超能力のバーゲンセール
「__結局その後は、女の子になってることも能力の事も気づかれなかったよ」
「結構危なかったんだね」
健斗達と遊んだ翌日、何とか女の子になっている事を隠し通した僕は能力を解除しにきた天美さんと向かい合わせで座っている。
天美さんに昨日の事を話していた。
バレなかったのは本当に奇跡だった。
流石に、お風呂にて咲と遭遇の時はバレたと思った。
今度からはお風呂の電気は付けておこう。
「さて、今日は四枚あるから早く終わらせようか」
天美さんがポケットからお札を取り出した。
よ、四枚。というか、今日もやるの。
「今日も、やるの?」
「あぁ、大丈夫! 今日はちゃんと能力を消す前準備してるから、昨日みたいに一日女の子になるなんてことはないよ__多分」
最後に不安の残る言葉を残した。
「僕、急用を思い出した」
僕は立ち上がり部屋を出ようとする。
だが、天美さんに足を掴まれてしまった。
「あはは~、ダメだよぉ。今日の予定はしっかり押さえているからねぇ」『ボク一人で超能力の処理とか絶対に嫌だ』
く、天美さんがおちゃらけ天美さんモードになってる。
というかサラッと聞き捨てならない言葉が聞こえたよ!
予定を押さえてるって何気に怖い!
「わ、分かった。やるよ」
「ごめんね。でも、一人でやるのは本当に危険なんだよ」『二人や三人なら対処出来るけど』
それにしても、四つは多い気がする。
「因みに、解明しないといけない超能力は後、三十くらいあるよ」
「……超能力のバーゲンセール」
頭にぱっと出てきた言葉を口に出した。
「それじゃ、ちゃちゃっと済ませよう__発動」
ノリが軽しぎる気がする。
天美さんの持ってい一枚のお札が光りだした。
光は数秒で収まり、僕は自分の体を触り何か変化がないか確かめる。
女の子にはなってないし、おかしい所はないかな。
「天美さん、何か起き……は、鼻血凄く出てるよ……!?」
昨日のお風呂場での咲ほどじゃないけど、少しだけ鼻血が出ている天美さん。
もしかして、鼻血を出させる超能力とかだったのかな。
「いは、これはふかほうちょふ。ほはほうりょくだからへ」『そう、これは不可抗力なんだ』
不可抗力? 何の話をしてるんだろう。
『前々から良い体つきだなぁとか思ってたけど、まさかここまでとは。腹筋割れてるのが凄く意外だプラス五十点。なんて、エッチな体つきなんだプラス百点』
天美さんの視線がどんどん下に下がっていく。
「ぶっ!!?」
「天美さん……っ!?」
天美さんが物凄い勢いで鼻血を吹き出し、倒れてしまう。
「さ、サトリ君。ボクは他の人と比べて鼻血が出にくいタイプなんだ」
「え、そ、そうなんだ」
今、そんな事を言ってる場合じゃない気がするんだけど。
「そんなボクでもここまでの鼻血……。サトリ君、それはもう兵器だよ」
「へ、兵器」
やっぱり、さっきの能力は無理やり鼻血を出させる能力。
と、取りあえず、天美さんの治療をしなきゃ。
でも、鼻血って何をすれば。
まずはティッシュを!
