温泉編『初日(中編)』
「いつもうちの健斗がお世話になってるみたいで、ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。『少し悔しいですが』健斗君と遊ぶようになってサトリも明るくなってくれた気がします」
「ははは、正直な人ですね。女の嫉妬は醜いですよ?」
「それだけサトリの事を大切に思っているんです。だから……半端な気持ちで取りに来たら承知しませんと娘さんに伝えててくれますか」
な、なんでこんな殺伐とした感じなの!?
もしかして、咲と一緒でお母さんも健斗達との相性悪い!?
それに、僕を取るとか大切に思ってるとか、何の話をしてるの!?
「なんで、おふくろとサトリのお母さんがピリピリした雰囲気になってるんだ? めっちゃ怖いんだけど」
「分かんない」
健斗とは一回電話で話した事あるけど、健斗のお母さんとお母さんが会うのは初めてのはずだし。
「まま、母上。そんなにつんけんする事もないでしょう。」
健斗の妹の宗谷ちゃんが止めに入ってくれた。
良かった。このまま殺伐とした雰囲気じゃ温泉を楽しめない。
「どうせサトリ君はうちに来るんですし」
笑みを含んだ声で宗谷ちゃんが言った。
って、何言ってるの!?
うちに来るってどういう事!?
「あっのバカ……ッ!!」
健斗が横で小さく言った。
「お兄ちゃんは、絶対に渡さないわよ」
「それを決めるのはサトリ君でしょう。うちの健斗は手強いですよ」
「そうですね。でも、渡す気はさらさらありませんから」
「りょ、両者、落ち着くでござる! こんな事は不毛、むしろマイナスにしかならないでござる。ほら、サトリ殿もあんなに窮しておる!」
健斗のお姉さんの、名前は確か海斗さんが止めてくれた。
さっきの宗谷君とは違って本当に止めてくれている。
「ん、海斗の言う通りだな。すみませんでした。少し熱くなってしまった」
「……いえ、こちらこそ申し訳なかったです」
良かった。
収まってくれた。
「ほら、チェックインも終わったし、荷物を下ろしに部屋にいくでござるよ」
「了解。ほら、健斗も行くぞ。サトリ君のとは後で話せばいい」
「あ、おう。サトリ、またな」
「うん」
海斗さんには後でお礼を言っておかないと。
それにしても、なんで健斗達とお母さん達って相性悪いんだろう。
僕の事で揉めてたみたい……僕を取り合ってるとか?
……。
いやいや! それはない!
何考えてるんだろう。
きっと、大人にしか分からない何かがあるんだろう。
「先程は拙者の母がご無礼つかまつった。うちにも色々ありまして、どうか健斗とサトリ殿の仲を裂くようなことだけは!」
「……えぇ、大丈夫よ。そんな事はしないわ」
「それは良かったでござる」
「海斗ー。置いてくぞー?」
「あっ、それでは! どろん!」
海斗さんの足音が離れていく。
喋り方は凄く変だけど、いい人だ。
喋り方は変だけど。
サービス回はないと言いましたね。あれは嘘だ(コマンドー風)
と、いうわけで次回はサービス回です。
それと、次回は結構長めになると思いますので、今回短めにさせてもらいました。




