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ひなげしの花咲く丘で  作者: yuuHi
第八部 ~永久の誓いは、ひなげしの花咲く丘で~
508/513

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「そうですか、よかったですね本当に、お嬢様」


 エマがしみじみと言いながら、幾度もうなずく。

 アベルは微笑を返しながら、蜂蜜酒を口に運んだ。カトリーヌの用意してくれた蜂蜜酒は、この修道院にあったものか、あるいはどこからか買ってきたものだろうが、不思議と懐かしい味に感じられる。


 けれど、ほっと息をついているのはアベルとエマだけで、蜂蜜酒を用意してくれた当のカトリーヌはぷりぷりと怒っていた。


「なにが〝よかった〟のですか、エマ様」


 窓から差し込む薄日。

 幾分か寒さが和らいだ三月末のセレイアックは、どこか安堵するような、ゆったりとした空気が流れている。


「シャンティ様が、従騎士だなんて。一生、男の格好をして、剣を握って、ベルリオーズ家の家臣として生きていくなんて」


 とんでもないといったふうに、カトリーヌは首を横に振った。


「素晴らしい結果じゃないか、カトリーヌ。ベルリオーズ家は、デュノア家もブレーズ家も、けっして簡単に手を出せない場所。シャンティ様がお過ごしになるのに、これ以上安全なところはないよ」

「こんな細くて頼りないシャンティ様が、騎士だなんて」

「いざとなれば、リオネル様が必ず守ってくださるだろう」

「美しいシャンティ様が、男として生きていくなんて」

「もとから乗馬と剣はお好きだったじゃないか」

「そういう問題ではありません!」


 ついに大きな声を上げるカトリーヌだが、エマはあいかわらず平然としている。


「では、これ以上にシャンティ様を安心して預けられる場所が、他にあるかい?」

「それは……わたしたちといっしょに、どこかで暮らすとか」

「どこかで暮らすといっても、女三人で、いったいだれがその生活を支えるんだ。それに、万が一にでもデュノア家やブレーズ家の手の者が襲ってきたとき、わたしたちの手でシャンティ様をお守りできるかい?」

「それはそうかもしれませんけど」


 すねたようにカトリーヌは言った。二人の会話を聞いていたアベルは、いたたまれない気持ちで蜂蜜酒を小卓に置く。


「ねえ、わたしのことで喧嘩しないで」

「喧嘩じゃありません! シャンティ様は、だいたいお人好しすぎるのです。まずはあんなひどいことをしたベアトリス様に怒りましょう。伯爵様にもです。そして、ベルリオーズ家の家臣になるということは、リオネル様にとってはいいかもしれませんが、シャンティ様ご自身は大変なご苦労をなさるということを自覚してください」


 あれこれ言われて、なにからどう答えようかと思っていると、代わりにエマが諌める口調で言う。


「リオネル様を悪く言ってはなりませんよ、カトリーヌ。あの方はシャンティ様を愛しておられるのですから、家臣にすることでだれよりも胸を痛めていらっしゃる」


 カトリーヌは難しい顔つきだ。


「それに、ベアトリス様と伯爵様をお怨みになったって、シャンティ様は幸福にはなられない。シャンティ様の真の幸福は、そのようなつまらぬ過去を忘れ、リオネル様のおそばで生きることだとは思わないか」


 エマがうまく言ってくれた気がするので、アベルがこれ以上言うことはなさそうだった。けれどひと言だけ、カトリーヌへ向ける。


「そんなふうに、わたしのことを心配してくれてありがとう、カトリーヌ」


 これまで眉間に皺の寄っていたカトリーヌが、たちまち表情を崩した。


「シャンティ様……」

「デュノア邸を出てから、ひとりで生きていたと思っていたわ。今のわたしだって、もうデュノア家の令嬢でも、貴族でもなんでもない。それなのにカトリーヌはまだ、こんなにわたしのことを思って、わたしのために本気で心配して、わたしのために怒ってくれている。……わたしは幸せ者だわ」

