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建斗の告白作戦(さとり戦)

 さて、僕は今かなり困っている。

 普段はカップルで賑わっているらしい展望室には誰も居ない。

 ……僕と建斗以外は。


「さとり君……クレープ美味しいね……」『さとり君と一緒に食べてるからだけどね』

「っ……!」


 な、なんでこいつはこんな事を普通に思えるんだよ!

 す、少しだけカッコイイって思うじゃないか。


「それでね。今日、さとり君をここに誘ったのはね……」

「く、クレープ食べ終わるまで待って」

「えっ、うん、いいけど」


 僕は知っている。建斗が今日、なんのために僕をここに連れてきたのか。

 それは……


『こ、告白……絶対に成功させなきゃ』


 告白をするためだ。

 誰にって、もちろん僕にだ。

 前々から建斗の好意には気づいていた。

 むしろ、気づかない方がおかしいだろ。


「さとり君は、なんで私が……俺が女だって知っても何も言わなかったんだ?」

「……は?」


 いきなり何を聞い……。


『もしかして、さとり君は俺が男でも女でもどうでもいいって思ってたり……』


 ちっ。なんだ真面目な質問か。

 告白する前に怖気づいたか。


「そんなの、どうでもいいからだよ」

「っ……」『やっぱり……』

「親友の性別が男でも女でも……変わりはない。だからどうでもいい。男でも女でもどうでもいい」

「な、ななな……! 何いってんだよ!」『嬉しい! 嬉しい! 嬉しい!』

「うっ、背中を叩くんじゃない」


 建斗は照れ隠しで僕の背中を叩いている。

 こいつ、家が武術やってるから力強いんだけど。

 僕は手に持っているクレープに乗っているいちごを膝の上に落としてしまう。


「あ、ごめん」

「いいよ別に」

「責任持って食べるから」

「いや、なんの責任だよ」


 建斗は僕の膝に落ちたいちごに顔を近付け、そのまま舐め取るように食べた。

 ってこいつ!? 何してんの!!?

 傍から見たらド変態だぞ!


『な、なんかさとり君の奴隷にされたみたい。これはこれでいいものが……』


 いや、傍から見なくてもド変態だ。誰か逮捕してくれ。


「うん、美味しい」『さとり君の膝』

「……へんたい」

「えっ、ち、違うよ! 私は変態じゃないよ!」『多分!』


 言い切れないのかよ……。それに変態なのはだいぶ前から知ってた。

 この世界には変態が多すぎるんじゃないか。

 いや、前の世界も奥手なだけで変態だらけだった。


「ねぇ、聞いてる! 私、変態じゃないから!」『さとり君以外には!』


 いや、僕に対して変態なら駄目だろ。変態だろ。

 僕は言い訳をする建斗を横目に黙々とクレープを食べる。

 うん、クレープは美味しい。

 五分ほどで完食してしまった。


「ごちそうさま。それじゃ帰る」

「ちょ、ちょちょ、待ってよぉ!」


 くっ、このまま帰れると思ったんだけど無理か。


「今日は、さとり君に伝える事があるって言ったでしょ!」

「そうだったっけ? 何? この前、貸した160円なら返さなくていいよ」

「ちっがう! そんな小さい事じゃなくて! 私はさとり君が!」


 ……逃げ切れないか。

 僕は腹をくくる。本気で告白をする建斗から逃げるのは男失格だ。


「す、す、すき、スキ……スキミング……」


「は?」


 スキミングってカード犯罪とかで使われるあれか?

 何を言ってるだこいつ。


「最近、またスキミングを使った犯罪が増えてるみたいだから……気をつけて」『何言ってるのー!? 俺って馬鹿か!? 大馬鹿か!?』

「はぁ……」


 さすがの僕もこれにはため息が漏れてしまう。


「そう、気をつける」


 僕は建斗に背を向けて帰るために鞄を持つ。


「ち、違う!」


 帰ろうと一歩踏み出すと建斗に服の裾を掴まれる。

 いきなり裾を掴まれ、体がびくっと跳ねる。


「俺は、さとり君の事が……さとり君の事が!」


 僕は建斗の方に振り向く。


「……ははっ、駄目だ声に出ねぇ」


 諦めた表情をして小さな声でつぶやく建斗。

 意気地なし……。


「なぁ、さとり」


 建斗がいつの間にか昔の口調に戻っている。


「__今日は月が綺麗だな……」『さとり君が知っている訳ないけど』


 は……、なにそれ。

 夏目漱石のあれ? ははっ、意気地なさすぎるよ。

 でも、頑張ったんじゃないかな。僕なら、こんなセリフも言えない。

 そんな建斗に「そうだね」なんて言葉返せない。


「建斗」

「ん?」


「__僕を死なせてみて」


 まぁ、これが僕の精一杯かな。


「は、何言ってるの?」『いきなりどうしたんだろう』


 ……こいつ、月が綺麗だなって言ったくせに返事の言葉知らないのか。

 呆れてため息が漏れてしまう。


「知らない」


 僕はそっぽを向いて家に帰るために歩き出す。

 全くなんなんだ今日は、告白されると思ったら変態的行動されるし、告白されると思ったら勝手に諦められるし、告白されると思ったら告白されるし……、返事したら知らないし……。


「お、おい、待ってよー」


 でもまぁ……悪い気分ではないな……。

 久々のさとり回。こちらのさとり君は一枚上手ですね。

 

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