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温泉編『初日(後編)』

 健斗たちと別れて、僕たちも部屋に向かう。

 雰囲気でわかるけど、このホテルすごく良いホテルだ。

 改めて天美さんにお礼を言わないとね。


「サトリは7011号室で私と咲は隣の7012号室だから、荷物を置いたら一回私たちの部屋に集合しましょう」

「え、部屋違うの……?」


 てっきり、同じ部屋だと思ってた。

 でも、いくら息子とは言っても義理だし、咲は年頃の女の子。

 一緒の部屋でなんてありえないか。


「え、その反応、もしかしてお兄ちゃん。同じ部屋でも良かったの?」

「というか……一緒が良かったかも」

「ウグッ!!?」

「さひ、おひふきなはい。はなぢでへるわよ」


 え、お母さん何て言ったの。

 すごい鼻声で何を言ってるのかわからない。


「お母さんこそ、鼻血出すぎて何言ってるかわからないよ」

「あら、さいひんヴーッ!! 鼻が緩んでいけないわ」


 は、鼻が緩むって何?

 涙腺とかじゃなくて、鼻? 鼻線?


「お母さん。お兄ちゃん同じ部屋でいいんじゃない?」

「ダメよ。ケダモノ達の洞窟にA5ランクのお肉を投げ入れるなんて、できないわ」

「自分をケダモノって……」

「とにかく、私達とサトリの部屋は分けるべき。サトリも、それでいい?」

「うん。仕方ない」


 僕も今年で17歳だし、いつまでもお母さんたちと一緒に寝たい何て言ってちゃダメだ!

 ……今まで一回も一緒に寝たことないけど。


「それじゃあ、一回部屋に荷物を置いて来ましょう」

「うん。すぐに行く」


 お母さんと咲の二人と別れて、僕は自分の部屋に入る。

 さっき、気づいたことだけどこのホテル、至る所に点字があり盲目者の僕としてはすごく便利だ。

 だって、ドアノブに『ドアノブ』って点字が入ってるくらいだ。

 部屋に入ると僕は手探りで部屋を歩く。

 壁に手をついて歩いていると壁に点字が書いてあることに気づく。


「? なんでこんなところに点字が……」


 僕は指でなぞって点字を読む。

 点字は『この部屋にはベットが一つ、テレビが一つ、冷蔵庫が一つあります。足元につまづく物はないので安心してください』と書いてあった。

 な、なに事のホテル、親切すぎるよ。

 その後にも点字は続いており、内容は部屋の細かな説明だった。

 おかげで僕はこの部屋のどこに何があるかが大体把握できた。


 部屋の確認が終わると、僕はベットの上に荷物を置いて部屋を出た。

 お母さんたちのいる部屋の前に行き、ノックをすると勢い良く扉が開けられ、なぜかお母さんと咲の二人が出てきた。


「サトリも来たことだし。これからどうするか決めましょうか」


 明日は温泉街を歩いたりしながら、お店を色々回ると決めているけど今日の予定は決めていない。

 今の時刻がちょうど6時頃だから、夜ご飯にも少し早い気がする。

 うちの夜ご飯は基本7時からだし。


「はいはーい! 折角だし、温泉入りたい!」

「そうね。それなら夕食の時間にちょうどいいかも」

「お兄ちゃんは?」

「僕も、温泉でいいよ」


 満場一致と、いうことで僕達はホテルの一階にある温泉までやってきた。

 来た時はほとんど寝てて気づかなかったけど、温泉のいい香りがする。

 温泉なんて入るの2回目だよ。

 確か、一回目の時は……あれ、一回目っていつだっけ?

 温泉に来るのが二回目なのは確かだけど、一回目がいつだったか思い出せない。

 つまり一回目に来たのは『事故』の前だろう。


「こ、混浴……ゴクリ」

「へー、混浴なんてあるのね。あ、さすがに水着を着用しないとダメみたいよ。あそこで貸し出してるわ」

「温泉プールって感じだね」

「お風呂で泳いじゃダメ」

「あ、確かに」


 混浴って、男性と女性が一緒にお風呂に入るって事だよね。

 本当にあるんだ。


「お兄ちゃん、よかったら一緒に入る? なんちゃ__」

「いいよ。水着だし」

「「……え?」」


 お母さんと咲の声が綺麗に被る。

 今気づいたけど、お母さんと咲の声って似てる。

 重なったらエコーがかかったみたい。



 そのまま僕たちは混浴に入ることになり、僕はホテルの従業員さんに水着を着るのを手伝ってもらった。

 混浴とは言っても着替える場所は男女別々だった。

 僕は従業員さんに手を引かれお風呂場に入る。


「お、おおお、お兄ちゃん。本当に、混浴で良かったの?」

「うん。もしかして、咲は嫌だった……?」

「いやいや!! むしろご褒美です!!」


 ご、ご褒美ってなんのこと?

