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男子演劇部の王女様

 __お昼休みも終わり、五時限目と六時限目の授業を受け終わった僕は帰る準備をする。


「ふいー、めんどくせぇ授業が終わったぜぇ」

「……健斗ってさ」

「ん?」

「よく五組に入れたよね。勉強とか苦手そうなのに」


 健斗の口癖は「めんどくせぇ」だ。

 そんな健斗が成績上位者しか入れないこのクラスに入っているというのは不思議だ。


「にしし、俺は基本的に何をやってもできちゃう天才型だからな!」

「それ、自分で言っちゃうんだ……」


 天才型か、羨ましいな。

 僕は結構必死に勉強してこのクラスに入ったんだけど……。


「どうだ、すげえだろ?」

「うん、健斗すごい」

「う、そんなに素直に言われると、照れるぜ……にしし」


 健斗は照れくさそうにそう言った。

 照れている健斗の姿を想像したらなんだか可愛くて僕は少しだけ微笑む。


「あ、そうだ! サトリ途中まで一緒に帰ろうぜ!」

「うん、いいよ」


 「よっしゃ」と健斗は喜んだような声を出す。

 健斗の喜んだような声を聞くと僕は嬉しく思う。


「じゃ、校門で待っとくからサトリも早く準備終わらせろよ〜」

「分かった」


 僕がそう言うと健斗の足音が遠ざかっていく。

 待たせるのも悪いので僕は急いで準備する。


「__三河サトリはいるかー!!」

「?」


 僕が準備を済まし立ち上がるとクラスの入り口の方から聞いたことない声の人が僕を呼んだ。

 聞いたことのない声に僕は首を傾げる。


「ねぇ、あれって」

「うん、男子演劇部の部長でこの学校の王女様こと月丘つきおか千琴ちこと先輩ね」


 近くの席の女子の会話が聞こえてくる。

 月丘つきおか千琴ちこと先輩? 僕は記憶を探るがそんな名前の人と関わった記憶など一度もない。


「三河君、月丘先輩が呼んでるよ……」

「あ、うん」


 近くの席の女子に言われて僕はとりあえず行かないととクラスの入り口の方に向かう。


「おぉ! 君が三河サトリ君か!!」

「はい、僕が三河サトリですけど……月丘先輩ですよね?」


 そう問うと僕は手を握られたような感触を受ける。


「ふふっ、君のような美しい子が私の名を知っていてくれるなんて感激してしまうよ」

「ん?」


 握られた感触を受けた僕の手が動かされ、僕は手の甲に柔らかい物が当たるのを感じる。


「ね、今の見た!?」

「見た見た! 月丘先輩サトリ君の手の甲に……」

「キスしたね……」


 あ、なんだ。キスされたのか……ってキス!?


「え!?」

「おっと、動揺した顔の君も可愛いじゃないか」


 き、キスってチューとか接吻の事だよね。

 僕は動揺を隠せずキスされたという自分の手の甲を顔の前に持ってくる。


「流石、学園の王女様……男子なのに女子より女子らしいね」

「えぇ、女々しいってああいう人の事を言うのね」


 王女様ってこの人、声からして男の人だよね。

 それに女々しいって本人の前でそんな堂々と言っていいのかな。


千琴ちこと様、そろそろお時間の方が」

「あ、そうだったわね」


 月丘先輩だけだと思っていたら後ろにも誰かいたようで月丘先輩の後ろから声が聞こえた。


「ねぇ、あの人も確か」

「私達より一つ下の一年生だけど、その実力を月丘先輩に買われ男子演劇部の副部長に就任した若き天才の天海あまみ悠斗ゆうと君ね」

「すごいよ! あの二人が一緒にいるのってかなりレアなんでしょ?」

「普段は別々で仕事をしているらしいからね。一緒にいるのはファンクラブの子たちでも滅多に見れないって聞いたことある」


 僕の席の近くの子たちの話が聞こえてくる。

 あの子達、もう少し小さい声で喋ったほうがいいんじゃないかな?

 それにしても、男子演劇部の部長さんと副部長さんか。

 一体なんの様なんだろう?

 僕、健斗待たせてるから早く行きたいんだけどなぁ。


「突然で申し訳ないんだが三河サトリ君、私達は君を我が男子演劇部に勧誘しに来たのだよ!」

「あー、すみません」

「そうだろう、そうだろう。君の驚く気持ちはよくわか……今何と言ったのかな?」

「えっと、友人を外で待たせているのでまたの機会にと」


 正直、演劇とか興味ないしなぁ。

 そんな時間があったら勉強をしないとだし。

 僕が丁重に断ると月丘先輩が黙ってしまった。


「み、三河君、断っちゃったよ」

「それも、即答だったね」

「健斗ちゃんを待たせてるからってあんなにあっさり断るだなんて……三河君大物になるね」

「ま、まずいんじゃない? 月丘先輩と天海君、男子演劇部のエース二人直々の勧誘をあんなにきっぱり断るだなんて……特に月丘先輩、勧誘した時すごい余裕そうな顔だったし、プライドズラボロ……」


 だから、そこの女子三人は声を押さえたほうがいいってばっちりここまで聞こえちゃってるから。

 見えないけど月丘先輩のいる方向からなんか悲しみの念みたいなのが漂ってきているよ。


「なんで?」

「えっと、だから外で友人が待ってるから」

「それって私達との話より大事?」

「えー、そうですね」


 僕がそう言うと月丘先輩が泣き出してしまった。


「えっ、ちょっと月丘先輩、泣かないで……」

「うわぁぁぁん、いやだぁ私達と演劇部入ってよぉ! じゃなきゃやだぁ!! うえぇぇぇん!!」

「え、えぇ、そんなめちゃくちゃな……」


 地団駄を踏んでいるのか振動が僕の足にも伝わる。


「はぁ……千琴様、もう時間です」

「嫌だ嫌だぁ! サトリ君と演劇やるんだぁ!!」

「ほらっ! わがまま言ってないで行きますよ!」

「うわぁぁぁ悠斗のバカァァ!!」


 ズルズルと何かを引きずる音とともに月丘先輩の泣き声も遠ざかって行く。


「あ、三河先輩、最後に一つ」


 ズルズルと何かを引きずる音と月丘先輩の泣き声が遠ざかるのが止まり天海君が僕の方に声を掛ける。


「この借りは必ず返します。それでは__」


 天海君はそう言うとまたズルズルと何かを引きずる音と月丘先輩の泣き声が遠ざかっていく。

 僕は遠ざかっていく音の方を向いて首を傾げる。


「なんだか、おかしい人たちだったなぁ……」


 僕はそう言って健斗が待っている校門に向かう。

「これはスクープ……」

「私達、新聞部!」

「こ、これは記事にするしかないね」


 サトリが教室を去った後、サトリの席の近くにいた女子三人組の所為で今日の出来事が明日学校中に広まる事をサトリは知らない。

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