サトリ君のパラレルワールド(2)
僕の能力がパラレルワールドに行くことだとか、実は際見さんが異世界の僕だったとか、ハチャメチャな出来事が合った日の夜、家に帰ると際見さんが部屋に居た。
僕が夕食を済ませて部屋に戻った瞬間、「おかえり~」と声を掛けてきた。
「際見さんが、なんで僕の部屋にいるの?」
「いやはは、実はですね。もう一つ幸せ候補のパラレルワールドが合ったんですけど。そっちに行ったらまた捕まっちゃって、本当に拷問とかされそうだったから逃げてきたんですよ」
「はぁ……。あ、お茶飲む?」
「はい! 貰いま~す」
僕は一階に下り、お茶を注いで二階の自分の部屋に戻る。
頭の整理が追いつかなくて質問があまりできなかったけど、折角二人だし色々聞いておきたい。
「ん~、流石私ですね。美味しいお茶の入れ方です」
「それ、ペットボトルのお茶」
「えっ、じ、時代って凄いですね! こんなおいしいお茶をペットボトルで売るなんて本当に凄いですよ!」
それは確かに思う。ペットボトルのお茶は美味しい。
「質問、答えてもらってない」
「え、何のですか?」
「僕の部屋に居る理由。なんでこっちの世界に居るのかは教えてもらえたけど」
「あっ、それはですね! パラレルワールドを移動するときはその世界の自分の近くに出るからですよ。この部屋お風呂の真上ですよね」
なるほど、つまり僕がお風呂に入っている間にこっちに来たんだ。
お風呂場に出て来られなくてよかった。
いくらパラレルワールドの自分でも女の人にお風呂覗かれるのは少し恥ずかしい。
「一回お風呂場に出たんですけど、いやぁ自分とはいえ眼福って感じでしたよ。あ、家族にはバレないようにこの部屋まで来たので安心してください」
安心できない!?
え、一回お風呂場に出てきたの……つまり見られてたの!?
気配消すの上手すぎる。
「あ、自分だけ見られたのがいやなら私のも見せましょうか?」
「いい……本当にいい」
僕は手を振って断る。
「うっ、本気の拒絶は少し悲しいですね」
「際見さん。本当に異世界の僕なの?」
僕と性格がかなり違うみたいだけど……。
「まぁ、私の世界はこの世界からかなり離れてますからね。似てないと言われても仕方ないと思いますよ。具体的には世界400個分くらいは離れてますよ」
世界400個って規模が大きすぎてどのくらいなのか分からない。
「離れた世界であればあるほど人柄や見た目や生い立ちが変わってきます。400個も離れればもう他人と言ってもいいくらい違う人間になります……でも、サトリさんは私ですし、私はサトリさんですよ。見た目とか性格とかじゃない部分で私たちは同じ人間なんです」
「よく分からないけど……本当に僕なんだ」
「はい!」
僕と際見さんは見た目も声も性格も違う。それでもどこかが同じで、きっとそれは目に見えない物……。
多分、僕が考えたとしても分からない物なのかもしれない。
「ねぇ……」
「ん、なんですか?」
「僕も、パラレルワールドを行き来する事って出来るのかな」
「えぇ、出来ますよ。もちろんじゃないですか!」
出来るんだ……。いや、あまりしようとは思わないけど。
際見さんの話からして思った通りの世界に行ける確率は少ないみたいだし、色々な世界に行かないと今と大した違いはないみたいだしね。
「おにいちゃーん。なんか話し声聞こえるけど誰かいるのー?」
ドアの向こうから咲の声が聞こえる。
流石にバレない方がいいよね。
「際見さん。隠れて」
「分かりました~」
数秒ほどすると咲がドアを開ける。
「お兄ちゃん?」
「……咲、どうかしたの?」
「え、いや、誰かと喋ってた気がしたから、もしかして誰か来てるのかなって思って」
「さっきまで、健斗と電話してた」
ここは嘘で誤魔化そう。
「あぁ! そうなんだね。何話してたの?」
「え、あ、将来的な話……」
僕達の年なら進路の話をしても可笑しくないと思う。
「しょ、将来!? お、おおおお兄ちゃんと健斗さんってそんな、か、関係だったの!?」
え、そんな関係って、進路を相談するくらいの関係ではあるけど。
「うん」
「なん……だと!?」
「咲?」
「だ、だって、お兄ちゃんと健斗さんは友達で……いってても友達以上恋人未満だったじゃんなにそれ羨ましい。じゃなくていつの間に将来設計をする関係になってたのずるい。私もお兄ちゃんと将来設計したいむしろここで建造したい」
咲の独り言が始まったみたいだ。
隠れている際見さんがバレないうちに出てもらわないと駄目なのに……。
「咲、詳しい話は後でするから、後で部屋に来て……」
「えっ、詳しい話!? わ、私心の準備できてないよ!?」
「お願い。今はやらないといけない事があるから」
「うっ、分かった……。お兄ちゃんが決めた事なら、仕方ないよね……。私、2番目でもいいから!!」
咲は涙声で部屋から出て行ってしまった。
2番目って何の事かな?
