温泉編『最終日』
__なんでもいい。
難しい言葉だ。
なんでもいいとは言っても、なんでもいいわけではない。
『ある程度なら』なんでもいいという事なんだ。
でも、ある程度の程度なんて人によって違う。
「お兄ちゃんどこに行きたい? 最後だし、お兄ちゃんの行きたい所に行こっ!」
「そうね。私達はなんでもいいわよ」
ホテルのチェックアウトを終えて、ホテルのロビーで僕達は最後に何をするか話していた。
そして、僕の難しい言葉ランキング上位に入っている『なんでもいい』というお題を出されていた。
そもそも、最後に行く場所を僕が決めていいんだろうか。
咲とお母さんが優しい笑みで僕を見ている。
「……僕も、どこでもいい」
「「え……?」」
「その……」
恥ずかしがらずに言わなきゃ。
「思い出……たくさん作りたいから。どこでも行きたい」
「……天使か」『天使か』
「……男神か」『男神か』
二人が言っていることの意味が分からない。
「そうね。サトリの言う通り、色々な場所を回りましょう!」
「うんうん! お兄ちゃんの言う通りだよ!」
そうと決まれば、とお母さんがガイドブックを開いた。
僕と咲もお母さんの開いたガイドブックを覗き込む。
「まずはここね!」
「うん!」
「良いと思う」
なんでだろう。
最終日なのに、旅行が始まった気がする。
※ ※ ※
時刻はもう午後四時ごろになっている。
新幹線の出発時間が七時だから、そろそろ最後だ。
「むぐむぐ、最後だし、むぐ、何か食べる?」
「あんた、現在進行形で温泉饅頭食べてるじゃない」
「美味しい」
僕達は色々な場所を回った。
温泉卵を食べたり、温泉まんじゅうを食べたり、温泉蒸かし芋を食べたり……食べてばっかりだ。
今は川沿いの道を温泉まんじゅう片手に歩いている。
「でも、お母さんもまだ食べれるでしょ?」
「まぁ、確かに食べれるけど。サトリは男の子だし、もうお腹いっぱいなんじゃ……」
「まだ、食べれる」
僕はいつも食べてる量は少ないけど、たくさん食べれようと思えば食べれる。
むしろ、食べたい。
「そ、そう」『サトリって意外に大食漢なのかしら』
「お兄ちゃん、何か食べたいものある?」
「食べたいもの……」
温泉といえば、なんだろう。
草津といえば、何が美味しいのかな。
僕が考えていると携帯にメールが来る。
__すこやか亭っていう回転寿しがオススメだよ。
メールを開くと天美さんからのメールだった。
メールには地図とバスのルートが同封されていた。
「すこやか亭……。あ、人気のお店みたいだよ! ガイドブックにも乗ってる!」
「あら、本当ね」
お寿司か……。
僕、食べたことない。
「食べてみたい……」
口からこぼれ出てしまった。
「決定だね」
「決定ね」
※ ※ ※
というわけで、僕たちはすこやか亭に来た。
店の前に行くと、さすがガイドブックに載っているお店と言うべきか、長蛇の列ができていた。
最後尾には看板が立てられていて『一時間半待ち』とかいてある。
「う、うひゃー。これはすごいね」
「そうね……。新幹線の時間を考えたら並べないわ」『サトリ……ごめんね』
お母さん……。
謝らないで。
「大丈夫……。また__」
「お客様。三名様でご予約いただいていた三河様でしょうか?」
「え……」
行列を眺めている僕たちにすこやか亭の定員さんが近づき言ってきた。
僕たちは予約どころか、さっきこのお店を知ったばかりなんだけど。
「確かにうちは三河ですが」『予約なんてしてないはずよね』
「やはりそうでしたか。それでは店内にどうぞ」
僕たちは店員さんに案内されるまま中に入る。
「では、ごゆっくり」
店員さんは僕たちを席につけるとどこかに行ってしまう。
僕たちは何が起きてるのか理解できずに少しの間沈黙してしまう。
すると、僕の携帯にメールくが来る。
__あ、しっかり予約しといたから安心してね。
メールは天美さんからだった。
予約入れてくれたの、天美さんだったんだ。
僕は咲たちにもメールを見せる。
「天美ちゃんって、昨日サトリと一緒に迷子になった子よね」
「あの人、気の利く人だったんだ……」
僕と天美さんは、昨日二人で迷子になっていた。という事になっている。
天美さんがお母さん達の記憶を少しだけ変えたらしい。
体に害はないのかな……。と思ったけどないらしいし、記憶を変えるといっても少ししか変えれないらしい。
まぁ、少しでも記憶を変えるなんてすごいけど。
「まぁ、その子のおかげで入れたわけだし。食べましょうか」
「うん!」
「うん」
回転寿し、聞いたことはあったけど本当にお寿司が回転してる。
あ、お皿によって値段を分けてるのか。
う、高いお皿だとそんなにするのか……。
「僕、これで」
僕は一番安い緑色の皿を取った。
テーブルに置いてあるメニューを見るとこれは河童巻きというお寿司らしい。
かっぱ……、この緑色のやつ河童って名前なのか。
初めて聞く名前の食べ物だ。
「美味しい!!」
咲が白い身のお寿司を食べた。
なるほど、この黒いのにつけて食べるのか。
「いただきます」
僕は黒い液体に緑色の河童をつけて口に放り込む。
シャキシャキという歯ごたえとご飯のモチモチとした食感。
黒いのは醤油だったみたいだ。
ご飯はお酢を混ぜてるのかな?
