建斗の告白作戦(延長戦)
ホームルーム開始の数分前にサトリが教室に入ってきた。
そのまま、俺の前に来たサトリは頭を下げる。
「ごめん建斗。建斗からの手紙、誰かに盗まれた」
「えっ、いや、全然大丈夫だぜ!」
そうか、手紙を盗んだ犯人を探していたのか……。
犯人は俺なんだけどな。罪悪感を感じてしまう。
「でも、わざわざ手紙で伝えることって何だったの? 僕、読めないけど」
「えっ、いや、そ、それはな」
ど、どうする。これって伝えるチャンスなんじゃないか?
「サトリ君~、早く席に座らないと先生来るよぉ~」
「あっ……。ごめん建斗。後で」
「あっ、うん」
サトリは席に座ってホームルームの準備を始める。
そんなサトリを見ていると、サトリの隣の席の神ヶ崎がノートに文字を書いてこちらに見せてくる。
__焦りすぎ。
その文字を見て、俺は冷静になる。確かに、さっきの俺は焦っていた。
放課後まで待たないとな。
しかし、どう告白すれば良いんだろうか。
女らしく、「付き合ってくれ!」といえば良いのだろうか。
いや、その前にどこで告白するかだ。
そう言えば近くに綺麗な星空が見える高台があったな……。
いやいや、サトリは目を開けないから見れないだろ。
その日の俺はホームルームの内容など一切聞かずに放課後のことを考えていた。
そ、そもそも、放課後誘うってどうすればいいんだ!? まずそこじゃないか。
四時間目も終わり、放課後まで二時間を切った。
だが、正直どう告白するかは少しも決まっていない。
「建斗、今日ずっと悩んでるみたいだけど何かあった?」
「えっ、いやなんでもないぜ! サトリは今日も可愛いなぁってな、思ってただけだぜ!」
「えっ……?」
サトリがキョトンとしてしまう。
……
……って俺は何を言ってるんだ!? 何、ナンパ女みたいな事を言ってんだよ!
おい、獣山! 口笛を吹くな! ひゅーじゃないだろ!
おい、神ヶ崎も悪乗りするな! って玲先生まで!?
「え、えへへ、建斗、嬉しいけど可愛いは複雑な気持ちになるよ。僕、男なんだし……」
「て……」
天使かこいつはあああああああああああ!!!!!!
「そ、そうか。すまんな」
「ううん、全然大丈夫だよ。でも、カッコイイって言ってもらえるように頑張らないとね」
「お……」
男神かこいつはああああああああああああ!!!!!
「そう言えば、サトリ今日の放課後って暇か?」
「今日? 確か咲もお母さんも帰りが遅くなるって言ってたから暇だけど」
「じゃあ、今日の放課後少しだけ寄り道しねぇか?」
「えっ……別にいいけど」
い、勢いでいけた。俺って告白の天才なんじゃないか?
俺はサトリに見えないことを良いことに小さくガッツポーズをした。
__放課後。
つ、ついにきた!
「建斗、寄り道ってどこに行くの?」
「近くの高台に行くつもりだぜ」
「高台?」
結局、そこ以外に告白に最適な場所は思い当たらなかった。
確かあの近く、美味いクレープ屋があったしな。それのついでってことにしておこう。
「あぁ、近くに美味いクレープ屋があってな。それのついでに登ってみたくてな」
「なるほど……」
「エレベーターもあったからな。サトリでも安心だぜ!」
「そうなんだ。優しいね建斗」
「え、あぁ、にしし……」
すまんサトリ、本当は下心丸出しなんだぁぁ!!
いや、告白は下心じゃないはずだ。別に高台で変なことをしたいとか思ってないし。
確かに行く理由はこじつけだけど。
……なんで自分に言い訳してんだ俺。
「じゃ、行くか」
「うん。そういえば建斗」
「なんだ?」
「『くれーぷ』って何?」
サトリは鞄を持って首を傾げながら聞いてきた。
……たまにあるサトリの不思議な無知だ。
サトリはあまり色々な種類の食べ物を食べたことがないみたいだ。
だから、時々こうして食べ物の話しをすると聞いてくる時がある。
それか、知識はあるけど食べたことがないってのも多いみたいだ。
「あぁ……クレープってのはな。色々なフルーツが入った甘いお菓子だ」
まぁ、甘くない主食的なクレープも結構あるけどな。
「なんだか、美味しそう」
「特別に俺がおごってやるぜ!」
「ありがとう、建斗」
本当にこんなに純粋で大丈夫なのかサトリ。俺は心配だぞ。
いくら友達……親友とはいえ女にホイホイついて行くのは危ないぞ。
お、俺は危なくないけどな!
