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建斗の告白作戦(後半戦)

 __学校に着いた。

 さて、あとはこのラブレターをサトリの靴箱に……靴箱に……。


「ねぇ~、建斗ちゃん~。それ、サトリくん見つけられないんじゃ~?」

「あ……」


 も、盲点だったぁ!!


「というか……サトリくん読めないんじゃないかな~」

「あ……あぁ……!!」

「あははー、アホだね~」


 く、クラスで一番アホな喋り方しているやつにアホと言われた……。

 俺は膝をついてサトリの靴箱の前で四つん這いになる。

 いや待て、サトリは見えないふりをしているだけで本当は見えるんだ。読めない事はないだろ。

 あ、だけど、学校じゃ目を開けないだろうし下駄箱に入れても気づかれない可能性が……。


「うわぁ、めちゃめちゃ考えてるねぇ~。良ければ私が渡してあげようか~?」

「えっ……いいのか?」

「友達でしょ~。いいよそれくらい~」

「俺とお前って友達だったんだな……。ありがとよ! 頼むぜ!」

「さらっと酷いことを言ったね……」


 なんだよこいつ、普段フザけた喋り方して避けられてるのかと思ってたが良いやつだったんだな。


「でも本当にいいのか? お前もサトリを狙ってるんじゃ……?」

「あぁ……あはは~、まぁ可愛いとは思うよ~。話してて退屈もしないしね~。好きか嫌いかで言えば好きだよ~……。でも、付き合いたいとかの好きじゃないからねぇ」

「なるほどな……。そういうのもあるのか」


 俺にはよく分からないけど、あれだな。

 今のセリフをサトリに言われたら俺はかなりショックを受ける、だろうな。

 俺は頼むぜと言いながらラブレターを神ヶ埼に渡した。


「任せてねぇ~」


 軽く手を振り、サトリの下駄箱まで向かう神ヶ埼。

 しばらく収まっていた鼓動の速度が再び増していく。

 内容は宗谷に確認してもらった。自分でも何回も確認した。

 おかしい所はないし、要点もしっかり書いてある。


 __好きです。付き合ってください。と。


 ベタベタで古典的な告白文だが……それ以上の言葉が思いつかなかった。


「大丈夫……大丈夫……」


「何が大丈夫なの__?」


「あひゃい!?」


 知っている声に俺は咄嗟に振り向いた。

 そこにはサトリが立っていた。


「建斗だよね。おはよう」

「お、おお、おはよふ!」

「……よふ?」


 しまったぁ! 噛んじまったぁぁ!!

 緊張しすぎだろ俺! サトリが首を傾げてるだろ! なにそれ可愛い!!

 じゃなくてだ! 落ち着け……落ち着くんだ俺。


「すまん。寝不足でな。呂律が回ってないんだ」

「そうなんだ。じゃあ、早く教室行って少し寝る? ホームルーム前に起こしてあげるから」


 くそっ、優しい! 天使かこいつは!


「い、いや、少しやることがあってな。先に行ってていいぞ。ありがとな!」


 このままサトリと行ったら、緊張と恥ずかしさで心臓爆発するぞ……。

 

「そう、わかった」

「また後でなー」


 サトリは下駄箱の方に向かう。

 た、頼むぞ神ヶ崎ぃ!! 両の手の平をあわせる俺を見た神ヶ崎は優しい笑顔でこちらに手を振っている。

 任せろと伝えたいのか?


