お礼
__ジリリリリリ!!! ガチャ……
「変な夢見た……」
僕は額を手で摩りながら部屋を出た。
いつもは思わないけど、今日はもう一度寝たい気分だ。
「あ、おにいはんおはほう」
一階に降りると咲が口に何かを入れたまま挨拶をすると、ペッと吐き出す。
あぁ、歯磨きしてたのか。
あれ、今日は部活ないのかな?
「咲、おはよう。今日、部活は?」
「テニス部の顧問の先生が大けがしちゃって当分休みみたい」
「そうなんだ」
「先生には悪いけどラッキーって感じだよ。うちの部活休みなしなんだもん」
「咲、頑張ってるね」
咲は文句を言いながらも毎日部活をしている。
この前、犬子ちゃんに聞いた話だと咲はテニス部のエースらしい。
確か、中学生の頃は全国でベスト4になったらしいし。
そう考えると咲って凄い。
「お兄ちゃん。今日は家にいるの?」
「うん」
『今日は』というか、天美さんに誘われてファミレスに行った時以来、遊びで外には出ていない。
「じゃあさ! 一緒に遊ぼうよ! その、お兄ちゃんが嫌じゃなかったらだけど……」
「うん。一緒に遊ぼ」
僕は微笑みながら答えた。
「マジで……天使」
いつも通り、咲がよく分からない事を言うのは置いておいて僕は歯を磨いて朝ご飯を食べた。
朝ご飯を食べ終わり、咲と二人で何をしようかと色々探していると、TRPGというものの本が書庫から出てきた。
「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム?」
「何それ」
「えっと……。あ、これいいかもよお兄ちゃん!」
「何が?」
咲がテーブルトーク・ロールプレイングゲーム、通称TRPGの説明を読んでくれた。
簡単に要約すれば、ゲーム機やコンピューターを使わずにサイコロとシナリオを用意て、人との会話でクリアを目指し進めていく対話型のゲーム。
メモなんかも必要みたいだが、そこは記憶力で何とかできそうだ。
一時間ほどルールを確認した。
「うん、ルールは大体分かった!」
「やる?」
「うん! これならお兄ちゃんも出来るし!」
咲、本当に優しい。
僕は咲とTRPGで遊んだ。
始めてプレイしたシナリオは密室に閉じ込められ脱出するというものだった。
単純なシナリオだけど、難易度は中々高かった。
このゲーム、運要素が強い。
「脱出。お兄ちゃんクリアだよ!」
「……危なかった」
「あはは、お兄ちゃんの強運がなければクリアできなかったね」
僕はお腹が空いている事に気づく。
熱中しすぎてお腹が空いているのにも気づいてなかった。
「お兄ちゃん。そろそろお昼食べよ」
「うん。お腹空いた」
「そうめんにするつもりだけどいい?」
「うん。大丈夫」
咲が料理を作りにキッチンに行く。
最近気づいたけど、咲は料理が上手だ。
将来、素敵なお嫁さんになるね。
咲、声可愛いし、優しいし、料理できるし……もしかしたら、もう彼氏とかいるんじゃないかな?
「咲」
「ふんふふーん♪ どうしたのお兄ちゃん?」
「咲、彼氏いるの?」
「えっ……?」
咲の方から鉄製の何かが落ちる音がした。
え、どうしたんだろう。
もしかして、聞いちゃダメなやつだった?
「え、あ、今は、居ないよ。今は!」
「今は?」
「えっと、彼氏、募集中ってこと……」
「募集中なんだ……」
確かに、咲が男の人と喋ってるの聞いた事ないし、もし彼氏がいたら折角のお休みを僕なんかと一緒にいないか。
咲、モテそうなのに……もしかして、咲って好みが凄い厳しかったりするのかな。
「咲の好みの男性ってどんなの?」
「あぁ、うんとね。黒髪で、肌が白くて、顔が整ってて」
「うん」
「身長は少し低めで、クールな感じで。でも、可愛さもあって」
「うん」
「とっても、優しい人……」
「……そんな人、いる?」
「いるの!!」
咲の好みはやっぱり厳しかった。
僕と咲はそのあとも談笑をした。
お昼ご飯を食べ終わると一緒にラジオを聞き始めた。
ラジオを聞いていると、家のチャイムが鳴る。
「ん、宅配かな? ちょっと出てくるね」
「うん」
咲が玄関に行き、戻ってきた。
「なんだった?」
「んー、お兄ちゃん宛に手紙。差出人は……神ヶ埼天美? お兄ちゃんの知り合い?」
「天美さん……。ごめん咲、読んでもらっていい?」
「え、うん」
咲が手紙を読み始める。
「『この前はありがとう。お礼に送ります』だって」
「え、それだけ?」
天美さんにしては淡白すぎる。
あの事件の日の次の日、お見舞いに行こうと天美さんにどこの病院なのか聞いたら『もう退院したよぉ』と言われた。
「えっと、一緒に何か入ってる……ってお兄ちゃん! 凄いよこれ!」
「え、何?」
「草津温泉! 三名様ご招待券!! だってさ!」
次回から温泉編です。
サービスシーンは……ないです!!




