おかしな強盗
「__健斗ちゃんって結構焼けてるよねぇ」
「まぁ、結構外で運動したりするしな。てか、お前の方が肌黒いじゃねぇか」
「私のは焼けてるとかじゃなくて遺伝だからね~。日本とエジプトのハーフだから私」
僕は天美さんおすすめのハンバーグ定食を食べながら二人の話を聞いている。
ハンバーグ定食、凄く美味しい。
最近はフォークやナイフやお箸を使った食べ方にも慣れてきた。
前までならボロボロこぼしてたけど今の僕はほとんどこぼしてないだろう。
「サトリは肌白いよな。それに綺麗だし」
「ほう?」
口の中にハンバーグを入れたまま返答してしまった。
行儀が悪い。
僕は口の中のハンバーグを飲み込む。
「おう。神ヶ埼もそう思うだろ?」
「え、あ、うん。そ、そうだねぇ。サトリ君の肌は、綺麗だと思うよぉ」
「あ、ありがとう」
僕も天美さんもさっきのトイレのせいで円滑に会話できない。
「……なぁ、サトリに神ヶ埼」
「な、なんだい~?」
「なに?」
「お前ら、トイレ行ってる間に何かあったのか?」
「「……」」
健斗の鋭さってホント凄い。
鋭すぎて切れちゃいそうだよ。
「図星か……。トイレから帰ってきてから様子おかしかったしな。別に言及しようとは思わないが、神ヶ埼がサトリに何かしたなら殴るからな?」
「こ、怖いよ~。健斗ちゃんどんだけサトリ君の事好きなのさぁ」
「べ、別に好きとか、そんなんじゃねぇよ!」
「嘘はいけないよ~。好きなんだろぉ」
凄い。天美さん、自分のペースに持っていった。
「サトリ君も健斗ちゃんのこと好きでしょ~?」
「え、うん。好きだよ」
「え……」
「さ、サトリ……」
え、なんでそんなビックリしたような声出すの。
そりゃ、健斗は僕の親友だし、好きに決まって……。
あ、もしかして、今の『好き』って『恋愛的感情の好き』って事!?
「ち、違う。恋愛感情とかじゃなくて友達として。友達としてだから……!」
その、恋愛とか僕分からないし。
それに、健斗の事は親友だと思ってるし。
恋愛感情はない。
健斗も、友達からいきなり告白みたいなことされたらいやなはず。
「ですよねー……」
「もぉ、びっくりしちゃったよぉ」
「そもそも、俺って最近までサトリに男だと思われてたし。だから、今からだし」
「先は長そうだねぇ」
「うぅ……」
え、なんで健斗、そんな落ち込んだ声だすの。
僕、悪い事言った?
「ねぇ、健斗。なんでそんな落ち」「__強盗だぁ!!!!」
え?
ファミレスの入口の方から女性の大きな声が聞こえてくる。
今、強盗だって叫んだよね。
「来た……」
天美さんが小声でそう言ったのが聞こえた。
「ん、なんだ?」
健斗も僕と同じで状況が掴めていない感じだ。
「私は強盗だぁ!!!」
ご、強盗、本当に強盗なの!?
女性がそう言うと大きな爆発音のようなものが聞こえる。
僕はビックリして耳を塞ぐ。
「抵抗すれば撃つぞぉ!!」
「キャーーーー!!」
男の人の甲高い叫び声が聞こえてきた。
いや、男の人がキャーはないよ。
でも、今の悲鳴からして本当の強盗っぽい。
「マジかよ。こりゃ、ヤバいな」
「そうだねぇ。強盗ヤバいねぇ」
「なんだ。随分落ち着いてんな」
「お互いさまだよぉ」
二人とも、落ち着きすぎ。
さっきの爆発音、多分銃の音でしょ。
もう少し怯えたりしようよ。
「そこ、うるさいぞぉ!! 丁度いい! お前、人質にしてやる!!」
健斗達の声が強盗に聞こえてた様で犯人がこちらに近づいてくる。
これ、まずくない!?
