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カレー

 僕は自室のベットの上で先程までの出来事を思い返していた。


『ありがとうサトリ君。ごめんね』

『もし、本当に大変になりそうな時は私達の事、気にしないで逃げてください』

『もう、暗くなる。タクシー呼ぶから今日は帰って』


 詳しいことはまた後日話すって言ってたけど、もう計画とか立ててたんだ。

 獣山財閥……聞いたこともなかったけど、お母さんや咲に聞けば何か分かるかな。

 夜ご飯の時にでもお聞いてみよう。


「お兄ちゃん。夜ご飯できたって、下行こ」


 丁度良く、咲が夜ご飯に呼びに来た。


「うん、今行く」

「お兄ちゃん。はい、手」

「ありがとう咲」


 最初は驚いたけど、最近では普通に咲の手を借りれる。

 本当は手すりだけで十分なんだけど、咲の手を借りると安心するから言わない。

 一階に降りると台所からいい匂いがする。

 なんだろう。この香り、嗅いだことがある。


「あら、来たわね。今日はカレーよ」

「やったー!」

「カレー……」


 カレーって確かシチューみたいにご飯にかけて食べる液状の食べ物。

 そうか、これは色々なスパイスのお匂いが混ざった匂いなのか。

 なんというか……凄くお腹が空く匂い。


「今日は気合を入れてスパイスから作ったわ!」

「凄い! 流石お母さん!」

「ふふ、早く座りなさい。冷めちゃうわよ」

「はーい!」


 前まではなかった家族としての会話。まだその会話に入れるほどの勇気はないけど、聞いてるだけでほっこりして口角が上がってしまう。

 きっと、他の家庭では普通に行われている会話。それが今の僕にとっては嬉しい事の一つだ。


「お兄ちゃんも早く座ろ!」

「うん」


 いつもの席につく。

 咲のテンションの上がり方から、カレーがとても美味しいものだっていうのは分かる。

 というか、匂いだけで美味しいのが分かる。


「それじゃあ、いただきます」

「いただきまーす!!」

「いただきます」


 僕は机の横に置いてある前掛けを取って装着する。

 前にシチューを膝の上に落とした前科があるから注意しなくちゃ。


「おいしー!」

「ふふ、良かった。サトリは大丈夫? 食べさせた方がいい?」

「大丈夫」


 この数ヶ月で僕は食事をマスターした!

 ……たまに溢すけど。

 僕はスプーンでカレーを掬い、そのまま口に運んだ。


「お、美味しい……」

「天使か」

「男神か」


 なんだかシャッター音が聞こえた気がしたけど、いつものことだから気にしない。

 口の中に広がるスパイシーな香りとピリッとくる辛さ、そしてそれを包み込むように旨味が溢れてくる。

 それに、辛さもお米の甘さとマッチして……凄く美味しい!


「大食い男子……スキ」

「自分の作った物を美味しそうに食べてもらえると嬉しいわね」


 僕は二人の会話を半分に聞いて、次から次へと口にカレーを運んでいく。

 ものの数分で食べ終わってしまった。


「ごちそうさま」

「はい、お粗末様」

「その、また作ってくれる?」


 正直、また食べたい。食べ終わったばかりだけどそう思う。

 僕が聞くと、ガタッと何か椅子が動くような音がした。


「あ、あたりまへじゃない!」

「はい、お母さんティッシュ」


 鼻をかむ音が聞こえる。もしかして、また鼻血かな。

 女の人って大変だなぁ。

 確か、軽い興奮状態でも鼻血が出るって言ってたし、カレーが美味しすぎて鼻血が出たとかだろう。


「ありがとう咲」

「いいよ。気持ちは分かるし」


 あ、そう言えば、お母さんに聞こうと思ってたこと忘れてた。

 今のうちに聞かなきゃ。


「ねぇ、お母さん」

「ん、どうしたのサトリ?」

「聞きたいことがあるんだけどいい?」

「えぇ、なんでも聞いてちょうだい」


「__獣山財閥って知ってる?」


「え…………」


 お母さんが驚いたような声を出した。

 どうかしたのかな?


「……サトリ、それはどういう意味での質問なのかしら?」

「え……」


 どういう意味の質問と聞かれても、流石に犬子ちゃん達の事を話す訳にはいかないし。

 なんとか誤魔化しつつ聞かないと。


「少し、知りたくて……知ってたらでいいんだけど」

「そう……」

「獣山ってお兄ちゃんとたまに会ってる私より小さい先輩の名前じゃなかった?」

「うん、だから聞いてみた」


 お母さんが数十秒ほど黙ってしまう。


「分かったわ。そうね。どこから話せばいいかしら……」


 お母さんは少しだけ悩んでいるみたいだ。


「まず、獣山は貴方の本当の父親の実家よ__」


「……え__」

章の区切り方を変えました

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