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建斗の告白作戦(決行前夜)

 夏休みが終わり、九月も中盤……。俺、いや、私、建斗は大変焦っている。

 理由はサトリ……私がサトリを好きだという事に気づいてから早四ヶ月くらい経つのに……。


「サトリとの関係が親友止まり……」


 俺は居間の机に突っ伏しながらため息を漏らした。


「男の親友がいるという時点で僕は相当羨ましいですけどね」

「建斗は事を急ぎすぎる性格やからなぁ。てゆうか、この前の温泉でかなり進展してた気がするんやけど?」


 宗谷と海斗姉さんには分からないんだ。

 サトリの周りは野獣(獣山姉妹や咲や天美)が沢山いるんだ……。

 というか海斗姉さん、今度は関西系のドラマか映画を見たな。


「いや、ここはきっぱり告白するだとお母さんは思うぞ~。当たって砕け散れ、だ!」

「いや、砕け散っては駄目だと思いますよ」


 告白……告白かぁ……。

 実は何回かしようと思った事はある。

 緊張しすぎて実行に移すまではいかなかったが……。


「サトリ君はいい男だからなぁ。早くしないと取られるぞぉ~」

「確かに、建斗は奥手やからなぁ」

「と、取られる……」


 そ、それだけは駄目だ。


「建斗、お前は女だ! やる時はやれ!!」


 そ、そうだ。私は女だ。

 ウジウジしていたらサトリに嫌われちゃうかもしれない。

 女なら女らしく、きっぱりと思いを伝えないとな!


「__分かったよお袋! おー私! 明日告白する!」


「建斗姉上って、かなり流されやすいですよね」

「それが建斗のええところやさかいなぁ」


 聞こえない! 流されやすくてもなんでもいい!

 俺は明日……サトリに……こ、こく、告白……


「まずはラブレターを書くぜ!!」


「「「まわりくどっ!!」」」





 ~宗谷視点~



 


 僕、宗谷は建斗姉上からラブレターを書くのを手伝ってと言われて手伝うことになった。

 母上は武の事以外はダメダメだし、海斗姉上は頭はいいが色々とこじらせているからダメ。

 消去法で僕になったみたいです。


「建斗姉上……僕より頭いいんですから自分で考えたら良いじゃないですか」

「だ、駄目だ! おー私はこういうの苦手なんだよ!」


 おー私って……一瞬俺って言いかけてるじゃないですか。

 建斗姉上は三河さんの事になると大変に面倒くさい。

 今ばかりは三河さんを恨みます。


「と、とりあえず、【拝啓サトリ様へ】っと……」

「か、硬すぎますよ建斗姉上! そこはシンプルに【サトリへ】とかで良いじゃないですか! あと達筆すぎます! なんか気持ち悪い上に読みにくいのでもっと柔らかく書いて!」


 い、一文目からこんなに問題点が出てくるなんて……これ、今日寝れないかも……。


「き、気持ち悪い!? そ、そうか……確かにこれじゃラブレターというより果たし状みたいだな……」

「そうです。だから柔らかく、それでいて思いの硬さを伝えるんです。普段、口では言えない気持ちや、なぜ好きなのかを!」

「す、凄いな宗谷! お前、なんでラブレターにそんな詳しいんだ!?」


 建斗姉上がキラキラした目で僕を見てくる。

 詳しい……わけではないですが、僕も昔書いた事がありますからね。

 その時、色々調べたんです……。まぁ、結果は玉砕でしたが。


「うっ、嫌なこと思い出した……」

「ん、どうしたんだ?」

「いえっ! そんなことより早く書かないと日が昇ってしまいますよ!」

「おっ、そうだな!」


 建斗姉上ははっとした顔でラブレターを書き始める。


「普段言えない事……普段言えない事……」

「感謝の気持ちなんていうのもいいですよ。感謝されて嫌がる人は少ないでしょう」

「感謝か……」


 お、何か思い当たる所があるのかな。

 建斗姉上が肘を机の上に乗せて考え始めてる。


「私、小学や中学の頃、友達がいなかったんだ……。宗谷は部活をやってるから居るかもしれないが、私は部活より家での稽古だったからな」


 建斗姉上が語りだした。そういえば、建斗姉上って三河さんの話をするまで友達の話とか一切しなかったっけ……。


「で、高校に入ったら海斗姉さんが家を継ぐことが決まって稽古の時間も減って……暇な時間が増えたから友人を作ろうとしたんだが、私の周りには誰もいなかった。高校に入ってから二、三ヶ月経ってたからな。グループが完成してたんだよ」

「そうだったんですね……」


 確かに、建斗姉上は明るい方ですが人付き合いは下手。グループに無理矢理入る事なんて出来なさそうだし……。


「正直、友達作るのとか諦めてたんだ……。そんな時、ちょうど隣の席だったサトリが昼に一人で飯を食っててな……なんか不思議と『あ、こいつも俺と同じなんだ』とか思ってな。にししっ」

「そこから三河さんと友達になったんですか?」

「あぁ、俺から話し掛けたんだけどな。最初は無視されちまってな! あれは流石に傷ついたな……」


 今の三河さんは優しくて、最初僕に合った時も普通に話しをしてくれましたが、そんな事があったんですね……。


「三河君からサトリって呼び替えるのにもかなり時間がかかったんだぜ? だから、海斗姉さんが最初からサトリって呼んだ時は少しムッとしたな」

「ははっ、そうだったんですね」


 建斗姉上がこんなに表情豊かにお話をするのは久しぶりな気がする……。

 それに、建斗姉上が自分の過去の事を話してくれるのも……初めてだ。

 僕は、昔から何事も頑張る建斗姉上に憧れていた……。家族の中だったら一番話しているのも僕の筈だ。

 でも、それでも……僕は建斗姉上のこんな幸せそうな顔を見せてもらった事がない……。


「__三河さんが羨ましいですね……」

「ん、なんか言ったか?」


 建斗姉上がキョトンとした顔で僕と見る。


「いえ、それより早くその気持をラブレターに書いちゃってください」

「あっ、そうだったな! 話すのに夢中で忘れてたぜ!」


 建斗姉上はスラスラとラブレターを書いていく。

 その一文一文から気持ちが伝わってくる。な、なんだか人のラブレターを見るのは恥ずかしいですね……。

 それに僕、最初以外手伝いしてないですし……いる必要あります?


 建斗姉上が少しずつ完成させていくラブレターを見ながら、僕の夜はふけっていく。

 少し不満もあるけど……建斗姉上の幸せそうな顔も見れたし……。ま、いいか。


 どうか、建斗姉上の恋心が三河さんに届くよう。

 ご先祖様にでもお願いをしておきましょうか……なんてね。

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