「シャンティ様はお嬢様です」


 カトリーヌはきっぱりと言った。


「わたくしが、生涯をかけてお仕えするご主人様なのですから」

「ありがとう……でも、なんだか申し訳ないわ」

「いずれカミーユ様が伯爵様になられたら、シャンティ様はデュノア邸にお戻りになることができます。そのときには、わたしを再び侍女にしてくださいまし」

「そんな日がきたらね、もちろんよ」


 皆が再びそろえば、またあの明るい笑い声がデュノア邸に響き渡るだろう。


「そうなれば、シャンティ様はデュノア家令嬢として正式にベルリオーズ家に嫁ぐことができるかもしれませんね」


 エマの言葉に笑いながらも、切なくなる。


「そのときにはわたしはいくつになっているの? それに、シャンティ・デュノアは死んだわ」

「わかりませんよ、先のことは。伯爵様が早世されれば、カミーユ様がお若くしてあとを継がれるわけですし、シャンティ様がお亡くなりになったことが〝勘違い〟だったと公表することだって、カミーユ様なら少しも憚られないでしょう」

「勘違いって……」


 アベルがなんともいえない気持ちになれば、カトリーヌが堂々と宣言する。


「そのときには、シャンティ様がどちらへ嫁がれても、わたしはついていきますよ」


 エマが笑った。


「いいじゃないか、きっとそんな日が来る」


 そっとアベルはほほえむ。

 ……本当に来るだろうか。


 けれど、もしそうだったとしても、父オラスに早く死んでほしいとは思わなかったし、たとえオラスがいなくなったとしても、ベアトリスの強い憎しみは残るはずだ。


 それでも、夢をみるのは自由だった。


「そんな日がくるといいわね」

「きっときますよ。こうして、シャンティ様と再びお会いできたのですから」


 だからこそ、わたしは信じることができます、と、エマは穏やかに笑った。






+++






 二通の書状は、大切に懐にしまってある。


 ダミアンが戻ってきたとき、リオネルはすでにベルリオーズ邸にいた。

 アベルが王都にいなかったせいもあって、リオネルのアベラール邸での長期滞在については漠然とした不安を抱いていたが、リオネルが戻っていると聞いてダミアンはほっとした。


 ダミアンの帰館を、使用人が即座に執事のオリヴィエに伝えにいく。着替えをするより、食事をとるより、休憩するより先に、二人に書状を渡し、シュザンの状況を説明しなければならない。