「それじゃ、行くぞー!」
「おー」
クレープ屋に着くまで俺達はいつもどおり、他愛もない話をしていた。
クレープ屋に着くと、俺は注文をするためクレープ屋の受付に行く。
「サトリ、何か苦手なフルーツとかあるか?」
「うーん……フルーツをあまり食べたことがないから……。あ、でも一度食べたいちごは美味しかった」
「そうか、じゃあサトリはいちご系のクレープだな。チョコとか大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
よし、じゃあサトリはいちごチョコクリームで、俺はバナナチョコクリームでいいか。
そういえば、サトリとこうやって二人で寄り道するのってゲーセンの時以来か?
休日にサトリん家に遊びに行くことはあったけど、二人で外で遊んだのってゲーセンの時だけじゃねぇか?
親友とか言う割に、全然遊んだり出かけたりしないもんな……。
俺はクレープを注文して、待っている間に軽くサトリと出会った頃からを考える。
そう言えばサトリのやつ、俺が女だって分かっても全然気にしなかったな……。
正直、嫌われたと覚悟したけど。優しいサトリだからな。そんな簡単に人を嫌いにはならないか。
「お待たせいたしました」
「あ、あざっす」
俺はクレープを受け取り、サトリの元に帰る。
「ほら、クレープ持ってきたぜ」
「うん、ありがとう建斗」
「せっかくだし、高台登ってから食うか」
「うん、分かった」
サトリは右手に杖、左手にクレープを持って俺についてくる。
なんだか、少し危なっかしいな。
クレープ屋の近くの高台。ここはカップルに人気のスポットだ。
この街もここを観光名所にしたいのか、エレベーターや高台の上には展望室なんかもある。
まぁ、俺も来るのは初めてなんだが。
「エレベーターはこっちだぜ」
「ありがとう建斗。それにしても、高台にエレベーターって珍しいね」
「こっちの方じゃ中々の観光名所だからな。金が回ってくるんだろ」
「うっ……なんか汚い話だなぁ」
「まっ、その御蔭でサトリみたいな階段を使えないやつでも登れるんだ。それは良いことだぜ」
そんな話をしていると、高台の上につく。
エレベーターのドアが開くと、真っ先に目に入るのは俺らの住んでいる街だ。
自然と、俺の口から「うわぁ……」と驚きの声が出る。
「ん、どうかした建斗?」
「えっ、いや、なんでもないぜ。そっちに展望室があるし、そこで食うか」
「うん」
展望室に入ると、窓一面にガラスが張られていた。
そこから街が一望できる。
意外に人はいないんだな……。まぁ、平日だからか。
「ここ、座れるぞ」
「ありがとう。その、建斗……」
「ん、なんだ?」
「手、貸してもらってもいいかな……?」
可愛すぎかよ。サトリは杖を脇に挟んで空いた手を俺に向けてきた。
そうか、下手に座って地面に尻餅ついちまうかもしれないしな。
「あぁ、もちろんだぜ」
「ありがとう」
サトリと俺は椅子に座る。眼の前には夕日が沈みかかって、オレンジ色にしまっている街が見えるが……。
サトリには見えないし、言わないほうがいいな……。
これは、カップルの人気スポットになるわけだ。
「んじゃ、いただきます」
「うん、いただきます」
クレープを食べ始める俺とサトリ。
……。
……。
……。
うん、話すことがない。
というか、サトリのやつはじめてのクレープに感動して黙々と食べてる。
可愛い。クリームがほっぺたについてる。
「サトリ、クリームがほっぺに付いてるぞ」
「ん、ありがとう建斗。クレープ美味しすぎて……」
可愛すぎかよ。マジ可愛すぎかよ。おい。
ヤバイヤバイ、サトリが可愛くて俺の語彙力が無くなってた。
「それにしても、建斗が寄り道に誘ってくれるなんて珍しいね」
「ん、あぁ、少し言いたいことがあって、な」
「言いたいこと?」
サトリはほっぺについたクリームを拭いながら、首を傾げた。
い、言っちまうか。もう言っちまうのか!?
