第34回PSIs会議
「それでは会議を始める」
とある会議室。
玲の一言で《第34回PSIs会議》が始まった。
円卓を十三人の女性が囲んでいる。
「アミ。今回の報告をよろしく」
「はい」
上座に座っている玲の隣に立っている天美が資料を手に取る。
天美の姿はいつもと違いスーツ姿だ。
「まず一つ目です。新たに、透視能力者と透明化能力者を発見しました。勧誘をしたところ条件付きで入ってもらえました」
「質問なんやけど」
「はい、廻さん」
黒髪に和装の女性が手をあげて質問をする。
「条件ってなんなん?」
「はい、まず透視能力者の方の条件は妹達の学費を援助して欲しいと。次に透明化能力者の方は今働いている会社を辞める協力をしてほしいと」
「んー、透視の方は分かるんやけど。会社を辞めるのを手伝ってって、どういう事なん?」
「はい、なんでも『私の会社、ブラック過ぎてやめさせてくれないんです。組織にでもなんにでも入りますから助けてください!』と、勧誘をしていた方に懇願したとか」
天美から理由を聞いた全員が苦笑いをする。
「次の報告に移りますね。先月報告したテロ組織を制圧しました。制圧に向かったのはボクと薄荷さんです」
「う、うわー。相手がかわいそうな組み合わせ」
赤髪でジャージ姿の女性が同情しながら言った。
赤髪ジャージの女性の言葉に周りの数人も頷く。
「こちらの被害は、薄荷さんの服が少し焦げてしまった事くらいで」
「それ、自分の火で燃えただけなんじゃないの?」
「はい、ですのでテロリストから新しい服を買うお金を巻き上げ……んんっ! 丁重に頂きました」
その場の全員がテロリストを憐れんだ。
幼い頃にテロにあっている天美はテロリストに容赦がない。
ここにいる者はその事を知っている為、口出しをすることはない。
「それでは他に質問が無ければ、次の報告を」
全員、何も質問をしない。
数秒待つと次報告にうつる。
「次は、『能力不明の能力者サトリ君』の事です」
サトリの名前が出ると数人が表情を硬いものに変える。
「ご存知の通り、サトリ君は我々よりも、もっと異質な能力者です」
「異質か……。資料を見る限り、一般的なテレパシー系能力者やけど」
和装の女性がそう言うと、周りの何人かも同意する。
「はい。確かに彼の一つの能力はあまり珍しくないテレパシー系能力です。他との違うと言えば、常時発動型で人の悪意を読み取りやすい所でしょう」
「あの……」
ピンク色の派手な髪色をしたスーツ姿の弱弱しい女性が手を挙げる。
その女性は、サトリと天美と健斗がファミレスに言った日に強盗に入った女性だった。
「前回の会議でサトリさんの能力は瞬間移動系の能力だと言ってませんでしたか……?」
「はい。私もそう思い、能力を借りたんですが彼の能力は『人の顔を見る事で心を読める』というテレパシー系能力でした」
天美は一度、サトリから能力を借りて発動していた。
瞬間移動系の能力だと思って発動した天美だったが、結果は心を読むという能力だった。
「しかし、夏葉さんの『能力を見分ける能力』はサトリ君の能力を瞬間移動系の一つ上の能力と言いました。つまり、彼は__」
「二つ、能力を所持しているって事なんか?」
「その通りです」
全員が息を吞んだ。
それは、この場の全員がそんな能力者の前例を知らないからだ。
天美は五つの能力を借りる事が出来るが、それは『能力を五つ借りる事が出来る』という一つの能力だ。
決して、複数の能力を所持している訳ではない。
「心を読む能力に瞬間移動系の上位互換の能力を持ってるって……。チートにも程がある」
赤髪の女性が周りの言いたいことを言った。
「だからこそ、異質だと言っているんだよ君達」
黙っていた玲が口を開く。
「夏葉君が写真を見ただけで、驚きを隠せない顔をしていたんだよ。最初から分かっていただろう? 彼の能力が我々の枠に当てはまらない事くらい」
