千佳とウンディーネとお城にて
「ちょ、ちょっとまってよ!
アタシはついさっき敵対心を向けられたのよ!
なにをどうしたらウンディーネに気に入られる要素がでてくるのよ!?」
ここまで怒りの感情を出す千佳は初めて見たと言えるくらいには千佳の声には怒りが篭っていた。
千佳にとってはいきなり敵意を向けられた相手が仲間になるのは抵抗があるのだろう。
ましてやこの世界にきて初めて殺意に似た力で意識を失ったんだ。
正常な状態でいれるはずない、か。
「ウンディーネのやつは今のお主のことを知らんからの。
ワシとてそうじゃ、ワシの知識でしかお主を知らなかったころは多少なりとも敵意を抱くこともあったであろうな。」
ノームが千佳に敵意?
それこそウソだろ、と言いたいほどそれらしい素振りを見たことがない。
それどころか契約者であるレナさん以上に仲がいいとさえ思える。
「どういうことだ?」
俺の質問に笑ったノームは俺を指さしながら、
「お主が悪い、ワシからそうとしか言えぬ。」
その言葉を聞いたみんなの視線が俺に集り、居心地が悪くなってしまった。
「なんで俺なんだよ!?」
「ワシらが千佳に敵意を抱くのはワシらの本願にとって一番危惧する存在であるのは間違いないからのぉ。」
ノームから思ってもいない言葉を聞いた千佳は動揺が顔に出ていた。
そんな表情を察してか、
「じゃがの、千佳。お主はお主のままいれば良い。
そうすればきっとワシのようにのウンディーネのやつもお主に心を開くじゃろうて。
そもそもウンディーネのやつが本当のお主を知れば嫌いになれるはずなどありはせん。それはワシが保証する。」
「そう、アタシ次第…か。」
結局はぐらかされたが千佳がノーム達の本願にとって妨げになる?
そもそもノーム達の本願ってなんだ?
世界を作るために生まれた存在、が千佳が邪魔になる?
千佳が世界を壊すとか思われているのだろうか?
そんな疑問が顔に出ていたのかノームが先手を打つように、
「言っておくが、全てはお主が悪い。
それ以上のことはワシからは言わぬ。言えぬではない、言わぬだ。
この先どういう選択によるどんな結果になろうと、ワシはそれを受け入れることにしておるからのぉ。」
そう言ったノームはこれ以上話す気がないと言わんばかりにレナさんの中に入るように消えてしまった。
結局俺にとっていろいろわからないことが増えただけ、だったのだが、
「ふむふむ、そっかそっかー。千佳ちゃんが一番の敵かー。なるほどねー。」
何かに納得するようにうんうんと七海さんが頷いていた。
「何かわかったんですか?」
答えを知りたくて七海さんに質問したがノームと同じように笑いながら、
「んー、そうねー。ふふふっ、これは確かに悠斗君が悪いわね。」
と、意味深に笑いながら教えてくれなかった。
「お兄ちゃんは何か悪いことでもしたの?」
子供達の純粋な目を向けられて余計に居心地が悪くなってしまったので、
「何もしてないよ!?」
「んー?ホントにー?」
「ホントに何もしてないよ!
それよりほら!お城に着いたよ!」
逃げるようにお城を指差して話題を逸らしたことでユウちゃん自身もそっちに興味が移り、ようやくこの話題は打ち切りとなった。
城に着いた俺たちを出迎えたのは立派な城門だった。
本来なら閉じられているであろうこの場所は、人もいないためか閉じることもなく玄関までを一直線に見ることができた。
門を潜ると無人なのがウソのように左右には綺麗な花が咲き、木々は手入れがされてあるかと見違えどシンメトリーに並んでいる。その光景に見惚れていたが、繋いだ手に力が入るのを感じた。
「…あの時のままなの…。」
掠れそうなほどの小声で呟いたシアの瞳に光るものが見えたが、すぐに拭い、しっかりと前を向いて歩き出した。
玄関まである一本道をシアに引かれながら進んでいき、玄関の前までたどり着いた俺たちはシアが止まった事で俺たちも後ろで立ち止まる。
目を閉じたシアを俺たちは黙って見ていた。
「ありがとう、もう大丈夫なの。」
声色は落ち着いている。本当に大丈夫そうだ。
「これからのこと、アタシから相談してもいいかしら?」
落ち着いたの見計らってか千佳が真っ先に声を上げた。
俺は頷いて先を促したことで千佳は言葉を続ける。
「霧の中で話した通り、情報の擦り合わせをしたいから話せる場所が欲しいわ。」
「それでしたらいっその事こと、ご飯にしませんか?」
レナさんの提案にみんなが頷いたことでシアに食堂へと案内してもらった。
まずはみんなで落ち着こうとしたのだが、レナさんはすぐにシアに連れられ調理場へと向かっていき、ユウちゃんももちろんついていく。
残った俺たちはというと、七海さんの微笑ましい笑顔で少しだけ気まずかった。
「あの、七海さん…
「ふふふー、ダメよ、千佳ちゃん。こういうのは自分達で答えを見つけるものよ。」
千佳の質問を遮るように先手を打ち、答えない意思表示をした。
そんな気まずい時間も数十分後には美味そうな料理が運ばれて来た事で解放されることになった。
美味しい食事がひと段落したところで、
「ノーム、これだけはみんないる時に聞きたいの。
これからみんなでウンディーネのところに行くわ。
それで質問なんだけど、前回みたいに悠斗やアタシ達が試練とかこつけて強い敵と戦わせる可能性はあるの?」
千佳の質問で一気に緊張感が走った。
前回ノームの試練で俺はワームイーターとの再戦をし、(ほぼ味方のやる気のせいだが)強敵と戦う羽目になった。多少の気構えはあっていいだろう。
そう思っていたのだが、
「気になりはするじゃろうが、ウンディーネが試練じゃからと戦わせることはないじゃろうて。」
その一言で安心と不満そうな顔が4:2で分かれたのだが、
「じゃが、お主らが望めばレベルアップの機会も用意してくれるじゃろうな。
あやつの眷属はなかなかにやっかいじゃかろのぉ。」
とニヤっと笑い不満そうな二人の顔見ていうと、その二人に笑顔が戻った。
それと同時に不安を覚える4人は、笑顔の子供二人の説得を試みるのだったが、
「レベルアップは必要だよ!」
と押し切られ、俺たちは覚悟を決めることになった。
他にも「このままここで休んでも大丈夫か。」など細々としたことをいろいろ聞いてた。
全員に危機感を持たせる質問だったがノームの返答は「安全じゃ。」ということもあり、今日はお城で一晩を明かす事になった。
情報の擦り合わせという名の美味しい食事会は終了し、朝まで自由行動となった。
ほとんどの人が同じ部屋で寝るようで食堂で分かれた俺は、そのまま寝室、では無く外へとでることにした。