「おっはよ~サトリ君っ!」

「……あ、天美さんか……」

「む、その反応、少し傷つくよ~」


 俺は少し近づいて、二人の声が聞こえる距離にいる。

 いつものように会話する二人。なんかあの二人、ここ最近妙に仲いいよな。

 神ヶ崎は狙ってないと言っていたが、もし狙っていたとしたら、強力なライバルだな。


「いや、最近はその喋り方してなかったから……」

「まぁたしかにねぇ~」

「ここで立ち話も迷惑だろうし、教室にいこ?」

「あ、ちょっとまってねぇ。渡すものがあるんだぁ~」


 つ、ついに渡すのか。アレを、ラブレターを。ヤバイヤバイヤバイ。

 心臓の速度が倍以上に跳ね上がる。手が震えてきた。

 アレを、サトリが読む。読んでくれる。読まれる。

 覚悟は決めた。だけど、今になって失敗したらという感情が俺の脳を支配している。

 もしも失敗したら、俺はサトリと付き合えない。それどころか友達ですらなくなるかもしれない。

 話すこともできなくなるかもしれない。サトリから軽蔑されるかもしれない。


 あるはずない『かもしれない』が俺の足を動かした。


「建斗ちゃんからなんだけどねぇ」

「建斗から?」

「そう、これラブレ__」

「__だああああああああああああ!!!」

「うわっちょ!!?」


 俺は神ヶ崎の手に握られているラブレターを奪い取って走り去った。

 手の震えが止まらない。風邪を引いているみたいに体が寒い。血の気が引いている。

 途中で新任の先生に『廊下は走らない』と注意されるまで止まらずに走った。

 あれ、なんで俺、ラブレター奪ってんだ……。

 なんで俺、折角のチャンスを無駄にしてんだ……。

 なんで俺、


 __こんなに怖がってんだよ……。



 ※ ※ ※ ※ ※



「__建斗ちゃんはあれかな~。本当にお馬鹿さんなのかなぁ?」


 教室に来た神ヶ崎の第一声はそれだった。

 何故かサトリは一緒じゃない。

 俺は見えない槍で突かれた様にその場に突っ伏した。


「サトリくんったらびっくりしすぎて数秒間停止しちゃってたよぉ~。今は『さっきの人追いかける』って校内を探してるよ~」


 そうか。俺ってバレなかったんだな。


「本当に……すまん……」

「まぁ、私はいいけどさぁ。どうするのラブレター?」


 どうするもこうするも……。


「どうしたらいいんだ……」

「はぁ……、建斗ちゃん。もういっそのこと口で伝えたらどうかなぁ~?」

「そ、それが出来たら最初から苦労は……ッ!!」


 神ヶ崎がいつもは見せないような真剣な表情をしていた。

 その表情を見た俺は固まってしまう。


「ラブレターでも口からでも告白することに変わりはない。だったら口で伝える方がいいんじゃないかな……。サトリ君は確かに見ようと思えば目は開けるけど、開きたくない理由があるんだよ。彼のことを本当に思うなら、想うなら、口で伝えてあげるのがいいと思うよ……」


「……」


 神ヶ崎が俺だけに聞こえる程度の声の大きさで言う。

 分かってる。分かってんだよ。そんな、そんな事くらい。

 ラブレターなんて俺の逃げだ。今までの関係が目の前で崩れるのを見たくないから、俺の見えない所に持って行きたかっただけなんだ。

 サトリが目の事を隠してるのだって何か大きな理由があるのも知っている。俺にも話せないくらい……。

 目を背けていた事実を神ヶ崎に言われ、自分の情けなさに嫌気が差してくる。


「これはねぇ。小耳に挟んだ情報なんだけど、今夜はサトリくん家誰もいないらしいよ~。少しくらいなら帰りが遅くなっても大丈夫かもねぇ~」


 そして、いつもと同じテンションに戻る神ヶ崎。


「……やるしかねぇよな。女なら」


「ひゅー、かっこいい~」


 うっ……。俺は少しだけ羞恥心を感じる。

 だけど、いいんだ。俺はやるぞ。

 絶対にサトリに告白してやる!! してやるんだ!!


 __建斗の告白作戦。延長戦だ!!!

 ラブレターで告白する学生って全国を探しても三桁いない数だと思うんです。

 自分が通っていた中学や高校では一度も耳にした事が無かったです。

 やはり、ラインやSNSでの告白が殆どで、面と向かって告白する人も少なかったと思います。

 自分は告白経験自体がないのでよく分からないんですが、面と向かっての告白よりラブレターの方が恥ずかしいと思うんです。

 字の汚さや文法、表現力などを見られますからね。何か一つでも駄目なら書きたくないと思うでしょう。

 まぁ、そういった汚点を見ても笑って流してくれるだけの人なら問題無いんでしょうが……。

 リアルにそんな天使……いないんだよなぁ……。


 つまり、やっぱり二次元が最高という訳です。定型文ですが、リア充は爆発しろ。

 あれ、そういう話だったっけ?

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