 あ、そういえばお母さんはどこにいるんだろう。


「お母さんは?」

「……お兄ちゃんの水着姿を見てノックアウトされた」

「ミズギ、ハカイリョク、スゴイ」

「し、下?」


 下からお母さんの声がした。

 なんで下から声がするの? それに位置的にほとんど地面と同じ位置だ。

 も、もしかして倒れたの!?


「大丈夫。お母さん?」

「だ、大丈夫よ。私、咲ほどサトリ耐性ないから、少し強烈すぎただけ」

「……」


 な、何を言ってるかさっぱりわかんない。


「お兄ちゃん。体洗って早く温泉入ろっ!」

「うん」


 僕は咲に案内してもらいシャワーのある場所まで来た。

 咲やお母さんが背中を流してくれると言ったけど、さすがに遠慮しておいた。

 体を洗い終わると温泉に浸かる。


「うへぇー、気持ちいぃ〜」

「おばさんみたいな声ね」

「む、ピチピチの女子高生に向かって失礼な」


 温泉……気持ちよすぎるでしょ。

 なんていうか、無駄な力が抜けて完全にリラックスできてる。

 僕、多分アホみたいな顔になってるかも、気持ちよくて口が閉じない。


「お兄ちゃん。その顔、もしかして誘ってブッ!!?」

「咲、サトリにセクハラしないの」

「イッタァ!」


 そういえば、今思ったけどこのホテルに入ってから健斗達以外の声を聞いてない。


「そういえば、ここに来てからほとんど誰にも会ってないわね」

「いいじゃん。貸切みたいだし〜」

「まぁ、確かにそうかもね」


 お母さん達も同じことを思っていたみたいだ。

 なんていうか、僕たちのためにあるホテルみたいだ。

 そんなことはあり得ないだろうけど。


「それにしても気持ちいいわね。仕事の疲れが溶け出てるみたい」

「私も、部活の疲れが消えてくよ」


 咲もお母さんも気持ちよさそうだ。

 あとで天美さんにお礼を言っておかないと。


『ぬ、健斗! 拙者より胸があるではないか!』

『なっ、てめぇ! どこ触っキャッ!?』

『あひゃひゃ!! いいぞぉもっとやれぇい!』

『お、お袋っ海斗姉さん! 覚えてやがれ!』

『女同士のイチャつきとか需要なさすぎです』


 隣から健斗たちの声が聞こえてきた。

 ってことは隣が女風呂なのかな?


「あっちも、楽しんでるみたいね」

「今更だけど、健斗さんの家って変わってるよね」

「そうね。みんな格好は女らしいけど喋り方が男っぽいっていうか……」


 そういえば、健斗から詳しい話を聞いたことないけどなんで健斗の家って男の人の口調で喋ってるんだろう。

 今度会った時聞いてみよう。

 その後、しばらく温泉につかり、僕達は温泉を出た。

 温泉を上がると、ちょうど7時頃で夕食を食べようとホテルの屋上にあるレストランに行くと、そこも貸切状態だった。

 本当に僕達以外泊まってないのかな?

「さひ、おひふきなはい。はなぢでへるわよ」

訳→「咲、落ち着きなさい。鼻血出てるわよ」


この世界の女性は鼻がユルユルです。


本当はサトリ君が一人で男子風呂に入って隣の女子風呂に入ってる咲たちの「おっぱいでけー!」的な声を聞いて照れる話にするつもりだったんですが、ある時天からのお告げで「水着はいいぞ〜」と来たので水着回にしました。

健斗は出ませんでしたが、健斗は日焼け跡のおかげで水着とか着るとスーパーエロスだと思ってます。

さしものサトリ君も鼻血は免れないでしょう。

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