ゲームセンター
__校門で待っていた健斗と合流し、僕と健斗は一緒に帰宅している。
「それにしても時間かかったな。何かあったのか?」
「あー、うん、色々あった」
色々といっても男子演劇部に勧誘されていただけなんだけどね。
「あっ、サトリ俺今からゲーセン行こうと思ってたんだけど一緒に行かないか?」
「ゲーセン、なにそれ」
僕は聞いたことのないゲーセンという単語に頭を傾ける。
「……サトリ、ゲーセンも知らないのか?」
「うん、聞いたことない」
行こうぜ。ということは何かの施設、恐らく娯楽施設だってことは予想できるけど僕の知っている娯楽施設は温泉と図書館だけだ。
最近の図書館は便利で点字の本も沢山置いてある。
「ゲーセンってのはゲームセンターの事で、そうだな簡単に言えばいろんなゲームが置いてある究極の娯楽施設だな」
「究極の娯楽施設?」
娯楽施設という予想は当たっていたようだ。
「まだ明るいし少しだけ遊んで行かねえか?」
「……少しだけなら」
「よっしゃ! じゃあ行こうぜ」
「あ、その前に少し待ってて」
「ん?」
僕は鞄から携帯電話を取り出す。
「行く前にお母さんに連絡しなくちゃだから」
「……サトリ、携帯持ってたんだな」
「え、うん、もしもの時に便利だから」
とはいうもののさっきまで携帯の存在をすっかり忘れていたけどね。
「って、スマホ!? サトリ、お前目が見えないのに使えるのかよ?」
「うん」
僕は携帯のホームボタンを押す。
『5時20分』
「うわっ、携帯が喋った!?」
「これ、盲目者用に色々アプリが入ってるの」
「ほへー」と健斗は感心したような声を出す。
目が見えないのは不便なことだができないことが全くないわけではない。
「電話」
『どちらにお掛けしますか?』
「母」
僕がそう言うとプルルルルと携帯が自動で母に電話を掛ける。
母に掛かったのを確認すると僕は携帯を耳に当てる。
「便利だな」
「うん、あんまり使わないけどね」
携帯自体を取り出したのも数ヶ月ぶりな気がする。
そんなことを思っているとガチャと発信音が止まる。
『さ、サトリ! どうかしたの!?』
電話に出たのは当然母だった。
しかし、母はなぜか動揺したような声を出している。
「今日、帰り少し遅くなるから言っておこうと思って」
『あ、あぁ、そんな事ね。お母さんてっきり何か起きたのかと思ったわ』
「なんで?」
『なんでって、いつも電話なんてしないじゃない。お母さんびっくりして仕事ほっぽりだして出ちゃったわ』
あ、そういえばお母さんまだ会社にいる時間だった。
悪いことしちゃったなぁ。
「仕事中にごめん」
『あ、いや、いいのよ! サトリから電話が来たら大事な会議中でも出ちゃうから!』
嬉しいけど、それはダメだと思う。
「暗くなる前には帰るから」
『えぇ、分かったわ。それにしてもサトリが帰り遅くなるなんて珍しいわね。何にかあったの?』
「友達とゲームセンターって所に行ってくるの」
『……ねぇ、サトリ』
電話越しだが母の声色が変わった事が分かった。
なんだか、声のトーン二つぐらい下がった気がする。
『その、お友達に変わってもらっていいかしら?』
「? ちょっと、待ってて」
僕は携帯を耳から離す。
「ねぇ、健斗」
「お、話し終わったか?」
「違う、少し電話変わってもらっていい?」
「ん?」
僕は健斗の声のする方に携帯を向ける。
すると、僕の手から携帯が取られる。
「はい、変わりました……。えっと、サトリの友人の佐藤健斗です……。はい、そうです……。あ、大丈夫です……。はい、ちゃんと暗くなる前までには……。はい、分かりました……」
何を話しているのか凄く気になる。
僕は耳が良いと自負している。
しかし、声からして一メートル近く離れている状態で電話から漏れる音を聞き取るのは不可能だ。
「ほら、終わったぞ」
「あ、うん」
僕はそう言って健斗の声のする方に手を向けると手の上に携帯が置かれる。
手の上に置かれた携帯を再び自分の耳に当てる。
「もしもし」
『あ、話は分かったわ。健斗君にも言ったけど、くれぐれも遅くなりすぎないようにね』
「分かった。仕事中にごめんね」
『ふふ、大丈夫よ。それじゃあ、流石に戻らなきゃだから』
「うん」
僕がそう言うと電話が切られた。
今度からこの時間はメールにしようと僕は決める。
「お、今度は本当に終わったみたいだな」
「うん」
「じゃ、行くか!」
「おー」
僕は健斗に案内されるまま健斗のそばを歩く。
基本的に僕は学校から自宅までの道以外を知らない。