緑色の河童はキュウリにそっくりだ。
「河童、美味しい……」
初めての食感と味に舌鼓を打ち、僕の頬は緩んでいく。
「……」『かわいい』
「……」『撮っとかなきゃ』
咲達の方からカメラのシャッター音が聞こえてきた。
「どうしたの?」
「え、いや! なんでもないわよ!」『見惚れてたなんて言えない』
「うん、お寿司美味しいから写真撮っとこうと思って!」『か、カメラ仕舞わなきゃ』
確かに、記念の写真を撮りたいくらい美味しい。
「ほら、サトリ! 中トロ、美味しいわよ!」
お母さんが回ってくる皿を一つ手に取り僕の前に置いた。
皿の色は銀、このお店で二番目に高い皿だ……。
「た、高いから、いいよ」
「遠慮しないの! せっかくの旅行なんだから!」
「そうだよお兄ちゃん! すみませんー、ウニとイクラ追加お願いしますー」
咲がお寿司を握っている人に言うと「はいよー」とお寿司を握ってる人は返事をした。
ここ、普通に注文する事も出来るんだ。
「咲、あんたは少し自重して」
「おいひいものはたべにとそん」『美味しいものは食べないと損』
咲のテーブルにはすでに10枚近くの皿が積んであった。
そして、その皿のほとんどが金か銀の皿だ。
「はぁ……。まぁいいわ。サトリも遠慮せずに食べてね」
「う、うん」
流石に咲ほど遠慮なくはいけないけど。
僕は前に置かれた銀の皿に乗っている赤身のお寿司を箸で掴んで醤油につけ、口に入れた。
「っ!」
すると、不思議なことに身が口の中で消えてしまう。
いや、溶けてしまった。
溶けた身がご飯に絡まる。
「お……美味しい……」
まるで、体に電流が走った様だった。
旨味の暴力を受けているような、そんな気すらした。
さすが銀の皿、レベルが違う。
「……ほらっ! サトリもっと食べていいわよ」『男神すぎる』
「今来た私のウニとイクラもあげる!」『天使すぎる』
僕の前にいくつもの金と銀の皿が置かれる。
さっきまで遠慮していた僕だったが、美味しさには勝てずにどんどん食べていく。
結局、僕は一人で金の皿9枚、銀の皿13枚を食べてしまった。
※ ※ ※
「__お会計、一万八千円になります」
うっ、耳が痛くなる金額だ。
それも、ほとんど僕の料金だろう。
「ご、ごめんなさい……。沢山食べて……」
「いいのよ。気にしなくて」『サトリのプライスレスな笑顔が見れたしね。むしろ安いわ』
お母さんは微笑みんがら僕を見た。
※ ※ ※
それから、僕たちは新幹線まで向かい。
新幹線に乗って、帰る。
初めての旅行。
初めての体験や経験が沢山あったし。
僕以外の超能力者が沢山いることも分かった。
少し、疲れたけど楽しい旅行だっただろう。
最後は思い出もたくさん作れたし、また来たいな。
「また来ようねお兄ちゃん!」
「そうね。次はもう少し長くてもいいかも。ふふ」
「うん」
こうして、初めての旅行は、良い思い出として終わった。
次回から『超能力解明編』が始まります!
あぁ、ずっと書きたかったからウズウズが止まりません!
楽しみすぎてヤバい(小並感)