 しばらくして玄関に再び使用人が現れ、クレティアンの書斎に来るように告げられた。


 案内されて書斎に通されると、ダミアンはクレティアンの姿を確認して直ちに一礼する。リオネルの姿はないようだった。


「ダミアン、ご苦労だった」


 労いの言葉をかけられて、ダミアンはますます腰を深く折る。


「長らく館を不在にしたことを、お許しください」

「いや、思ったよりずっと早い」


 頭を上げるよう指示してからクレティアンは、ちらと扉のほうへ視線をやった。


「すぐにリオネルも来るはずだ。話はそれからにしよう。そなたは疲れているだろうから、座ってなにか飲みなさい」


 勧められたからといって、はいそうですかとクレティアンの書斎の椅子に腰かけ、悠長に飲み物を口にするわけにはいかない。


「とんでもございません。私はここで」


 いればダミアンが困ることを承知していたのだろう、クレティアンは浅くうなずいた。

 そのとき、扉が開いてリオネルが現れる。久しぶりに直接目にするリオネルの無事な姿に、ダミアンはあらためて安堵した。


「ああ、ダミアン。待たせてすまない」


 家臣に対し一切謝罪も感謝もしない貴族の多いなか、自分のような若手騎士にまで気遣ってくれるリオネルやクレティアンは、やはり何者にも代えがたい主だった。


「リオネル様におかれましては、お変わりのないご様子。誠に安堵いたしました」

「アベラール邸でのんびりしすぎた。叔父上のお怪我も、ここへ戻ってはじめて知った」

「さようでございましたか」

「シュザンの様子はどうだった」


 早速本題に触れるクレティアンへ、ダミアンは視線を戻した。


「私がお伺いしたときは寝台で横になっておられましたが、私の来訪を知ると身体を起こされ、痛みなどないかお尋ねましたら、〝骨折といっても、完全に折れているわけではなく、ひびが入った程度で、食事も普通に取れるし、起きあがることもできる。あとは医者の外出許可を待つばかりだ〟とおっしゃっていました」

「そうか……そうはいっても、やはりまだ横になっていないとならないか」

「はい、未だ寝台から起きあがって動く状態ではないのでしょう。加えて、お顔の傷が痛々しく残っておられました」

「顔に傷」


 クレティアンとリオネルの視線を受けて、ダミアンは苦い表情になる。


「聞いた話では、ジェルヴェーズ殿下はシュザン様の顔や身体を、長靴で蹴りつけたようです」


 クレティアンが眉をひそめる。


「公爵様に心配をおかけして心苦しいとおっしゃっていました」

「言伝は?」

「たしかにお伝えしました」

「それで?」

「公爵様のお心づかいには心から感謝しているけれど、今の役職を離れるわけにはいかず、やらなければならないことがあると」

「……そうだろうな」


 つぶやくクレティアンへ手紙を差し出す。


「シュザン様からお預かりしたものです。その場で書いておられました」


 受け取ってすぐに封を開いたクレティアンは、手紙に目を通して難しい表情になると、それをリオネルへ手渡した。


 内容をダミアンは知らないが、なにが書かれているかは想像がつく。

 どのような前置きがあったとしても、シュザンがクレティアンらに最後に伝えたいことは〝心配いらない〟という一点に尽きるだろう。クレティアンに続いて手紙を読み終えたリオネルは、なにも語らずにそれを折りたたんだ。