でも、まだ雰囲気とか全然ないし。
「その、サトリは俺が女だって知った時、全然俺を嫌悪しなかっただろ……。それってなんでなんだ?」
うっ、まだタイミングじゃないんだ。ここは別に気になっている事を聞こう。
それに、これは本当に気になっている事だしな。
なんであの時、サトリは俺を避けなかったんだろう。
「……なんでって、建斗がともだ……親友だからだよ。それに建斗だって僕が目が見えるのを隠している理由を聞かなかった」
「そ、それはお前……親友の隠し事を無理に聞こうなんて思わねぇよ……」
そうか……。サトリから……サトリから親友って言ってくれた。
俺は頬が緩み、口角が上がり、顔が暑くなるのを感じる。
嬉しさが心の底から湧き出てくる。
「やっぱり……」
「ん、なんだ?」
サトリが微笑みながら俺の方を見た。
「建斗は優しいね」
「んな……ッ!!」
な、なんなんだ! なんなんだ!!
この溢れてくる感情。嬉しいなんて言葉じゃ収まりきらない。
「僕、建斗と友達に親友になれて本当に良かった」
俺の目から涙が流れる。
はは……なんだよそれ、そんなの、そんなの……。
「俺のセリフだ」
「僕、建斗が好きだよ。友達として一番」
「……そうか。俺も、サトリが好きだぜ……友達として一番」
サトリは、赤面しながら「なんだか照れるね」と言いクレープを一口食べる。
やっぱり、俺に告白は早かったみたいだな。
本当は友達としてじゃなくて……女として男のお前が好きなのにな。
神ヶ崎に言われた通り、俺は結構……、いや大馬鹿だな!
「日も沈んじまったな……。そろそろ帰るか」
暗くなった街に、生活の光が灯っている。
綺麗だな。
ん、今日は満月か……。
「うん、クレープ美味しかった」
満月……月……、今の俺には丁度いい告白ゼリフかもな。
サトリが知ってるわけもねぇけど。
「サトリ……」
「ん、何?」
「__今日は月が綺麗だな」
サトリには月を見ることも出来ないだろうけど……。
ゴメンなサトリ、俺はお前に届く告白の言葉一つ言えやしない大馬鹿だ。
俺は自虐的な笑みを浮かべながらサトリの方を見る。
「……」
サトリは赤面したまま、固まっていた。
ん、どうしたんだ?
「け、建斗……その、あの」
「ん、どうした。どこか具合でも悪いのか?」
「__死ぬのは少し待ってて欲しい」
え、死ぬ? 何言ってんだこいつ。
大丈夫か? もしかしてどこか本当に具合でも悪いのか。
「さ、サトリ!」
「えっ、はい!」
「俺がおぶってやる! 早く家に帰るぞ!」
「えっ、な、なんで!?」
「おめぇを死なせるもんか!!」
俺はサトリを背負い高台から駆け下りる。
背中でサトリが「そ、そういう事じゃ」となんか言ってたが気にしてられない。
早く家に返して休ませないと!
俺はノンストップでサトリの家まで行き、サトリの家族がまだ帰ってきてなかったから看病をした。
具合の悪そうな所は無かったが、あまり外に出ないサトリだ。疲れたのかもしれない。
今日は、告白失敗するしサトリの具合を悪くするし散々な日だったな……。
まぁ、サトリの看病を出来たのは少しだけ約得だったが。
サトリの母ちゃんが帰ってきて、俺が帰る時、なんだかサトリがため息をついていたがやっぱり疲れていたんだろう。
次からはもっとスマートに告白をしよう!
「月が綺麗ですね」
昔、夏目漱石が生徒に「I love you」の訳を頼まれた際「月が綺麗ですね」と訳した逸話から長くロマンチクックな告白の台詞になっています。
「死んでもいいわ」
このセリフは同じく小説家の二葉亭四迷が「yours(あなたに委ねます)」を「死んでもいいわ」と訳したことからロマンチックな告白の返事として使われます。
この二つのロマンチックな言葉はセットで使われることが多いみたいです。素敵ですね。