あっても近くのコンビニまで買い物に行くくらいだ。
「__ここだ!」
「……なんだか騒がしいね」
自動ドアが開いた瞬間、物凄い騒音が僕の耳を攻撃してきた。
一つ一つの音がでかすぎて一体どこから何の音がしているのかが分からない。
「まぁ、ゲーセンだからな。このうるささも醍醐味みたいなもんだ」
「へぇ」
「よし、まずは何する?」
何するも何も、僕はゲームセンター自体初めてなんだから何があるのかが分からない。
「あ、ねぇ健斗」
「お、どうした?」
「手、握ってもいい?」
僕がそう言うと健斗が黙ってしまう。
なんだかポタポタと何かが滴る音が聞こえたきた。
「なっ、い、いきなりどうした! そんなフラグ立てたっけか!?」
「フラグを立てたかどうかは知らないけどここ初めての場所だし音も大きいから少し不安で……」
僕は始めてくる場所が苦手だ。
道路などには盲目者のために視覚障害者誘導用ブロックというのがあるから大丈夫だけど、こう言った施設内になると十中八九転ぶ。
そして、転ぶと凄く痛いし恥ずかしい。
「ダメかな?」
「天使……サトリマジ天使」
「え?」
「あっ、なんでもない! 手、手だな、そのくらいどうって事ないさ!!」
健斗は誤魔化すようにそう言った。
僕は天使ってなんのことだろうと首を傾げる。
「ほ、ほら、手を出せよ」
「あ、うん」
僕は手を健斗の方に差し出す。
健斗は僕の差し出した手を握る。
「健斗の手って意外に柔らかいね。それにスベスベ」
健斗の手はスベスベでプニプニ、強く握れば潰れてしまうんじゃないだろうかというほど華奢な手だった。
「そ、そうか?」
「うん」
「そ、そういうサトリの手はやっぱり男だな。ガッチリとしている」
自分では分からないが確かに健斗に比べれば僕の手はガッチリしているだろう。
「__っしゃー!! これで100連勝!! 誰も私を止められないぜヒーヤッ!!!!」
僕は雄叫びのような声に一瞬体をビクッとさせた。
「今の何?」
「あぁ、今のは格ゲーコーナーからだな」
「格ゲー?」
「格闘ゲームの略だ。簡単に言ったらバーチャルのキャラ同士で格闘して敵をぶっ倒すゲームだな」
そんな物騒なゲームもあるのか。
僕は絶対できないよ。
「サトリは目が見えないし目が見えなくても遊べるゲームをしようぜ」
「うん、僕もそうしてもらえると助かる」
できれば格闘ゲーム以外がいいな。
「つっても、目が見えなくてもできるゲームかぁ……」
健斗は悩んでいるのか少しの間黙ってしまう。
「あっ! いいのがあった!」
しばらく黙っていると健斗は何かを思い出したかのように声を出す。
僕は健斗の言う「いいの」というものがよく分からず首を傾げた。
健斗に連れられるまま先ほどよりは少しだけ騒音の少ない所に来た。
「__パンチングマシーン」
「パンチングマシーン?」
僕が首を傾げると健斗は僕の手を少し動かしソファーより少し硬いものに僕の手を当てる。
「このゲームのルールは簡単、今サトリが触っているこれを思いっきりぶん殴るだけだ。したらパンチ力が出て、この店だとパンチ力が強ければ景品がもらえる」
「……なるほど」
なんだか、ゲームセンターって物騒なものしかないんだなぁ。
「試しに俺がやってみるぜ」
『__GAME START__』
ゲームスタートの合図とともにゴングの音がなる。
「オラァッ!!!」
バゴッと衝撃音の様なものが聞こえる。
思ったよりすごい音に僕は一歩後ろに下がる。
『__ドルルルルル。ババン! 270キロ!! 今月一のスコアだぜ!!__』
「よっしゃ!」
今月一って、健斗そんなに力あったんだなぁ。
「ほら、サトリもやってみろよ」
「う、うん」
僕は再度殴る場所を確認する。
「よしっ」
『__GAME START__』
僕はゴングが鳴った瞬間、全体重をかけ全力でパンチする。
パンチングマシーンを殴るとパンチングマシーンは後ろにパタリと倒れる。
『__ドルルルルル。ババン! 210キロ!! 今月二位のスコアだぜ!!__』
自分でも驚くほど綺麗に決まり、パンチ力もかなり高かった。
僕は小さくガッツポーズをする。
「……さ、サトリ、意外に力あるんだな」
「やった」
「嘘だろ」と健斗は驚いた声を出す。
確かに僕はひ弱に見えるかもしれないがこれでも自宅でできる筋トレとかはしている。
腕立てや腹筋にスクワット、正直鍛えてない人よりは力がある自信はある。
「__ブイ」
僕は健斗の方を向いてピースをする。
健斗は「に、にしし」とどこか引きつった笑い声を出す。
次回「お風呂」