「……ご苦労だった、ダミアン」


 クレティアンが重々しい口調で言う。


「まだ寒いなか、王都への往復、疲れただろう。しばらく休みなさい」

「お心づかい、心より感謝申し上げます」


 退室を命じられて、ダミアンは頭を下げる。けれど、もとの体勢に戻りながら、リオネルのほうへ視線を投げかけた。

 目が合い、リオネルがかすかになにか受けとった表情になる。


「すみません、父上。私も職務のあいまに抜けてきたため、いったん下がらせていただいてよろしいでしょうか」

「シュザンのことは、話し合っても答えがでるものではない。ここへ再び来る必要はないから、部屋へ戻ってもかまわない」

「かしこまりました」


 二人のやりとりにどこか違和感を覚えたが、それが具体的にどのようなものなのかダミアンにはわからなかった。


 リオネルと共に部屋を出て、背後の扉が閉まるとダミアンはあらためて頭を下げる。


「どうした?」


 リオネルに問われて、ダミアンはどう切り出そうか束の間逡巡する。すると、先へ進むよう促された。


「なにか話があるなら、部屋で聞こう」

「いえ、その、大袈裟な話ではないのですが、少し気になりまして」

「なんのことだ?」


 歩きながらリオネルの背後に従う。さらに背後に影のようなベルトランが控えているのを、ダミアンはひしひしと背中に感じていた。


「その……別邸にアベルがいなかったので」


 思い切って告げれば、リオネルが沈黙する。


「いえ、ジェルマン殿はアベルが一週間ほど外出していると言っていたので、心配ないかとは思いますが」

「そうか」


 リオネルは柔らかい表情だ。


「心配してくれたのか」

「あ、いえ……」

「アベルなら大丈夫だ、ありがとう」


 落ちつき払ったリオネルの態度から、どうも自分の心配は杞憂だったらしいとダミアンは悟る。


「とんでもございません……それと、シュザン様からお手紙を預かっています」


 一瞬リオネルは不思議そうな顔になった。


「おれ宛てに?」

「はい」


 特になにも言われてはいなかったが、ダミアンはなんとなくクレティアンのいないところでリオネルに渡したほうがいいような気がしていた。


 手紙を渡すと、リオネルはその場で封を切って中身に目を通してから、視線を上げた。


「叔父上には気苦労ばかりかけて、本当に申し訳ない」


 返答を求めているようには思えなかったのでそのまま黙っていると、リオネルが浅く息を出す。


「返事は出しておく。父上がおっしゃっていたように、ダミアンは疲れているだろうから休むといい」

「かしこまりました」

「いろいろと、感謝する」


 礼を言われたのでダミアンは恐縮した。


「そのような」

「アベルはもうじき戻ってくる。そのときはよろしく頼む」

「もちろんです」

「ありがとう」


 リオネルから直々にアベルのことを頼まれたことに、ダミアンはやや驚く。普段からリオネルがアベルのことを気にかけていたことは知っていたが、今日は特別な思いが込められているような気がした。


 立ち去るリオネルへ一礼しながら、ダミアンはなにかが少しずつ以前とは違っているような不思議な感覚を抱いた。






+++






 仲違いしているわけではない。

 けれど、父親とぎくしゃくするのは、やはりアベルのことがあるからだろう。


 クレティアンは戻ってきたリオネルに満足そうだったかといえば、必ずしもそういうわけではなく、彼としては最大限の譲歩をしたわけである。


 一方リオネルは、譲歩してもらったことは理解できるし、ベルリオーズ邸でアベルと共に再び暮らせることになったことについては感謝しているものの、思うところも少ながらずあった。

 というのも、クレティアンがアベルを永遠にリオネルの伴侶としては認めないだろうことを、リオネルは知っているからだ。


 おそらくリオネルはいずれ、強制的にどこかの令嬢と婚約させられるだろう。それが、クレティアンがアベルに短剣を持たせ、シャンティとして死ぬようにと告げたことの意味だ。


 生涯アベルは男として生きなければならない。

 大切な女性に、そんな過酷な運命を背負わせるわけにはいかない。


 アベルは充分に苦しみ抜いてきた。

 ……もう休んでいいときだ。


「手紙にはなんと?」


 ダミアンと別れてしばらくすると、ベルトランが尋ねてきた。

 リオネルは手紙を取り出し、ベルトランへ渡す。けれどベルトランがそれを開けるより先に部屋のまえへ到着し、二人はリオネルの私室へ入った。


「ダミアンの話を聞いて、叔父上はなにか悟られたのだろう」


 部屋に入るとすぐにベルトランが手紙を開く。

 手紙には、自分のことは心配いらないということに加え、アベルのことでなにかあったのか、もし本当にアベルが王都にいて、なにか問題が生じているのであれば力になるので連絡するようにと、綴られていた。


「あいつらしいな」

「すぐに返事を書くよ」

「これまでの経緯を伝えるのか」

「神前試合のときから、叔父上には、こちらの事情に巻きこみ迷惑をかけている。おれの想いも知っているから、案じておられるだろう。すべて伝えることが誠意だと思っているよ」


 そうだな、とベルトランは手紙を畳んでリオネルに返した。


「なにより今は、叔父上の怪我が心配だ」

「骨が折れていないなら、回復は早い」

「顔の傷も残らなければいいけれど」

「女じゃないんだ、残ったってかまわないだろう」

「……母上に似た顔に傷が残るのは、胸が痛む」


 正直な思いを口にすれば、ベルトランが押し黙った。亡きアンリエットとシュザンは顔立ちが似ているため、幼くして母親を失ったリオネルなりにシュザンへの思いがあるということを、ベルトランも悟ったようだ。


