勉強会
僕が小さくなった日から一週間ほどが経った。
僕は今、自分の部屋のベットの上で本を読んでいる。
あの後、咲とあまり話せていない。
なんだか、咲にも避けられている気がする。
いや、一番の原因は僕なんだけど。
『犬子ちゃん様からメールです』
次のページに捲ろうとした瞬間、枕の横に置いてあった携帯が鳴った。
犬子ちゃんからのメールは初めてだ。
なんだろう?
僕は少し不思議に思いながら、携帯を取って来たメールを読む。
『お久しぶりです。今日は予定空いていますか?』
メールを送って数十秒で返信が来た。
早すぎる……。
それに、なんで敬語?
今日は、暇だし特にやることもないから空いているけど。
『それは良かった。久しぶりに遊びませんか?』
あ、遊びの招待。
天美さん以外から遊びに誘われるなんて初めてなんじゃないかな。
僕は、少し頬を綻ばせながら『いいよ』と送った。
『それじゃあ、バス停の前に一時集合で大丈夫ですか?』
今は十二時、少し急な気もするけど今から準備をして家を出れば丁度いいくらいだ。
『分かった』と返信する。
僕は早速準備をして家を出た。
準備にはニ十分ほどかかったが、バス停だったら丁度いいくらいだろう。
最近はずっと天美さんと二人で超能力の解明してたから、久しぶりに外に出る。
僕は必要ないけど、一応杖を持っていく。
ここ最近は本当に大変だった。
まさかの月の基地に飛ばされた時は、本当にどうしようかと思った。
数分で戻れたから良かったけど、飛行士の人達に宇宙人だって勘違いされちゃった。
「__あ、サトリ君」
バス停に着くと、先に犬子ちゃん達が着ていた。
時間はまだ十二時四十分くらいだ
「久しぶり、犬子ちゃん」
「うん、サトリ君。思ったより早かった」
「お姉ちゃーん。夏限定の梨味コーラ……。さ、サトリさん!? お久しぶりです!」
あ、猫子ちゃんはも来てたんだ。
バス停の待合所の中から出てきた猫子ちゃんは僕を見ると驚き頭を下げる。
そんなに驚かなくてもいいのに。
「うん、久しぶりだね」
「予定より早いけど、行こうか」
え、行くってどこに?
「サトリ君。ついて来て」
「どこに行くの?」
「うち……」
うちって、犬子ちゃん達の家って事?
※ ※ ※ ※
犬子ちゃん達の家はバス停の近くにあった。
この町には似合わない高層マンションの最上階。
あれ、もしかして犬子ちゃん達ってお金持ち?
「いらっしゃい」
「ど、どうぞ!」
犬子ちゃんが扉を開けて中に招いてくれる。
そういえば、犬子ちゃん達の家って凄いお金持ちだって前に言ってたね。
それにしても凄い。
玄関からわかる高級感。
「し、失礼します」
少し言葉が詰まってしまった。
でも、仕方ないだろう。
遊び目的で友人の家に来た事なんてないんだし。
「適当に座って」
「広いね」
リビングに案内されてソファーに座る。
うわ、ふかふか。
僕がソファーのふかふか感に軽く驚いていると犬子ちゃんが僕の隣に座る。
「サトリ君。サトリ君はエリートクラス五組の生徒だよね」
「……エリートクラスって」
確かに、間違ってないけど自分で言っちゃうんだ。
「そうだけど、犬子ちゃんもだよね」
「サトリ君。見てほしい物があるの。猫子!」
犬子ちゃんがパチンッと指を鳴らした。
何それ、カッコいい。
そんな事を思っていると猫子ちゃんが目の前の机にテスト用紙を数枚出した。
テスト用紙? なんで……えっ。
『数学《獣山犬子》16点』
じゅ、十六点。
あ、でも、それ以外の科目は全部九十点以上だ。
『数学《獣山猫子》28点』
『国語《獣山猫子》32点』
『物理《獣山猫子》18点』
ね、猫子ちゃん……。
他の科目も見てみるが全部四十点以下だ。
これは、流石に駄目だよ。
あ、でも、猫子ちゃんは、ほとんど学校来てないみたいだし仕方ないのかな。
自業自得だけど。
「数学以外の科目は何とかしたんだけど、数学だけが駄目で」
あ、テストに交じって何か……。
数学の課題? うわっ、ほとんど白紙。
いくつか書いてるけど、ほとんど間違ってる。
「このままだと姉妹揃って補修なので、助けてください」
「つまり、宿題の手伝いをしてって事?」
「その通りです」
「す、すみません! 私、バカですみません!」
いや、別にいいけど。
友達と勉強か、少し楽しそう。
勉強って一人でした事しかないし。
「いいよ。頑張って終わらせよう」
こうして、僕と犬子ちゃん達の勉強会が始まった。
まずは、僕が犬子ちゃんと猫子ちゃんの課題を見る。
あれ、猫子ちゃんのが簡単なのは分かるけど、犬子ちゃんの課題も簡単だ。
「これなら、夕方までに終わるね」
「ほ、本当ですか!」
「サトリ君、天才すぎ」
天才ってこのくらい勉強を少し頑張れば大丈夫だよ。
全部教えるのは宿題の意味がないから、ヒントを出しながら進めていく。
犬子ちゃんは覚え方が悪かっただけで、簡単な覚え方を教えたら結構すんなり解けるようになってきた。
猫子ちゃんは学校で勉強をしてなかっただけで、覚えが速い。
このままじゃ、犬子ちゃん抜かれるよ?
「__本当に終わった」
「コツが分かったら結構簡単でした!」
「お疲れ様」
僕は冷蔵庫に入っていた麦茶をコップに移して、犬子ちゃん達に渡した。
二人は勉強で疲れただろうし、このくらいはしなきゃね。
「あ、ありがとうございます」『お婿さんみたい……。えへへ』
「婿度高いねサトリ君。エプロン着てみる?」
婿度って何。
でも、エプロンか。
料理ってした事ないから少し興味あるかも。
「あ、私の部屋にお菓子あるので、持ってきますね!」
「お菓子……猫子隠してた?」
「お、お客さん用だよ!」『本当は一人でこっそり食べようとしてたんだけど』
猫子ちゃん、悪い子だ。
お菓子か、もう六時近いし食べたら帰ろう。
「ねぇ、サトリ君」
「ん、どうかした?」
時計から目を移し、犬子ちゃんを見る。
犬子ちゃんの顔をみると、顔には信じられない言葉が書いてあった。
『心が読めるってホント?』
「__なんで……」
あまりに唐突な事で、声が漏れてしまう。
「やっぱり、本当だったんだ……」
なんで、犬子ちゃんがその事を知ってるの。
そう聞こうとした時、
「お菓子持ってきましたー!」
猫子ちゃんが帰ってきて、聞けなかった。
「クッキーです!」
「美味しそう。やっぱり隠してたんだね猫子」
「お客さん用だよ!」
犬子ちゃんはまるで、先程までの事がなかったかのように振る舞う。
結局、そのあとは犬子ちゃんと二人になるタイミングがなくて、なぜ心を読めることを知っているのか聞くことができなかった。
僕が心を読めるのを確信した時、ほんの少しだけ犬子ちゃんは悲しそうな顔をしていた。
この時の僕は、まだその理由を知る由もない。
シリアスの香り。
ある種、この話が二章の区切り的な感じです。
この作品でサトリ君たちが住んでいる町は作者の住んでいる町をモデルにしています(いろいろ変えてる個所もありますが)