「__いやぁ、間女ってこんな感じなんですね。少しハラハラして興奮しちゃいましたよ」
「変態みたいな事言わないで……」
「え、普通興奮しません? 多分、私見つかったら大変な事になるんだろうなって思ったら普通」
「普通じゃないよ」
パラレルワールドとは言っても、僕なんだから僕の前でそんな発言しないで欲しい。
「もぉ、純情ぶって! 私が変態だったら、サトリさんも変態って事になりますよ。サトリさんも女の子の裸見たら興奮するでしょう?」
「そ、それとこれとは話が別……」
「否定はしないんですね。キャーサトリさんのえっち!」
こ、この人、僕の事をからかっている。
声だけでこの人が満面の笑みだって事が分かる!
「全く、女の子の着替えとか覗いちゃダメですよ。まぁ……むしろ、この世界の女性は喜ぶと思いますけど」
「の、覗かないよ! 話を戻して……」
「サトリさんが女性の体に興味津々な話でしたっけ?」
「違う! それにそれだと話戻ってないよ……」
この人と話してると疲れる。
もしかして、わざとこんな喋り方してるのかな?
「まぁ冗談はここまでにしておいてですね」
「冗談を言ってたの際見さんだけ……」
「冗談はここまでにして! サトリさんがパラレルワールドを行き来できるかって所ですよね」
無視された。
「さっき言いましたけどできます。でも、いくつかパラレルワールドの移動には条件があります」
「条件……」
まぁ、今まで天美さんとしてきた実験から超能力の発動には条件があるのは分かってた。
パラレルワールドを移動するってなると、容易じゃないんだろうな……。
「条件は……本気で思う事です!」
「え……」
「以下に本気で『他の世界に行きたい!』って本気で思うというのがパラレルワールドを移動する条件です」
「それだけなの?」
「はい、それだけですよ! 私の場合は『幸せな自分を見たい』って思いながら移動してます」
なんか、拍子抜けしてしまうほど楽と思える条件だった。
もしも、僕がここで本気でパラレルワールドに移動したいって思えば行ける訳だ。
でも、それじゃ__
「知らずに発動しちゃう事があるんじゃない?」
「まぁ、そういう事もあるかも知れないですね。というか、もうそうなってるかも知れないですね」
つまり、ここが僕の生まれた世界じゃない可能性もある……ってそんな訳ないか。
もしそうなら、この世界にも僕が居るはずだし、居ないって事は変わってないって事だ。
自分がこの世界で生まれた自分だと確信した瞬間、部屋にある時計が10時を伝える音を鳴らす。
「あ、もうこんな時間ですね! 私、明日の学校の準備があるので帰ります!」
「うん……。今度から来た時はすぐに言ってね」
「まぁ、お風呂の時間が大体6時過ぎ頃って分かりましたし、今度からは時間を外して移動します! あ、あと撮った写真は悪用しないので安心してください! それじゃ!」
え、撮った写真って何? 僕、何を撮られたの?
聞く前に際見さんは部屋を出て行ってしまった。
目を瞑っている状態では追いつく事は出来ないだろうし、大きな声で呼び止めるのも咲とお母さんにバレるから駄目だ。
「あ、安心できない……」
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