたいだが、何をしようとしたのかする前に止められて正直感謝しかない。

 千佳にはホント頭が上がらないまま、俺たちは城へと戻っていった。

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