「で、どうするん? サトリ君って子、自分の能力分かってへんのやろ。天美の能力でも借りれないんなら、分からんままやん」
玲はその質問を待ってましたと言いたげな顔をした。
「ふふ、誰がアミの能力が通用しなかったって言ったんだい? アミ、見せてあげな」
「はい」
天美がポケットから一枚の札を取り出す。
その札は真っ黒で、文字が書いていなかった。
「彼の能力が弱くなった時に借りたところ、成功しました」
「能力が弱くなったって、どんな状況で借りたん?」
「とある能力で、彼が幼児化した時、一緒に力も弱くなったので試しに借りたところ」
「あぁ、あいつの能力か」
赤髪の女性が納得し、頷いた。
その言動に隣に座っていた和装の女性が首を傾げた。
「その、幼児化能力の能力者知ってるん?」
「最近、うちに入って来た奴。もう一人、性別を変えるなんて奴も一緒に入って来た」
「ふーん、あんたんとこは相変わらずおかしな能力者が入るんやな」
周りに座っていた全員が思う。
あんたのところが一番おかしいよ、と。
「で、試したん?」
「いえ、これはサトリ君と一緒にやるべきと判断しました」
「彼の能力だからね。もしもの事があっても対処できるって事だよ。因みにその検証には私も参加するよ」
ガタッと全員の椅子が音を立てて動く。
その場の全員の顔は驚愕していた。
「あの、サボり魔のリーダー……いや、り~だ~が自分からめんどくさそうな事を!?」
赤髪の女性がそう言うと、周りも頷き同意する。
それを見て、玲は苦笑いをする。
自分の信頼なさすぎでは、と思うが普段の自分を思い返すと仕方ないとため息を吐いた。
「そんな頭の悪そうな呼び方しないでくれよ。これでも、リーダーなんだよ? それに、この件は私が適任だろう」
「いや、リーダーの能力なら問題はあまりないんだろうけど……。二人で大丈夫なの?」
赤髪の女性が言うと、玲はニヤリと笑う。
「あぁ、十分さ。私は君達のリーダーなんだからね。それに、私の《命令》は少しくらいの困難は打ち消せるからね」
自信満々に言った玲を見て、その場の全員が安心した顔をする。
それは、彼女が本気を出すと『能力を使う』と言ったからだ。
彼女は先程、自分が信頼されていないと思っていたが、この場にいる全員は彼女を信頼している。
特に、能力を使用すると言った時の彼女ほど頼りになり、信頼できる存在しないと思っている。
「今回の報告はこれだけです。皆さんからも報告はないようなので、第34回PSIs会議はこれで終了します」
「次回はいつ頃なん?」
「はい、次回は二週間後です。次ではサトリ君の能力を報告します」
「了解ー」
「それでは、皆さんご苦労様でした」
天美がそう言うと、全員が立ち上がり次々と会議室を出ていく。
残ったのは、赤髪の女性と和装の女性、玲と天美だけだった。
「それじゃ、うちも帰るわ」
和装の女性がポケットからメモ帳型の地図を取り出し、大阪のとある地域を指さす。
「廻、例の件よろしく頼むよ」
「あぁ、次回の会議までには間に合わせるで……。あんたこそ気を付けてな」
「あぁ、ありがとう」
和装の女性はその場から消える。
音もなく、一瞬で消えるという通常ならあり得ない光景だが、その場にいる全員は眉一つ動かさなかった。
「んじゃ、私も帰る。気を付けてねリーダー」
「あぁ、真異もありがとう」
「んにゃ」
赤髪の女性はいきなり猫になった。
しかし、玲も天美も驚きを見せない。
猫になった赤髪の女性はテクテクと歩いていき、会議室を出た。
「さて、私達も始めようか」
「はい」
20××年8月31日、十九時二十三分。
第34回PSIs会議が終了した。
因みに、天美さんが一度サトリ君から能力を借りたのは転校当日の屋上でご飯を食べていた時です。




