ボス部屋にて
少しの間、幻想的な景色に見惚れていたが魔術を解除することで終わりを迎えることになった。
特に名残惜しそうにしていたのは凄腕冒険者の少女二人。
見終えたあとレナさんはユウちゃんとシアに向かって、
「ユウちゃん、それにシアちゃん。
料理で世界が変わったと言ってくれたことすごく嬉しかったです。
でも世界にはまだまだあなたたちの知らない素晴らしいものがたくさんあります。」
「この景色よりもすっごいのがあるの!?」
目を輝かせて二人ともレナさんの方を見ている。
「ふふっ、こういった景色に優劣をつけるものではありませんよ。」
「そっか!うん、そうだね!」
「はい。だからどうか世界を見て、知って、感じてください。
誰も見たことのない景色もきっとあります。
あなたたちにはもっともっといろんな世界を見てほしいのです。」
「うん!この前までここに来てたのに気づかなかったのはちょっとショックだったよ。
でもすっごい感動しちゃったから他にも教えてほしいの!」
「悠斗さんと旅をしていれば行くこともあるでしょう。
私が知っているもので良ければその時に、ですよ。」
「わーい!楽しみにしてる!」
「でも、こういう景色は自分で見つけてこそ、ですよ。
世界を巡って、自分の目で見て、人に影響されるのではなくあるがままを受け止めてほしいのです。」
「うん、今までいろんなところ行ってきたけどもっともっと世界を見てみたいの!」
この出来事がきっかけで、ユウちゃんが護衛と料理人を兼務しながら、秘境を巡る秘境観光案内人になるのだがそれはまだまだ遠い未来の話。
景色も堪能したところで俺達はついにボス部屋に向かうことにした。
正直なところ、ユウちゃん一人でクリアできるってことを知っているせいか危険になるとは到底思えず、楽観視しているところもあった。
それにシアやウルドさんもいる。
と思っていたが、ウルドさんは弟子の成長のために本当に危険と感じるまで手を出さないそうだ。
「ほっほっほ、まぁ心配はしておらんがのぉ。」
とりあえず保険があると考えて気楽に行こう。
元よりパーティー6人で行くつもりだったんだし予定通りだ。
そしてボス部屋前の扉に到着したところで、
「あまり気負うではないぞ。
最初のボス戦はあまり強い敵もでてこないから気楽にじゃ。」
ウルドさんの激励のもと部屋へと入る俺達。
中は半球状の広い空間、扉は入り口のみ。
俺達が入ったことを確認してか後ろの扉が閉まる。
「出口はないの、かな?終わったら来た道を戻る感じかな?」
「えっとね、ボスを倒すと入り口までもどれる魔術が発動するんだよ!」
「なるほど、ボス部屋で疲れ切ったあとに雑魚敵に負けて死亡、なんて笑えないからね。」
ゲームをやっていたころアイテムケチったり、ボス戦で使いすぎて無くなったりで帰り道にゲームオーバーになったことを思い出し、それを回避できるのはありがたかった。
とは言え宗士は通り道といっていたが、行き止まりだ。
どうしたものか、と考えていたら
「おじちゃーん!またきたよ!!」
とユウちゃんが叫んだ。
「おじちゃんっていうと、例のボス部屋で聞こえてた声、だよね?」
「うん!ボス部屋に入ると声かけてくれるの!」
間違いないようで例のノーム疑惑がある声の主の反応を待つことにしたがすぐに返事が返ってきた。
「ふぉっふぉっふぉ、よう来たぞい。待っておったぞ。
大会はどうじゃったか?もちろん嬢ちゃんの実力なら優勝してであろう?」
どこからともなく響く声はたしかにおじいちゃんと言われるに相応しい声だった。
「ううんー、お兄ちゃんに負けちゃった!」
「なんと!お嬢ちゃんに勝てる相手がおったのか!」
「でも勇者も出てたし勝てなかったと思うよ!」
「ほう?勇者、勇者…宗士が大会に出てたのか!?」
「知ってるの?」
「まぁの。一度ここにきておるからの。
しかし、人目に付く大会はあまり出るとは思えんのじゃが。」
「うーん?お兄ちゃんと戦うために出てたって言ってたよね?」
ユウちゃんが俺の方を向いて質問してくる。
「おお?負けた相手と一緒に来ておったのか!
さては惚れて負けを譲ったのかの?
ふぉっふぉっふぉ、まさか嬢ちゃんが彼氏を連れてくるとは思わなかったぞい。」
今まで気づいていなかった上に変な勘違いで驚いているようだった。
「ユウト様はユウの彼氏じゃないの!」
とかいろいろ騒ぎになりそうなところで、
「おお?なんだ今回は人がたくさんおるの。
それにいろいろ、と…?っっ!!」
何故か咳き込むような声が聞こえてきた。
「ど、どうしてあなた様がここに!?」
すごい驚きようだったが誰のことだろうか?
ただ考えてみてもパーティーメンバーの中で大精霊が驚くような人物、と言えば確信はないが一人しかいないよな。
(レナさんが女神ブランならこの驚きも納得、だよね。)
「いや、すまんの。少し取り乱してしまって。」
すぐに落ちついたのか冷静な声に戻っていた。
「おじちゃんどうしたの?」
「いや、なに、ちょっと似てたようだがやはり別人じゃった。よく見るとやはり違うからの。」
誤魔化しているようには聞こえないし他人の空似というやつだったのかな?
とりあえずレナさんの女神疑惑は今は保留にしよう。
もし本人だとしても、きっとレナさんから話してくれるはずだし、そうじゃなくてもルージュさんに会えばきっとわかる。
「それでお兄ちゃんというのは?」
「えっと、お初にお目にかかります。柳悠斗です。」
「…柳悠斗じゃと?」
「えっと、はい?」
「ふむふむ、そうかそうか。例の子か。
それによく見たら種子も持っておるようだしなるほどの。
宗士のやつが大会に出てたのも納得じゃわい。」
やはり事情はわかっているし宗士が言っていた人で間違いない。
例の子というのも女神関係だろう。
「宗士に言われてここに来れば教えてもらえると聞いて来たんですが。」
「…そうか。」
短い一言で返事をした相手は、俺がここに来た理由も理解できたのだろう。
少しだけ間が空いて、
「言っておくが、ルージュ様始め、御三方はお主を巻き込むことを良しとはしていない。
むしろ出来れば巻き込みたくないとさえ考えておる。
知らなければよかった、と言うつもりはない。
じゃがの、これ以上踏み込まず知らなければお主が“普通”に生きられるだけの時間は持つはずじゃ。」
「俺は世界で何が起きているのか、知りたい。
どうして魔王同士が争い奪いあうのか。
女神がどうして勇者というシステムを作ったのか。
それに俺はもうこの世界でなにか異変が起きていることを知っている。
パトの受け売りだけど、知っていて放置するのは知らないこと以上の罪、だと思う。
俺がきっかけでできたこの世界を俺が無視したことで滅んで欲しくない!」
俺は覚悟を決めてそう叫ぶ。
「そうか、覚悟はできておるんじゃな。」
「はい!」
「わかった、お主の覚悟に応えよう。」
その言葉が聞こえた途端に俺以外の人たちが岩でできた檻のようなものに閉じ込められた。
「みんなっ!?」
俺の叫びと焦りを表すかのように部屋がどんどん暗くなる。
「何もせぬから案ずるな。」
そして、
「“種子を持つ者よ、自らの成長を理解せよ”」
その言葉とともに俺の魔力感知に反応する一体の敵。
「コイツはっ!?」