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サトリ君のパラレルワールド 〜貞操が逆転した世界〜  作者: 無無 無無
サトリくんのパラレルワールド編(前編)
78/90

【三章】プロローグ

 僕は昔の記憶を覚えていない。

 全部を覚えていない訳じゃないけど、本当のお父さんとお母さんの顔とか、何が好きだったとか、所々思い出せない。

 原因は交通事故らしい。

 ある日、車で出かけていた僕とお父さん達は事故に遭って、ニュースになるくらい大きな事故だったらしい。

 お父さんとお母さんはその時に死んじゃって。

 僕は右目を失明して、記憶障害になった。


 僕のお父さんは偉い人の息子みたいで、色々な人が病院まで来てくれた。

 でも、来る人はみんなお金の事や地位の事しか考えていなかった。

 多分、その時僕は人間不信になっていたんだと思う。

 毎日、来てくれるのは僕の事ではなく、僕の周りしか見ない人ばかり。

 本当に心配してくれたのは病院の人達だけだった。


 そんなある日、白髭を生やしたおじさんと杖をついて歩くおばさんが面会に来た。

 また、汚い人なんだろうと無視していたら、おばあさんが僕の頭に一枚の紙を貼った。

 剥がそうと思ったけど、一緒に来ていたおじさんに押さえつけられて、数分くらいして紙を剥がした。


 そして、その紙を見たおばさんは震えながら病室を逃げていった。

 その顔には『化け物』と書いてあったのを覚えている。

 意味が分からなかった。一体、何に向かってそう思ったんだろうと思った。

 そして、出ていったおばさんを見て、一緒に来ていたおじさんは言った。


『お前のような奴が__を名乗るな』


 何と言われたのかは、はっきりとは覚えていない。

 でも、僕はその言葉で心を折ってしまった。

 そして、『化け物』が自分を差している事にも気づいた。


 それからは、僕は化け物なんだ。僕は生きてちゃいけないんだ。

 と、自分を責め続ける毎日だった。

 だから、僕は病院の先生に頼んで、左目も失明してる事にしてもらった。


 自分は化け物じゃないんだと思いたかったからだ。


 そして、それから数週間ほどが経って、僕は三河家に引き取ってもらった。

 人間不信だった僕は、三河家の人とほとんど話すことはなかった。

 だから、今の環境になっているのは自分でも驚いている。


 三河家に来て数日が立っても、僕は家の人と話せなかった。

 そんな僕を気にかけて、獅子(しし)さん。咲のお父さんが話しかけてくれた。

 最初は何を言われても返事が出来なかったけど、少しずつ話ができるようになってきた。


 ある日、『お誕生日はいるなんだ?』と聞かれて、3月21日と答えた。

 そしたら、獅子さんが『もう少しじゃないか! プレゼントを用意しなくちゃな』と言ってくれた。

 顔は見てないけど、その言葉が心からの物だという事は分かった。

 嬉しかった。正直、泣きそうになった。

 自分の生まれてきた日を喜んでくれる人がいる。それだけで、涙が出そうになった。


 でも、そんな幸せは続かなかった。

 獅子さんが亡くなった。

 原因は交通事故。僕のお父さんとお母さんと一緒だ。


『疫病神』


 咲やお母さんからは、そう言われた。

 自分でもそう思う。思ってしまった。

 僕は疫病神なんだって。

 僕の口数はどんどん減っていき、最近までは必要最低限の事しか喋らなかった。


 そして、高校の入学式。

 新しいクラス、新しい人達の声。

 小学校、中学校は友達も作らずにいた。

 だから、高校もそうなんだろうと思っていた。


『なぁ、お前、なんて名前なんだ?』


 そんな時に、僕は健斗に会った。

 話しかけてきたのは健斗から、あの日の事は今でも覚えている。

 人に話しかけられたのが久々で、「あ、え、えっと」と上手に喋れなかった。

 出来れば、あの時に戻ってやり直したいくらい恥ずかしい思い出だ。


『にしし、お前、面白いやつだな! サトリって呼んでいいか?』


 最初は、なんだこの人って思ったけど、健斗は愛想のない僕に毎日話しかけてくれた。

 そして、高校初めての文化祭の日。

 僕は、健斗に連れられ文化祭を回っていた。


 僕が数年ぶりに笑ったのはあの日だ。


『俺達、もう親友だな!』


 親友。僕は大きくうなずいた。

 あの日から僕は、トラウマを乗り越えようと努力を始めた。

 挨拶は出来るだけしようとしてるし。

 愛想も良くなったと思う。



 ※ ※ ※ ※ ※



「……。ここは?」


 僕は意識を戻す。

 ベットの感覚。あ、そうだ。

 僕、倒れちゃったんだ。


「大丈夫かい。サトリ君?」


 玲さんの声が聞こえる。

 看病してくれてたのか。


「今、何時ですか?」

「11時半だね。もう少しで始業式が終わってアミや佐藤君達もくると思うよ」


 結構、寝ちゃってたんだ。

 皆には迷惑かけちゃったなぁ。

 後で謝らなくちゃ。


「サトリ君、今日転校してきた彼女と何かあったのかい?」


 彼女……。あぁ、あの人か。

 冷静になった頭で、色々と思いだす。

 そういえば、なんであの人はあんな事を考えていたんだろう。

 あの考えは、明らかに僕に向けてのものだった。

 でも、僕は彼女との面識がない。


「実は__」


 考えて返事が遅れるのも悪いので、この前の出来事と僕のトラウマについて玲さんに話した。


「……。そうか……」

「すみません。迷惑をかけて」

「いや、気にしないでいいんだよ」


 玲さん優しいな。


「サトリ君はもう少し休んでいればいいよ。私は少し席を外すけど、もうアミたちも来るはずかだら」

「わかりました」


 なんだか、このベットの硬さ、病院の頃を思い出すなぁ。

 こんなにアルコール臭くはなかったけど、匂いもどこか似ている気がする。

 そんな事を思いながら待っていると、保健室の扉が開く音がする。


「__サトリぃぃぃぃ!!!?」


 健斗が叫びながら僕のとこらまで来た。

 心臓飛び出るかと思った。


「健斗ちゃん~。サトリ君驚いちゃってるよぉ」

「サトリ君、大丈夫?」

「サトリさん!? 倒れたって聞きましたけど大丈夫ですか!?」


 わ、わぁ、大所帯だ。

 犬子ちゃんに猫子ちゃんまできたの。

 なんか嬉しいな……。


「大丈夫だよ。みんな、ありがとう」

「よがっだああああ!!!」


 健斗が抱き着いてきた。

 健斗の泣き声、初めて聞いたかもしれない。

 なんだか、新鮮でくすっと笑ってしまう。


「ちょっ、健斗さん!」

「健斗ちゃん~。だいた~ん」

「私もあとでしよ……」


 保健室で、こんなに騒がしくしちゃダメな気がするけど、なんだか嬉しくて止められない。

 数年前なら考えもしなかった光景だ。

 それも、嫌な光景じゃなくて、良い光景。

 僕も嬉しいって素直に思えるようになったよ。


 僕は抱き着いて泣く健斗の髪を撫でて、自分は疫病神じゃなくなったんだと思う。


「__ありがとう健斗……」

「さどりいいい」


 それにしても、少し泣きすぎだよ。

 僕は笑みを浮かべながらそう思った。

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