※ ※ ※ ※
十数分で天美さんの鼻血は収まった。
どうやら、能力の効果が切れたらしい。
本人は『もう少し長くても』と考えているが、なんでだろう。
「大丈夫?」
「あはは、このくらいどうってこともないよ」『帰ったらレバニラ食べよ』
完全に貧血気味の天美さんはポケットから一枚のお札を取り出す。
「それじゃ、__発動」
先程のようにお札が光りだし、数秒で収まる。
さて、次は何が……。
「さ、サトリ君……」
「何?」
天美さんが僕の頭を指さして驚いた顔をしている。
そう言えば、なんか頭に違和感が。
僕が頭を触ると、そこには明らかに『僕の頭にはなかったモフモフした物』が出来ていた。
「は、はい、サトリ君」
天美さんが携帯で僕の写真を撮り、その写真を僕に見せてくれた。
その写真に写っている僕の頭には犬のような耳がついていた。
「__可愛すぎでしょ」
犬耳になった効果か、普段なら聞き取れないくらいの小声でつぶやいた天美さんの声が聞こえた。
「あ、もふもふ」
試しに、耳に触ってみるとモフモフして気持ちいい。
でも、少しくすぐったい。
「ぼ、ボクも触っていいかい?」
「うん」
このあとめちゃくちゃもふった。
※ ※ ※ ※
その後、一時間くらいもふもふしてたら耳は消えてしまった。
まさか自分の耳をここまでいじり倒す日が来るとは思ってなかった。
「さて、じゃあ次__発動」
あと二枚、今までのは結構安全だし……いや、一枚目のは危険か。
でも、昨日みたいのはないから安心している。
「さて、何か変化はあるかな?」
僕は体を確認する。
さっきみたいに体の変化はないみたいだ。
僕は安心して、胸を撫で下ろした。
「んー、なにか起きているはず……。ねぇ、サトリ君」
「何、天美さん?」
天美さんが驚いた顔をして僕の座っている座布団を指さした。
僕が座布団を見ると、座布団に変化はない。
でも、そこで僕はおかしなことに気づいた。
「僕、浮いてる?」
「うん、本当に少しだけど浮いてるね」
え、えぇ……。
凄い、凄いんだけど、地味すぎる。
浮いている事自体は地味じゃないけど、浮いている長さが……。
「三ミリくらい浮いてる」
「ドラ〇もんかっ!!」
あ、ツッコミって初めてされたかも。
でも、不思議な感覚だ。
体が軽いとか、浮いている感覚がちっともない。
「あ、普通に立てる」
「もっと高く浮けないのかい?」
「うーん」
僕はその場でジャンプしてみる。
でも、三ミリ以上は受けない。
「ダメだね」
「まぁ、能力は使い方だし……。何かの役には立つか」
天美さんはため息をついた。
※ ※ ※ ※
さて、最後だ。
因みに、まだ浮いたままです。
「それじゃ、最後の能力行くよ__発動」
今回は先程までとは違い、お札が目を開けてられないほど発光する。
数秒して、目を開けると僕はおかしい事に気づいた。
目を開けた天美さんも僕を見て今まで以上に驚いた顔をしている。
「天美さん……僕」
「小さくなってるね」
さ、最後の最後に物凄いのが来た……。
僕の体は間違えなく、縮んでいる。
僕の部屋には鏡がないから確認はできないけど。
「はい」
天美さんが僕の写真を撮って、僕に見せる。
そこには可愛らしい幼稚園生くらいの男の子が……。
「サトリ君……、いやコトリ君」
「上手いこと言ったつもり?」
「少し目線貰っていい?」
目線? 僕は天美さんの方を向く。
すると、パシャというシャッター音が聞こえてきた。
あ、写真を撮られた。
「天美さん、戻してもらっていい?」
「写真撮ったし、もう少し見ていたいけど仕方ないね」
仕方なくはないよ。
目線がいきなり変わったせいかくらくらするし。
早く戻して。
「それじゃあ、戻すよ。『__能力除去能力符』」
天美さんの持っている札が、先程までの札とは違い塵になって消えていく。
でも、僕の体は戻らない……。
「……」
「……」
無言で見つめあう。
僕自分の座っている場所を見る。
あぁ、やっぱり。
「浮いてない」
「そっちかー」
……。
そっちかーじゃないよ!?
え、塵になったって事はもう使えないんだよね。
昨日みたいな直し方するにしても、一日隠し通すのは無理だよ。
無理無理だよ!
「ど、どうするの?」
「あぁ、コトリ君」
「何?」
それと、コトリ君じゃないよ。
「__僕の甥っ子になりなさい」
「……もしかして、天美さんふざけてる?」
僕はこの日、初めて女性にチョップしたくなった。
次回『コトリ君の一日』




