温泉編『試験』
天美さんに連れ去られてしまった。
訳が分からない。
「ねぇ、天美さん」
「……、なんだい?」
「ここどこ?」
僕はさっきまで温泉街に居たはずなのに、気が付いたら無音の空間に居る。
さっきまで聞こえていた騒がしい人々の声や川の音が消えている。
それどころか、無音。
聞こえてくるのは__天美さんと僕の呼吸音と心音だけだ。
それに、声の響き方からしてそんなに広くない部屋だろう。
数日前にこんな夢見たなぁと僕は若干のデジャブを感じていた。
「__さぁ、ごめんねサトリ君。僕にも分からないんだ」
「えぇ……」
天美さんの心音は一定のリズムを刻んでいる。
つまり、嘘をついていないって事だ。
「僕、天美さんに連れ去られたんだよね」
「そうだね。でも、本当に知らないんだよ」
__ザザザ……。とラジオのノイズ音のような音が聞こえる。
『あーあー、マイテスマイテス』
天井の方から加工された声が聞こえてくる。
『やぁ、初めましてサトリ君。私の名前はゼロ』
「そんな安直な……」
天美さんがボソッと呟いたのが聞こえてきた。
『君たち二人を閉じ込めた張本人だ』
あれ、僕を閉じ込めたのって天美さんじゃないの?
『__ふふふ、驚いているね』
全然。
『無理もない。そこはほぼ密室! これで恐怖しない者はいないだろう』
「僕たちをどうするつもり何ですか?」
『ふふふ、良い質問だ小娘。このままそこを出れなければ貴様らの全身は__真っ赤に染まるだろう!!』
全身真っ赤って、血まみれって事?
なんでだろう、普通なら焦る場面なのに全然恐怖を感じない。
まるでサスペンス物のラジオドラマを聞いてる気分だ。
他人事、というか自分が警戒するまでもないという感覚。
『それでは、頑張ってくれたまえ!!』
ブツンと音声が切れる。
「……。どうするサトリ君?」
どうするも何も……。
あれ、そう言えば
「天美さん。口調が」
「ん、あぁ、もうあのアホ口調はしなくていいからね。これが僕の普通の口調だよ」
「そうなんだ」
うん、こっちの方がいい気がする。
「__で、サトリ君はどうすればいいと思う?」
「天美さん、周りに扉ある?」
「うーん、見た感じないね」
ドアは無し。
でも、それじゃあ、僕たちが入って来れない。
つまり、ドアは隠されてる。
それか、ドア以外のドアの代わりになる何かがある。
「あ、天美さん。通気口ある?」
「あぁ、あるよ。天井に__人一人くらいなら余裕で通れそうだね」
よし、誘拐犯の言ってた『ほぼ密室』ってこいう事なのか。
なんで、わざわざヒントをだしたんだろう。
それに、最後に『頑張って』って、何に対しての頑張ってなのかな。
「じゃあ、通気口から出よう」
「うん。分かった」
あっさりだけど、早く出れるなら出た方がいいだろう。
お母さん達も心配……多分してくれてるだろうし。
「でも、結構高いよ。三メートルくらいかな、梯子もないし」
「天美さん。僕の肩使って先に登って」
「え……」
「天美さんは目が見えるから、先に登って僕を引き上げて」
「あ、なるほど」
僕は両膝を地面につける。
天美さんが遠慮気味に肩に乗る。
う、流石に少し重い……でも、これなら大丈夫だ。
「__登れたよ。サトリ君」
「じゃあ、ジャンプするから手掴んで引き上げて」
「分かったよ」
僕は天美さんの声のする方に跳躍する。
僕の手はがっしりと天美さんに捕まれ、引き上げられる。
通気口の中をしばらく進んで行くと、天美さんが出口があると知らせてくれた。
「サトリ君、おめでとう」
僕が天美さんに続いて外に出ようとすると天美さんが言った。
『おめでとう』どういう意味だろう……?
すみません。
前にした次回予告嘘です。
許してください。なんでもしますから。




