2回戦終了と新しい力
「これで勇者と戦うことになったのか。」
「どうやって負けるか今のうちに考えておかないとね。」
千佳が冗談ととれない本当のことを口にする。
「ユウちゃんが出た方が普通に戦える気がするよ。」
そんな俺の望みも、
「ユウはもうこの大会ですることないから戦わないよー?」
この一言で撃沈する。というか、
「3位決定戦はどうするの?」
「んー?棄権でいいかな?」
アサギリさんが棄権させる前から棄権するのはお客さんも運が悪いというか…。
その分、決勝に余計なプレッシャーかかりそうで今から気が重くなる。
とりあえず今は忘れて明日のオフを目一杯この街を楽しんで、頑張って足掻いて負けよう。
よし、そういう方向で決意がまとまったところで帰るとしますか。
今日は2試合ということもあり、時間が余ってしまったがはてさてどうしたものか、と考えてたら二人の提案もあり出店を見に行くことになった。
千佳と七海さんが来る前にある程度見回っていたので俺たち3人は、真新しいものではしゃぐ二人を眺めていた。
異世界にきてもウィンドウショッピングは楽しいらしい。
ミーシアも付いてきているのだが、ユウちゃんとレナさんから離れようとしない。
俺とも未だ距離があって少し複雑な気分だ。
俺たちは特に何か買うわけでもなく街をぶらぶらとしていると子供たちを引き連れたアサギリさんに出くわした。
「ぬしは…。」
「えっと、はじめまして、です。
ヤナギ・ユウト、です。」
美人さんと対面すると緊張するからちょっと上擦った声になったかもしれない。
なんか周りからジト目で見られている気がするが気にしない気にしない。
「えっと、わっちは…。」
「アサギリさん、ですよね。」
「しっておりんしたか。」
「同じ大会に出ていましたからね。」
「それもそうでありんすね。」
「それで今は何を?」
と軽い世間話をしていると、アサギリさんの視線はユウちゃんとミーシアを見つめている。
「ぬしはその子を冒険へと連れて行くんでありんすか?」
「俺の試合、見ていたんですね。」
あまり興味なさそうだから意外だなっと思ったが気になってたのはユウちゃんの方だったらしい。
「まえ会った時とはさらさら違いんすね。」
「んー?そうかな?」
前あったことあるかもって言っていたがアサギリさんの方は覚えていたようだ。
「ええ、笑顔が増えんしたね。」
「えへへー、お姉様やお兄ちゃんがいるからね!」
「そうでありんしたか。それは良かったぇ。」
アサギリさんはユウちゃんに微笑みながら心から安堵しているようだ。
その微笑みは子供を見守る母親のようで見惚れてしまった。
「ゴホンッ!」
とレナさんの咳払いで現実に戻ってきたが、
「それでぬしは、勇者とどう戦うんでありんすか?」
この言葉で別の意味で現実逃避したくなった。
「それはそのですね…。」
口ごもる俺をフォローしてくれたのはユウちゃんだった。
「まずは蒼炎で凍らせてがつーんとやって通じなければ剣ですぱーんでいいんだよ!」
全然フォローになってないけどそうするほかないのは間違いないんだろうな。
凍らせる方ならまだ可能性はないかな、と淡い期待があったりなかったり。
「蒼炎で凍らせる、はぬしのまじゅつじゃありんせのかぇ?」
「そうだけどお兄ちゃんも使えるよ!」
ユウちゃんが簡単に話していることにビックリした。
この人のことを本能的に信じているんだろうか?
「どういうことでありんすか?」
今度は俺の方に向かって聞いてきたが俺は
「それはそのですね、…。」とさっき同じセリフで口ごもってしまう。
そんな俺を見かねたアサギリさんが、
「“話なんし”」
そう言った瞬間、俺は全て話したあとからしか記憶がなかった。
スキル獲得の方法についてもなにもかも。
これが他人を操る力、か。
秘密ができない相手というのは少しだけ恐怖を覚えてしまったが、アサギリさんが俺の秘密を聞いたお詫びにとアサギリさん自身のことを教えてくれた。
「わっちのゆにぃくすきる?は<言霊使>と言いんす。
その名の通り、言葉に力を込めるものでありんす。
そのゆにぃくスキルと思考誘導を組み合わせて、相手をその方向へと誘導してるに過ぎんせん。」
実際はそこまで強制するほどの力はないらしい。
勇者に通じなかったのも、大会出場は仕事だと半分割り切ってたクリストに通じたのも当然の結果なのだろう。
「それでぬしは その子を冒険に連れて何をすんでありんすか?」
話を変えるように質問してきた。
何をするか、は俺のきっかけ…。
「俺は世界で困っている人を助けたい。
この世界にきて初めて人を救えた気がして、その時のパトの顔を、“ありがとう”を覚えている。
だけど俺はこの世界のことまだまだしらない。
ユウちゃんやみんなと一緒に世界を見て、そして俺の出来ることをやっていきたい。」
「ぬしもその言葉を広めてくれんすか?」
「俺も世界で一番美しい言葉だと思いますよ。」
その言葉を聞いたアサギリさんの笑顔はたぶん頭から離れることはないだろう。
それくらい嬉しそうにしてくれたのが印象的だった。
「そうでありんしたか。それなら“力”もいりんしょう。
わっちのゆにぃくスキルが役に立つかはわかりんせんが、その子を守るためにも受け取ってくんなんし。」
「いや、それは…。」
さすがにそこまでしてもらうわけには、と思って断ろうとしたが
「“受け取ってくんなんし”」
と、有無を言わさず俺に思考誘導する。
そして、
【ユニークスキル<言霊使>を獲得しました。】
この言葉とともに現実に戻り状況を理解できた。
俺に強い意思があれば拒否できたのかもしれないが、ユウちゃんや他のみんなのためにって言われたら拒否、なんてできないよね。
言い訳しつつも想定外の“力”を入手することになった。




