現実世界での出来事
一年前までは長所もないどこにでもいる男子高校生だった。
友達と喋り、勉強は適度に頑張って、部活は帰宅部だったけど、
WEB小説を読んで高校生になってから厨二病を発症しかけたり…
発症してないからね?断じて発症していないのは皆さんの経験からもわかると思うので念を押す必要もないとは思う。
あとは異世界に憧れたりと普通の高校生が送る青春を楽しんでた。
普通が取り柄だったから仕方ないが自慢出来るようなことなんて特にもなかった…、いや、ちょっと可愛い幼馴染がいたくらいだ。
家がお隣さんで、親の転勤で引っ越したにも拘らず何故か引っ越し先のマンションでもお隣さんになるという腐れ縁だ。
自分のことじゃないことを自慢するのは悲しいことだが、可愛い、ちょっとだけ頭いい、スポーツもできる、そんな文武両道な幼馴染だ。
短所といえば家事全般が苦手と口が悪いことというところか。
頭がいいなと褒めると「あんたがバカなだけでしょ?』
運動神経いいなと褒めると「あんたがノロマなだけでしょ?』
ここまでは許せる、いやマゾじゃないからね?現実そうだから仕方ない。
ただ本人の前では絶対に可愛いだけはいってはいない、口を滑らそうものなら
「そんな可愛く頭脳明晰、スポーツ万能な少女が幼馴染なんて世界一幸せ者なんだから感謝しなさい」
可愛いといっただけでこんなこと言われるのも想像がつく。
…想像だからね?
そんな感じで自分のことより幼馴染の話題の方が話を広げられる、普通の高校生活を謳歌していた俺、柳悠斗の人生は大きく変わってしまった。
目の前で起きた親が車に轢かれる事故がきっかけだった。
スマホ運転で親が目の前で轢かれて、あまりにも非現実な状況を認めたくなくて、俺は心に傷を負ってしまった。
いきなり親を無くした俺は親戚の家に引き取られた。
ただ俺の親とは仲良くなかった親戚だったためロクに会話もなかった。
何故そんな親戚が俺を引き取ったのかもだいたい想像がついた。
だがそれ以上に親の死から立ち直れず、どうでもよかった、としか言いようがない。
学校へも行かず誰とも会おうともせず、ただただ部屋に引きこもる毎日。
そして結局親戚は金だけせしめて厄介払いとして俺は入院することになった。
入院生活は結局引きこもり生活とあまり変わらなかった。
事故の前に戻れたらと願う日々、変わりたい世界に憧れる日々。
ただ加害者に恨みを持つことがなかったのは、きっと父さんも母さんも喜ばないとわかっていたから。
…最高の両親に育てられて生きてこれたのは自慢と言えるかもしれないな。
そんな両親だからこそ自分の死を受け入れずにいる俺に「悲しんで生きていくな」と言われるのもわかっていた。
……それでも突然いなくなったのは大きすぎた…。
誰とも会おうともせず、ベッドの上で天井を見つめる無気力な生活を送りながら長い時間が過ぎた。
病院内でのいろんな人、特に看護師さんのコミュニケーションのおかげもあって少しずつ快復に向かっていった。
そんなある日、最近増えていった外出する機会に公園でボール遊びをする小さな子供たちを見かけた。
よくあるボールを追いかけて子供が道路に飛び出し、そこで通行人が助けるシーンを思い浮かべた。
事故死で親をなくしたが、一年前に起きた事故と重ねがらも少しは落ち着いていられるくらいには快復したのか、と目を離した瞬間だった
「ボールそっちにいったぞー」
少年の声が聞こえた、そしてそれを追いかける少女。
車が走ってくるのが見え、ついさっき思い浮かべた状況が現実になろうとしていた。
一年前の事故が頭で過ぎり一瞬足が竦んだがそれでも
「助けないと!」
その気持ちで足を動かした。でも間に合わない、そう直感できた。
一年間の病院生活で鈍ってしまった身体では少女を助けながら自分も助かる方法が思い浮かばなかった。
だから女の子を押して俺は車に轢かれた。
轢かれた直後に激痛を感じたが、その痛みもすぐに分からなくなって視界が霞む。
「……俺も父さんや母さんと同じように事故で死ぬのか…」
そんな事を思いながら目を閉じようとした時誰かが近づいてくるのがわかった。
「あの、お兄さん…ご、ごめんなさい…わ、わた、し…こんなことになるなんて…」
泣きながら近づいてきたのは助けた女の子なのだろう。
小さな子供だったと思ったけど状況がわかるくらいだったのかな?
それなら俺は言わないといけない、こんな血だらけの格好を目の前でみて自分と同じ未来を歩ませないためにも。
「無事で、よかった…謝らないでほしい…助けられて本当によか…た。嫌なもの、見せちゃったね、ただ泣かないでほしい…助かったんだ、これからいっぱいいっぱい、笑って元気に生きてほしい。」
女の子は目をゴシゴシしながら
「こ、こう…ですか?」
たぶん無理してでも笑ってくれているんだろう。
だから俺も
「あぁ、可愛い…笑顔、だよ…助けられてよか…」
そこで俺の意識は途切れた……。