打ち明けと決心
「……なんで?」
「え、なんでってサトリ君も獣山家に恨みがあるんじゃ?」
恨み? あっ、もしかして前に犬子ちゃん達のお母さんに攫われたことかな。
それなら、もう気にしてないんだけど。
「ないよ」
「お、お姉ちゃん! いきなり何言ってるの!? 土下座までして! お姉ちゃんらしくないよ!!」
え、犬子ちゃん土下座してるの……。
「うそ……。獣山家にあんな事をされて、それなのに恨んでないの? 憎くないの?」
「今、楽しく生活できてるから」
本当に攫われて、今の環境が崩れてたりしてたら怒っていた。
でも、攫われたけどすぐに返してもらえたし、今に何の影響もないから怒ってはいない。
それに、あの時の犬子ちゃん達のお母さんの考えを読んでいたら本気で攫う気はなかったっていうのが分かるし。
「……そんな、サトリ君さえ協力してくれれば……獣山を潰せたのに」
それにしてもなんで犬子ちゃんが獣山家を潰したいなんて言うんだろう。
あ、もしかして__
「反抗期?」
「__そんな子供みたいな理由じゃない!!」
うっ、怒られた。
でも、この熱の籠もった声。本当に只ならぬ理由があるんだろう。
「お、お姉ちゃん。怒鳴らなくても……」
「あ……ごめんサトリ君。でも、本当にそんな軽い理由じゃないの」
僕は犬子ちゃんと知り合ってそんなに長くない。
そんな僕が「なんでそんなに自分の家を恨んでいるの?」と聞くのは、きっと駄目なことだと思う。
それに、聞いてしまったらなんだか引けなくなる気がする。
……でも、そんな知り合って長くない僕に、犬子ちゃんが土下座までして頼んできたんだ。
それを引けないからとか逃げ道がなくなるからって何も聞かないのは……それは、
__男らしくないんじゃないかな。
「ねぇ、聞かせて。なんでそんなに獣山家を潰したいの?」
「そ、それは……」
「お、お姉ちゃん。話したらサトリさんまで巻き込むことになるよ。それは……」
「聞かせて。友達でしょ」
そう、犬子ちゃんや猫子ちゃんと僕はもう友達だ。
一緒にお買い物に行ったり、一緒に勉強したり、これが友達というものなんだろう。
だったら、友達として友達の悩みを聞いてあげるのは当たり前だ。
「猫子の力、サトリ君は聞いたんだよね」
「うん、お金を集める力だよね」
それも、一千万円という大金を一瞬で集めるだけの強力な力。
それが関係してるのかな。
「獣山はそんな猫子の力を私利私欲のために利用しようとしてる。猫子の力があれば、獣山は今よりもっと上の地位と名誉を獲得できる」
猫子ちゃんの力を利用……。でも、それって自分の家ならそこまで悪い事じゃない気もする。
獣山家の地位が上がるってことは犬子ちゃんや猫子ちゃんの地位も上がるって事じゃないのかな。
「それって悪い事なの……?」
「……もし、獣山家が猫子の力を本格的に利用し始めたら到るところから億単位でのお金が手に入る。それも何の前触れもなく……それを周りの権力者が『へぇ凄いね』で見過ごしてくれる?」
権力者……獣山家ってそんなに凄い家なの。今まで聞いたこと無かった。
猫子の力を周りの権力者が知ったら……僕がもしその立場なら欲しいと思う。
だからって誘拐とかはしないけど、羨ましいと思うだろう。
「見過ごしてはくれない。少なくともどうやったのかを聞くと思う」
「だから私はお祖父様、獣山財閥のトップ『獣山熊吉』に言った。猫子を利用するのはやめてって。じゃないと猫子は一生蚊帳の中に閉じ込められるから」
犬子ちゃんは本当に猫子ちゃんの事を大事に思っているんだな。
もし、咲が同じ立場だったとして僕は同じことを出来るかな……。
「でも、お祖父様は言った。『猫子の力を使えば獣山財閥は確固たる地位を、あの三大財閥に食い込めるだけの力を手に入れられる。あとは言うまでもないだろう』って……。ぶざけるなっ。ふざけるな!!!!」
机を思いっきり叩いたんだろう。僕の座っている場所にも振動が伝わる。
犬子ちゃんがこんなに声を荒げるなんて……。
「猫子はっ!! 猫子は財閥争いの道具じゃない!!! 私の妹をモノ扱いしやがったくせに!!! 今更、今更ッ!!!」
「__お姉ちゃん! 落ち着いて、私は気にしてないから!」
「猫子は力が分かるまで家で腫れ物扱いされていた。味方はお父様とお母さんと私だけ……なんで腫れ物扱いされていたか分かる?」
僕は首を横に振る。
「ただ勉強が人より出来なかっただけ、ただ運動が人よりも出来なかっただけ、ただ人と話すのが苦手だっただけ……それだけなのに猫子の優しさすら知らないアイツラは猫子を一族の恥とまで言った! なのに、力が分かった瞬間手のひら返し、上っ面だけの笑顔で気持ち悪く寄ってきた!! そんな薄汚い蝿を嫌いにならない訳がない」
こんな風に誰かの腹の中を明かしてもらうのは初めてだ。
こんな事、普通他人には話さない。
それを話してくれた。犬子ちゃんがそれだけ僕の事を信頼してくれているって事だ。
僕は何も握ってない手を握る。力強く。
「なんとか、お父様やお母さんに協力してもらって二人だけで本家から遠い場所に住まわせてもらってる。でも、卒業まで……。それまでになんとかしなきゃいけない」
「お姉ちゃん……」
犬子ちゃんも猫子ちゃんも涙声だ。
この二人はそんな大きな悩みを抱え込んでいたんだ。
もし、僕が同じ立場だったとしたら耐えられないと思う。
なんで……なんで僕の友達がそんな理不尽な悩みを抱えないといけないんだ。
__許せない。
心の底からそう思った。
「分かった。協力するよ……」
「えっ」
「い、いいんですか!? きっと、サトリさんが思っているより大変なことですよ……」
僕も、軽率な判断だとは分かっている。
いくら心を読める力があるからって、僕みたいな学生に出来ることなんて限られている。
でも……それでも、だ。
「__友達が困ってるんだから、助けなかったら男じゃない」
理由なんて、それだけで充分。
あれ、サトリ君がヒロインから主人公になってる