「うわぁ」
「な、神ヶ埼!」
「助けてぇ~」
あ、天美さんが人質にされたみたいだ。
でも、天美さん落ち着いてる。
それに、いつも通りの作った話し方だ。
「助けてぇ、ままぁ」
「うるせぇ黙れ! 殺すぞ!」
「だーれーかー」
というか、天美さんの話し方がいつもよりわざとらしい。
もしかして、本当に焦ってるのかな。
本気で焦ってる人の話し方とか聞いた事ないし、もしかして人って本当に焦ったらこんな感じになっちゃうのかな。
これ、助けたほうがいいよね。
でも、強盗の成功率って30%以下ってラジオで聞いた事あるし、僕が何かしてもかえって危ない気が。
「チッ! 暴れるな!!」
バスンという爆発音と共にグチャっと聞いた事のある嫌な音が聞こえてきた。
この音は、肉が抉れる音だ。
「うっ……!?」
「か、神ヶ埼!!」
僕は健斗が叫んだ瞬間、左目を開けた。
目を開けると目の前には、足から血を流している天美さんと黒い服を着てマスクにサングラスをした女の人がいた。
黒い服を着た女性の手には拳銃のようなものが握られており、その拳銃からは煙が出ていた。
そして、女性の顔には
『ご、ごめんね! 天美ちゃん、後でちゃんと治すから!』
と、書いてあった。
ど、どう言う事。
この拳銃持ってる人、強盗犯だよね。
なんで、天美ちゃんの名前知ってるの。
僕は状況の理解が出来ずに天美さんの顔を見る。
『い、痛い! すごく痛いです先輩!! やばい、これ気失いそうです。こんな状況で思考抑えるとか無理!! あぁ、サトリ君めっちゃ見てるし、計画失敗じゃないですか。あはは、サトリ君~元気~。見てるぅ? ダメだ。痛すぎて頭おかしくなってきた。いくらリアリティ出したいからって実際に撃つのは反対だったんだよ! 撃たれる身にもなれよ!!』
天美さんの顔の文字は次から次へと変化していく。
取りあえず、凄く痛いのは分かった。
「てんめぇ!!!」
「うぼしっ!!?」『な、何!?』
健斗が強盗犯の顔を蹴り上げた。
健斗の蹴りが顎に激突した強盗犯は後ろに倒れてしまう。
倒れる強盗犯に引っ張られ、足を撃たれている天美さんも倒れてしまう。
強盗犯は脳震盪を起こしたのか気を失ってしまっている。
「な、何するのよ!?」『し、死ぬかと思った』
しかし、健斗の蹴りで気を失ったはずの強盗犯が平然と起き上がる。
そして、蹴られたはずの顎にはかすり傷すらついていなかった。
「な、外した!?」『いや、確実に当たってたはずだ』
「いきなり、人の顎に蹴り入れるとか何考えてんのよ!?」『漏らしちゃうかと思った』
「強盗犯がそんな事言ってんじゃねぇよ!」『なんだよこいつ、さっきと喋り方が違う?』
あ、そう言えば喋り方が違う。
さっきよりも女性らしい声になってるし。
いや、そんな事より天美さんを起こさないと。
僕は強盗犯を健斗に任せて倒れている天美さんの方を向いた。
『まずっ、無理。立てないって。痛すぎ。サトリ君。お願いだから。強盗に強盗やめるように言って』
え、それってどういう事。
『そしたら、全部終わるから。お願い』
わ、分かった。
僕は天美さんから目を離し、強盗犯の方を見た。
強盗犯は健斗と言い合いをしている。
というか、人が銃で撃たれてるのにお店にいる人だれも取り乱してない。
最初の発砲音で悲鳴を上げた男性も黙っている。
僕は少し不思議に思い横目でチラッと周りを見た。
すると、不思議な事に周りにいるお客さんは全員、僕たちから顔を逸らしている。
「サ、トリ君……」
「あ……」
そうだ。取りあえず天美さんのお願いされたことをしないと。
「あ、あの!」
僕は少し恐怖を感じながら強盗犯に話しかけた。
「な、なに!?」
「強盗は、ダメだと思います!」
「……」
こ、これでいいのかな。
健斗が『どうしたサトリ』って思いながら、僕の方を見てる。
だよね。こんな事を強盗に言っても
「そうだね。私、間違っていたよ」『その言葉を待ってました!』
「え?」
「は!?」
強盗犯は僕の一言で改心してしまった。
流石に驚きだ。
そして、健斗は僕以上に驚いている。
「強盗なんて、最低の行為だ。私、自首するよ!!」『やっと、終わる』
そう言って、強盗犯は隣で倒れている天美さんを担いだ。
「この子は私が責任もって病院まで連れていくから!」『早く治してあげないと』
「ま、何を……」『こいつマジで言ってんのか』
健斗が止めようとしたが、強盗犯は物凄い速さでファミレスを出ていってしまう。
強盗犯に担がれた天美さんが何かお札みたいなものを持っているのが見てた。
健斗は物凄い速さで出ていった犯人を追いかけてファミレスを出ていってしまった。
「ど、どういう事なのさ……」
その後、僕が何もできずにファミレスで待っていると健斗が息を切らして帰ってきた。
健斗は悔しそうな顔で「追いつけなかった」と言った。
しかし、その数分後に僕と健斗の携帯にメールが来る。
そのメールは天美さんからの物で内容は
『今、病院だよぉ。サトリ君と健斗ちゃんのおかげで死なずにすんだよぉ。本当にありがとうねぇ。お礼はまた今度するからねぇ』
なんだか、ここ数年で一番おかしな出来事だった。
僕と健斗はファミレスの中でしばらく放心状態になった後、警察が着て事情聴取をされた。
警察さんの話によると本当に強盗犯は自首したらしい。
事情聴取が終わるころにはすっかり日が暮れており、帰ると先に帰宅していた咲に泣きながら心配された。
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