二学期(前編)
朝の六時、目覚ましが鳴り、それを止めて歯を磨いて朝ご飯を食べて学校に行く。
それが僕の一日の始まりだ。
「__やぁ、サトリ君。おはよう」
「なんで部屋に居るんですか……。玲さん」
気配を感じて、体を起こすと隣から玲さんの声が聞こえてきた。
なんで僕の部屋にいるんですか。
流石に不法侵入で訴えますよ。
「お、おっと、サトリ君はもしかして寝起きの機嫌が悪いタイプなのかな?」
「……早朝から、家に不法侵入されたら、誰だって怒ると思います」
それに、目覚ましが鳴っていないという事は、まだ六時前。
誰だって機嫌が悪くなる。
どうせ超能力とかで入って来たんだろうけど、僕はため息を抑えながら立ち上がる。
「それで、何か用事ですか?」
「いやぁ、君が目を開けられなくなってしまったと聞いてね。見に来てみた訳なんだけど……」
顔の辺りに視線を感じる。
「どうやら、本当だったみたいだね」
「はい……」
「出来れば、詳しい事情とかを聴きたいんだけれど、大丈夫かな?」
「……」
正直、あの時の事は思い出したくない。
あの女性の事を思い出すと、なんだかそれ以外の思い出したくないものまで思い出してしまうから。
僕が、事故の怪我で入院していた時の事を……。
「無理だったら、それでもいいよ。秘密が多いのは男の子の特権だからね」
優しい声で、そう言ってくれる玲さん。
玲さんが聞いてくるのも僕を自分の組織に入れたいからというの理由なんだろうけど、それだけじゃない。
玲さんの声からは善意を感じる。
きっと、本当に僕の事を心配してくれているんだろう。
だからこそ、罪悪感が出てくる。
「ごめんなさい……」
「あはは、謝らないでくれ。聞けないだろうとは思っていたからね。むしろ、朝早くに押しかけてすまなかったとこちらが謝るべきだろう」
「玲さん。そろそろ時間です」
っ!?
いきなり、聞こえてきた天美さんの声に驚く。
居たのね。
心臓飛び出すかと思った。
「あぁ、分かった。あっ、そうだサトリ君もう一つ言う事があったんだよ」
「なんですか?」
正直、天美さんの方が気になるけど、気にしちゃいけない雰囲気。
「今日からよろしくね__!」
「……え」
※ ※ ※ ※
長かった夏休みが終わって、二学期が始まる。
と言っても、僕は何回かテストを受けに学校に来ていた。
だから、久しぶりというほど久しぶりではない。
「おっ、サトリおはよ」
「健斗。うん、おはよう」
教室に入ると、すでに何人か来ていた。
今日は早起きさせられたから、早めに来たんだけど一番じゃなかった。
というか、健斗もみんなも、こんなに早くに来て何をするんだろう? いや、僕もだけど。
「皆早いね」
「ん、あぁ、そうねだな」
そうねだな? おかしな日本語を使う健斗の方を向きながら首を傾げた。
「わ、わ、俺は新学期で少しテンション上がって早めに来ちまった、わ」
わ?
「サトリこそ、早いねなぜ」
「健斗……。何か悪い物でも食べたの?」
「えっ、わた俺、おかしいな事言ってるかしらか?」
「うん、おかしな所だらけだと思うよ」
「__健斗ちゃんは女の子言葉を使おうとして失敗してるんだと思うよ」
「うわっひょ!?」
横からぬるっと話に入ってくる犬子ちゃん。
健斗は驚いて、変な声を出している。
僕は朝のいきなり天美さんドッキリの後だから、そんなに驚かない。
それにしても犬子ちゃんも来てたんだ。
それとも今来たのかな?
「おはよう。サトリ君、健斗ちゃん」
「うん、おはよう」
「犬子……ビックリさせんなよ……。はっ、びっくりさせないでよね」
「健斗ちゃん、前から全然上手くなってないね」
そうかぁ。健斗も女の子なんだし、いつまでも男の子言葉を使うのは嫌なのかな?
でも、それにしては無理している気がするけど。
「折角、練習手伝ったのに」
「練習……。あんまり無理して言葉遣いを変えなくてもいいんじゃない?」
それに、今の健斗と話していても落ち着かない。
女の子言葉の健斗はやっぱり、違和感がある。
「そ、そうか?」
「うん、健斗はそのままでもいいと思う。健斗がどうしても変わりたいなら止めないけど……」
「確かに、健斗ちゃんに女の子言葉は似合わないね」
でも、どうしていきなり言葉遣いを変えようとしてるのかな。
もしかして、好きな人が出来たとか!?
僕は、健斗にそれとなく聞いてみる。
次回で、二章は終わりです




