救出
手足は縛られて使えない。
正直、寝てる体制から起き上がることも出来ないと思う。
何とか腕を縛ってるロープさえ外せれば。
僕は左目で周りを見る。
しかし、いくら見渡しても腕のロープを外せるものはない。
どうしよう。早くしないと誘拐犯が戻ってくる。
一分二分三分と、どんどん時間が過ぎていく。
次第に僕の心拍数が上がっていく。
打つ手がない。そんな状況で今まで冷静な振りが出来てただけ褒めて欲しい。
本当は怖くて仕方ない。
そもそも、なんで犬子ちゃん達の家族の人が僕を誘拐するんだ……。
やっぱり、僕の力目当て……?
僕は歯を食いしばる。
また、またこの能力のせいで一人ぼっちになるの?
折角、咲やお母さんとも仲良くなれて友達も沢山できたのに……。
こんな、望んでもいない力のせいで!!!
ルームミラーに映る自分の顔。
父親に似た顔立ちで母に似た目。
最悪な力を宿してる目なのに、なんでこんなに嫌いになれない色をしてるんだよ。
左目から涙がボロボロと溢れる。
「なんで、ごんな゛目なんだよぉ゛……ッ!」
下唇を噛んで涙を抑えようとするが止まらない。
まるであの日みたいだ。
「こんな目、本当に見え無くなればいいのにッ……」
防音の車内。外にこの声が聞こえる事はない。
きっと、誰かが助けてくれる確率なんてない。
「サトリッ!!?」
僕がもう諦めるしかないと思った瞬間。
車のドアが開かれる。
車のドアを開けたのは誘拐犯じゃない。
「ほ、本当に居たっ!! 大丈夫かっ!?」
そこに居たのは聞き覚えのある声をしたポニーテールの美少女だった。
「健斗ちゃん早い……」
「全くだよぉ。本当に人間?」
「そんなアホ言ってる場合か!! 見ろ。サトリが居たぞ!」
「お、ホントだぁ。元気かいサトリ君~……って、そんな訳ないよね」
「ごめんね。サトリ君……」
やっぱり、ポニーテールの美少女は健斗だった。
じゃあ、褐色の肌に白髪のセミロングで明るい笑顔を向けてくれてる女の人が天美さん。
その横にいる小学生くらいしか身長のないクセのあるショートボブの女の子が犬子さん。
「涙を流して、よっぽど怖かったんだな。サトリ今縄を解いてやる」
『サトリが無事で本当に良かった』と健斗の顔を見ると書いてある。
「ほら、解けたぞッ!!?」
「えっ」
「サトリ君……」
僕は自分を縛られている縄が解かれた瞬間、健斗に抱き着いた。
安心したからか一度止まった涙が再び溢れてくる。
「ありがどう、げんどッ__!!!」
「なっ、えっ、おう……」
「ありがどう!!」
男として女の子に抱き着いて泣くなんて情けなくて仕方ない。
でも、今はこうする以外に何もできない。
感情よりも気持ちが体を動かしてる。
「あらら~、健斗ちゃんだけ役得だぁ」
『幸運能力符を使ったから大丈夫なのは分かってたけど……本当に良かったよ』
「うん、少し嫉妬」
『私の身内のせいでサトリ君に怖い思いをさせちゃった……。嫌われたら、どうしよう……』
二人とも、僕を落ち着かそうといつも通りの感じにしてくれてるけど今は分かるよ。
二人とも僕の事を凄く心配してくれてた。
僕の事を心配して探しに来てくれた人が三人も……。
こんなに、こんなに嬉しい事はない!
「三人とも……本当に、ありがとう」
涙は止まったがまだ少し鼻声だ。
恥ずかしいと思いながら、僕は健斗から離る。
抱き着いていたから見えなかったが健斗の顔は真っ赤だった。
も、もしかして怒らせちゃった……?
『落ち着け! 落ち着け! 落ち着け! 落ち着け!』
やっぱり、かなり怒らせちゃったみたいだ。
謝らないと……。
「け、けん__」
「あら……、出ちゃってるわ」
後ろから僕を誘拐した女性の声が聞こえる。
僕は咄嗟に振り返った。
振り返るとそこにはやはり僕を誘拐した女性が居た。
車に乗ってる時は細かく見れなかったが黒いジャージのような服を着ている。
ボサボサの髪をペアピンで無理やり止めている感じだ。
そして、その容姿は美女という言葉が適当だろう。
「なぁ、サトリ……。あいつがお前を攫った犯人か?」
「え、うん」
その瞬間、健斗の表情が先程までの優しいものではなく怒りに染まったものとなった。
『ぶっ殺す』一瞬だがそう書いてあるのが見えた。
「ウラァッ!!」
「うおっ!?」
健斗が目にも止まらぬ速さで誘拐犯に蹴りを入れようとした。
しかし、誘拐犯は驚きながらも後ろに下がり蹴りを避けた
「なんでッ! サトリを攫った!」
「それっ!? 殴りながらじゃないとッ! 聞けないの!?」
健斗はこぶしや蹴りを誘拐犯に食らわせようとしている。
「健斗ちゃん。そんな奴ぶっ飛ばせ」
「当たりっ! 前だッ!!」
あれ、犬子ちゃん笑ってる。
そんな笑っている犬子ちゃんの顔を見ると『ぶっ飛ばせ! ぶっ飛ばせ!』と書いてあった。
「ちょっ!? 犬子! そこはお母さんをッ!! 応援してよ!!」
「ッ!?」
お、お母さん!? 誘拐犯が、犬子ちゃんのお母さん!?
健斗も驚いた顔で攻撃の手を止めている。
というか、犬子ちゃんさっき心の底からぶっ飛ばせって言ってたよね。
お母さんなのに!?
「私の母は誘拐なんかしない」
「誘拐……はっ! ウラァッ!!」
「ちょっ!?」
健斗が止めていた攻撃を再度開始する。
犬子ちゃんのお母さんは健斗の攻撃を紙一重でかわしている。
どっちも凄すぎて目で追えない。
「分かった! お母さんが悪かったから! このお友達止めて!」
「もう、映画とかの影響受けてこんな事しない?」
「しませんっ! しませんからぁ!」
「分かった。それじゃあ、サトリ君」
「ん?」
犬子ちゃんが僕の耳元で囁く。
どうやら、僕に健斗止まってと言って欲しいらしい。
そんなので止まるのかな?
「健斗、止まって!」
僕がそう言った瞬間、健斗の手がピタッと止まる。
健斗の手はあと数センチほどで犬子ちゃんのお母さんに当たる所だった。
「なんだ。サトリ?」
「もう、いいから喧嘩はやめよ」
「ぐっ……。サトリがそう言うなら」
「た、助かったわぁ……」
犬子ちゃんのお母さんはその場にへたり込む。
「いやぁ、健斗ちゃんは本当に人間か怪しいよね。サイボーグとかなんじゃないかな?」
『いや、割とマジで』
あはは、流石にそれはないよ。
ねぇ、ないよね? ないと思う。
なかったらいいな。
「それじゃあ、お母さん。なんでこんな事したか、話して……」
犬子ちゃんがお母さんに向かって凍り付くように冷たい視線を送る。
そんな犬子ちゃんを見てお母さんは「あは、あはは」と苦笑いしている。