 机に向かいリオネルが手紙を書きはじめれば、ベルトランは黙って終わるのを待つ。

 さらさらとリオネルが羽根ペンを走らせる音が、静かな室内に響く。


「リオネル、おまえも気をつけろ」


 ぼそりとつぶやくベルトランの声に、リオネルは手を止めた。けれどすぐに手紙を書くのを再開させて、リオネルはなんでもないように言う。


「おれがそういう目に遭うことはない。まったく無事でいるか、逆に巧妙に命を奪われるか、そのどちらかだ」

「そうだろうか。近頃あいつの振る舞いは常軌を逸している」


 リオネルは答えずに筆ペンを走らせる。

 危機感がないわけではなかったが、考えてもしかたのないことだという気もした。けれど次の言葉にリオネルは再び手を止める。


「おまえだけじゃない、アベルのことも気をつけたほうがいい」


 リオネルは羽根ペンを止めたまま、視線を手紙から外す。


「煙突掃除の少年、踊り子、神前試合の挑戦者……幾重にもアベルはあいつに狙われているが、なにより危険なのは、おまえが愛する相手だと知られたときだ」

「……そうだね」


 知らず、リオネルは羽根ペンを握りしめていた。


「けっして悟らせてはならない」

「わかってる」


 自分のせいでアベルを危険にさらすわけにはいかない。煙突掃除の少年、踊り子、神前試合の挑戦者……これらすべてが、自分のためだったのだと思えば胸が苦しくなる。


 そのうえ、リオネルの愛する相手だと知られて危害を加えられることになれば、もはや正気ではいられないだろう。


 アベルを守るために、自分はどうすればいいのか。

 愛するほどに危険にさらすことになるのならば、いっそのこと離れたほうがアベルのためなのか。


「勘違いするな、リオネル」


 ベルトランがいつもの愛想のない声で言った。


「悟らせないことが重要であって、別れを選ぶことは、逆にアベルを一筋の光さえ差さない闇へ追いやることになる」

「離れるつもりはない」

「ああ、アベルはおまえがいるから生きていける。小鳥は羽根を休める木がなければ、いずれ死ぬ」


 ベルトランが持ちだしたのは、アベルが言っていた大きな木のたとえだ。


「けれど、繋ぎとめれば死んでしまう?」

「ああ、自由を奪われれば、鳥は命を落とすだろう」

「おれは、ただそこにいることしかできないのか」

「ただそこにいること――、それこそが、もっとも勇気のいることだ」


 ――そしてそれこそが、本当の愛なのではないのか。


 ベルトランの言葉にリオネルは微笑した。


「負けたよ」

「勝負をしていたつもりはないが」

「ベルトランの言葉はいつも真実だ。返す言葉もないほどに」


 束縛することでもなく、過干渉になることでもなく、溺愛することでもなく、突き放すことでもない。

 ただそこにいる。

 ただそばにいて、宿り木になる。

 たったそれだけの難しさ。

 愛することの厳しさを、あらためて思い知らされる。


 瞼を伏せたリオネルの肩を、ぽんとベルトランは叩いた。


「わかったなら、二度とアベルの手を離すな」

「……ありがとう」


 礼を述べると、ベルトランが微妙な面持ちになる。


「礼を言われるようなことは、なにもしていない」

「ベルトランには感謝してもしきれないよ。なにもかもがはじめての感情で、正直おれひとりではなにもわからなかった」


 困ったような面持ちを、ベルトランがかすかに緩めた。


「もうすぐまた会える」

「待ち遠しいよ」

「まだたったの四日だが」

「……そうだね」


 視線を向けた窓の外、あちこちに雪は残っているが、スミレやタンポポがところどころ咲きはじめ、雲間からのぞく柔らかい水色の空は、アベルの瞳の色だ。


 愛しい相手のいるセレイアックへと、リオネルは思いを馳せた。








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